妄想劇場 (22)

2009年12月 4日 (金)

妄想・Two of a kind

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※このレビューはあくまで、管理人と皆様の妄想に於いてのみ、成り立っております。どうぞご了承くださいませ。

兄・・・倒産しかかったアイス屋社長ジンテさん。(チャン・ドンゴン)

弟・・・兄を助けようとしてどっぷり闇社会にスカウトされちゃった鉄砲玉ジンソクさん。(ウォンビン)

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“ごめんなあ、ジンソク、オレがふがいないばかりに結局オマエに苦労をかけた。オレはオマエに山ほどアイスを食わせてやりたかっただけなんだ。だけどそれで商売上手くいくほどやっぱり世の中甘くなかったさ・・・”

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“兄さん、ゴメン・・・・オレがサンゴン毒蛇親分なんかに金借りたばっかりにこんなことになって。

オレ、兄さんのアイス大好きだったよ。甘さ控えめ豆腐味ってのはいまひとつイケてなかったけどさ・・・。”

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    “兄さん・・・うちへ帰りたい・・・・”

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    “ジンソク、オレもうちへ帰りたい・・・・”

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        ※注・サンゴン毒蛇親分は出演しません。coldsweats01

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すんませんすんません・・・この二人が揃ってるとついこんなことして遊びたくなるワタクシを見逃してくだせい・・・smile

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はい、ほんとは4人様競演でございます。だいぶメディアにも乗っていますね。

そいういえば、夕方の地上波@関東、水戸黄門のあとになんと「冬ソナ」が始まったのには驚きました。すごいなあ・・・(夏休みは「チャングム」でした・・・。)

冬には永遠に皆の頭の中でループするあのテーマ、何度も見たのについ気になってしまうあのシーンの続き・・・ヤバい、ヤバいですから。(笑)

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        ※ジンテ兄さんたらっ、みちみちペコちゃんですよ・・・coldsweats01dog

2009120411 レビューとはまったく関連はありませんが、最近ツボったCMがこの「太麺ず」^^;キレの良い踊りがサイコーっす。動画はこちら

本当の力士の皆さんも踊らせたら動きは良さそうですが、ちなみにこのメンバーはオーディションで選りすぐり、お歌も本家モー娘が歌っているそうな。            

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2009年10月23日 (金)

『Yの日記』その⑤・釜山編

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※このレビューはあくまで、管理人と皆様の妄想に於いてのみ、成り立っております。どうぞご了承くださいませ。

私たちはよく晴れた秋の朝、意気揚々とFの運転するスタークラフトに乗って出かけました。
目指すは釜山、レッドカーペットに向けて、衣装その他(含・私Y)の準備にぬかりはありません。

大きな声では言えませんが、車の中のジャージ姿を見れば、いつものことながら男の普段とは、大韓民国イチの花美男であろうと、隣の野郎であろうと、ナサケナイ部分に大差はないのだとちょっとだけほっと致します。

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朝が早かったので、高速に乗るといつものようにこの人はスグ、後部座席で寝息を立て始めましたが、最近妙に貫禄の付いてきた後輩のFが、サービスエリア近いっすけどどうしますか?と私に訊く声ですかさずパッチリと目を開けるのでした。
甘い誘惑“オヤツ”の言いわけは、 「食べられる時に食べておかないと、次いつ食べられるか分からないからネ。」または「皆と一緒でないと、寂しい。」です。困ったもんです。

Fに貫禄がついたのも、私の腹が集中的にぽってりなったのも、まあそういうわけです。

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映画の撮影中から禁煙を始めたこのひとは、食べるもの食べるもの皆美味しいらしく、オマエも煙草をやめろと薦めます。まったく悪気はないのであの目で見つめられると・・・折れてしまいそうです。ゴホン。(煙草は個人のスタイル、ですからっ。)

平日のサービスエリアは意外なほど人が少なくて助かりました。フランクフルトだの、ホットクだの、フナ焼きだの、生ジュースだの、アイスだの、こういうときのFもまたさすがにぬかりはありません。(よしよし。)

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開幕式のレッドカーペットに先だって、新作映画のプレス試写と記者会見がありましたが、概ね評判も良く第一関門は抜けたと、タキシードに着替えるころには朝っぱらのジャージ姿が嘘のような、当夜一番の美丈夫っぷり。

大歓声の中赤絨毯の上を進む背中を見送りながら、私もこの数年の忍耐に思いを致し、ついつい鼻の奥がつうんとなったのは内緒です。

嗚呼、私のお守りしてきたこの人は、こんなにも愛される存在であったんだと目の当たりにすることは、マネージャー冥利に尽きます。私も大韓民国を代表するマネージャーとして、もっとFを鍛えよう、と思いも新たにするのデシタ。

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余談ですが、このひとは夏の終わりに髪を切りました。何かと楽になったと当人上機嫌ですが、ヘアメイクさんについでをお願いすると私たち三人、髪の立ち方が気がつけば一緒なんです。

とくにFはこの髪形のおかげで、間違いなくオトコマエ度があがったと思われ、私はちょっと複雑です。普段の格好もこの人モドキなジャケットスタイルにジーンズで、どっかのかけだし役者みたいですが、私だって負けません。オシャレなら、ふれっぴ~に限ります。(鼻息。)

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映画のPRと一口に言っても、この人のためには媒体や露出度、タイミングなど、シッカリと方法を選択する目が必要なのです。

200910231_3 私も気が抜けません。携帯も手放せません。宿泊先のホテルのロビーを、いつものようにひっきりなしの取材の打ち合わせ電話をしながら歩いていたら、柱の陰で「あ」という声が聞こえたような気がし、つい反射的にそちらを向いてしまいました。

その時目があった日本人のお姉さん二人の口が揃って「あ」の形に開いていました。私が誰なのかキッチリ分かっているようでした。

私も、自分のマツゲが思いっきり、きゅーぴー人形状態にそっくりかえっているのを自分で感じました。

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ウッカリ不意を突かれてしまいました。
・・・・ちょっとだけどきどきしたのは、内緒です。

(私のことはさておき)何処へ行っても人に取り巻かれ、それでも穏やかな目で笑うこの人が誇らしい限りです。これからもこの人の盾になり、うしろを守り、輝かせることを心に誓う釜山の夜なのでした。

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*『特別付録・Fちゃんのロードマネージャー日記』*

はじめまして、Y先輩に可愛がられて最近一回り大きくなったFと申します。まだまだ駆け出しのロードマネージャーです。

秘密厳守で銀行振り込みから新しい携帯の契約(含・使い方伝授)、i-podのダウンロード、お買い物、付け届け(嘘です。笑。)事務所を訪ねてきたファンの応対、いっしょに記念撮影までなんでも対応可です。

いずれ自分もY先輩のように堂々と、あの人をお守り出来るよう精進いたします。(今でも緊急時には担いで逃げられます。カラダには自信があります。)どうぞ御贔屓のほどよろしくお願いいたします。

釜山ではドコでどんな目に見られているとも限らないので、自分も思い切ってスーツを新調しました。野外ステージのイベントの時に、愛用のサングラスに不具合が生じたあの人が、大きな瞳で(無言で)呼んだので、自分が回収に出ました。皆さんの視線を痛いほど背中に浴びててビビりました。Y先輩の余裕はヤッパリ数々の修羅場の賜かと、改めて心を引き締める自分なのでした。

・・・・で、サングラスなんですが、レンズがぽろんと外れたのは、車の中で先輩がシートに放り出されたパーカーの上にうっかり座ったあのときフレームがちっと歪んだせいではないか、と自分は思うのですが・・・・それをバックミラーで目撃していたことは、内緒です。

(えいっし!と独り言も言っていました。)

追伸・自分の次なる密かな野望はY先輩と一緒にマスコミの写真のあの人の後ろにさりげなく写り込むことです。^^

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さらにおまけ。今日の始球式の様子です。大統領ぉ~、肩の調子はいかがデスか~~??

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・・・・・・主審のおじさまが妙にウレしそうなんですが。(笑)

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おおお~~~っ!!とりあえず、なんかすごく絵になってますで、大統領!

 *「グッドモーニング・プレジデント」は初日13万人の動員だそうです。この週末もそのまま突っ走って下さい!^^*

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2009年7月 7日 (火)

『Yの日記』その④

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※このレビューはあくまで、管理人と皆様の妄想に於いてのみ、成り立っております。どうぞご了承くださいませ。

200907051 そもそも私の仕事の基本は「お守りする」これ以外ないはず。

覚束なく心もとなく手探りでこの仕事を始めたときから今日まで、この考えは変わっていないつもりです。しかし私も所詮一介のつまんない男・・・などと、ついつい忸怩たる思いを抱くことがあります。

たまにですけど。なんといっても、隣にいる人がヒトですから。

そうなんです。世間にはこの人だけが注目されているのだから、例え隣にいる私がどんな顔をしていようと、どんな格好だろうと、当初はどうでもいいと思っていたのです。

ところがどうしたってこの人と一緒に、証拠写真のように写ってしまうんです。ちゃんとしたマスコミに挙がったものから、ファンの皆さんのお撮りになったものまで。

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※この日は10月というのに夏のように暑い日でした。この人が冬の重装備の衣装を着せられ、布団蒸し状態になって遠い目をしているというのに、嗚呼私としたことが、呑気にTシャツ一枚でるんるんと。coldsweats01

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※ちょっと気の迷いで髪を伸ばそうとしてました。すみません、すみません・・・(何考えていたんだ?私・・・)coldsweats01coldsweats01

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※中国のメラメラくん(左)に負けております。とほほ・・・・(だめじゃないか、自分。)coldsweats01coldsweats01coldsweats01

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           ※寝起きです。寝癖です。眠いです。

嗚呼、あらぬ方向を見ている瞬間の自分、つい呑気そうに見える自分、眠くなっている自分、寝起きがバレバレの自分・・・・キイっとなったのは、中国のボディガードのイキオイに負けて挙動不審な顔に写っているのを見たときです。

いかん!こんなことでは!!

ココロの底で私は密かに葛藤しました。
隣にいるこの人、大韓民国の宝といわれるこの人(が例え時々どんなにぼ~~っとしているように見えても。)をまがりなりにも一番近くでお守りするに相応しいshine「品格」shinewave「貫録」fujiを身に付けることこそが私の務め。

        200507059

そう固く決心して努力して参りました。
不測の事態に備え、最速の対応も可能の「お運び体勢」はいちど皆さんにお見せしたいくらいです。(言っておきますが、後輩はマダマダです。)真ん中のお人との、まさに「あ・うん」の呼吸。

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前に出て自慢することはもとより本意ではございません。
これからもこうしてこの人の隣で、お守りする時は一歩前、そうでないときは一歩下がって仕事に励めることが何よりの光栄、それだけです。

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たまに舞台の袖から見る、ほんとうは内気で照れ屋のこの人のこんな笑顔に、つい密かに一緒になって頬がユルユルと・・・そんな顔の自分は、永遠に内緒です。

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※七部袖が好き・・・・というわけでもないんですがね。catface両肩りゅっくにビーサン、ロールアップしたでにむ。この人の撮影現場で仕入れたふぁっしょん知識はいろいろあれど、スーツ姿がもしかして一番自分、エエ男なのかも・・・と自覚した一枚。coldsweats01

        20090707

さて・・・大統領の撮影現場公開ツアー見送りのお知らせが公式に出ましたね。チョッと気が抜けてしまいましたが、時期的にいたしかたないのかもしれません。次の機会をまた、楽しみに待つとしましょう。

上のお写真は、初恋の人チェヨンさんとのシーンをモニターチェックの大統領。(P様、ありがとうございました^^。)

        

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2009年5月14日 (木)

『Yの日記』その③

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※このレビューはあくまで、管理人と皆様の妄想に於いてのみ、成り立っております。どうぞご了承くださいませ。

朝、家を出てから帰るまで、ひたすら黙々と身辺をお守りするということならば、その道のプロに厳重な身辺警護を頼むということもありましょう。
しかし、そうは行かない微妙な手加減塩加減をしつつ、ファンやマスコミに対応し細かい段取りを整え、且つ安全に物事を導く過程にこの「お守り」の重要性が問われるのが私たちの仕事であります。

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  ※いつものチョッと気の抜けたファイティン!にうしろでついついアルカイックスマイルになる私。

危険信号は突発的に点灯します。場が和んで進行していてもけして気は抜けません。しかし、ぴりぴりギスギスして「やなかんじ」ととられては、この人の評判に関わってしまいます。緊迫の表情をなるべく気取られぬよう、ウッカリ大笑いしてその隙を突かれぬよう、それこそ生え際の存亡が密かに懸かるほどの水面下の神経戦なのです。

私とて、大笑いすることはあります。しかし、それはこの人が怒るのを見るくらい、レアな場面でしょう・・・と申し上げておきます。(鼻息。)

ぽおっとしているようで、ちゃんと360度神経の糸が巡っているのがこの人なのですが、たまに不意打ちにあってしまいます。このあいだは、必死の突撃レポーターとカメラにウッカリやられました。

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     ※寄り過ぎてるなと思った瞬間レンズが大事な顔の、無防備な側面に・・・annoyannoy

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※黄色いのが突撃レポーターの背中です。必死の余り肝心のお守りの対象まで一緒くたにぜんぶ押しのけフレームインする坊や。マダマダです。

いつになく押し黙って曖昧な顔になったのを見て、いつものように私が手前に立っていればよかったと、ちょっとだけ後悔しました。やはり次からはこの私が、頭から抱きしめてでも、お守り致しましょう。必要ならば、肩に担いで逃げさせていただきますとも。(伊達に体格が良い訳ではございません。)

この人があってはじめて、夢が生まれるのです。

そんな新しい夢のひとつが、また始まりました。
新しいことが始まれば、辛かった記憶も栄光の記憶も皆等しく過去となり、人は自然に前に進むことが出来る・・・(あっ・・・どっかの受け売りです。すみません、すみません。)

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どこへだって共に参りましょう。

私も一番近くで、日々新しい世界の誕生を見ることが出来ます。心から幸せです。

このあいだ、なぜか私が昔の戦場のおどおどした新兵で、思い切り部隊長ジンテ兄さんの足手まといになり、さんざ守ってもらった挙句簡単に弾に当たってしまったという夢を見て(これは、寝ている間に見る、所謂個人のツマラナイ夢デス。)チョッと泣きました。ヤッパリ私には役者は出来そうにありません。

弟を呼んだのと同じあの声で呼んでもらったことを妙にリアルに思い出し、起きてからちょっとうっとりしたことは、内緒です。

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2009年4月29日 (水)

『Yの日記』その②

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※このレビューはあくまで、管理人と皆様の妄想に於いてのみ、成り立っております。どうぞご了承くださいませ。

昨日、大好きなご主人様にわんこが向けるようなこんな無垢な悪戯っぽい眼差しを私に向けて、この人が出し抜けに言いました。shinedogshine

「ジムとサウナ、付き合ってくれない?」

ちょっとだけ躊躇っているとさらに上目遣いになってこうも言いました。

「たまには誰かと、頑張りたいなと思ってさ。」flair

        200904288

まったく、ナニを頑張るというのでしょう。catface
私が人生で出逢った中で、これほど頑張る人も珍しいんですが。

この仕事で難しいのは、ドコまで密着するものかのあわいです。性格や年齢や生活態度、精神状態その他モロモロによって、微妙な匙加減がいるのです。マダ若輩者、こんなふうに穏やかで出来た人の担当になれて心からヨカッタ、と思ったことが何度あったでしょう。たとえ熱狂的なファンにもみくちゃになりかかったとしても、そんなのはシアワセのひとつというものです。

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※上二枚、バレエの「プリエ」・・・とは言えないポジション。(爆)しかしその場大の字飛び、頑張りマシタ!!とうっ!!!

最近芸能界を震撼させることが起こりましたが、当該俳優のマネージャーの心境を慮るに私までこめかみがきゅうっとなりました。まず当人の存在才能無くして成り立たない世界ではあっても、当人だけで仕事は出来ないのがこの世界でもあるのです。損害や影響の大きさをちょっと考えると眩暈がします。

いいオトナを紐で繋いでおくわけには行きませんし、当人のプライバシーもありますから、いつもドコでも貼り付いているのは不可能ですしありえません。

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※顎関節の稼動状況、標本写真。(笑)

ここまで考えてふと、映画撮影のために長く滞在したあのニュージーランドでの暮らしを思い出しました。

あれは、今思えば照れる男の二人暮し でした。二人分のシャツを洗い、ぱんつを洗い、靴下を洗い・・・・(照・・・)洗剤と柔軟剤の香りに気を使ったのは言うまでもアリマセン。

200904282 遠い異国で風邪なんか引かれてはと心配になり、夜中にそっとストーカーみたいに隣の部屋へ忍んで行ってオイルヒーターの位置を直し、小さな子供のオンマのように掛け布団を首元までシッカリ掛けなおし、外へはみ出た裸足の足が冷えているのに肝を冷やし。

直前までチェックしていたと思しき台本が枕のヨコに斜めになって、私はちょっとしんみりなりました。思えば二人で遠くに来たもんだ、と。

翌日食事に出て欠伸をしていたら、もしかして寒くて寝られなかったのか、風邪引かないでくれよ、独りじゃ困るから、と例によって上目遣いで大真面目に私に言うのです。思わずしらずちょっとときめいてしまったのは、内緒です。

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※もう、Yちゃんてばいい塩梅にボケてくれちゃって、控えめにお茶目なアナタの笑顔が見たかったですからっ。それにしてもお嬢様のこの天然柳腰っぷりったら、もう無敵ですね。

さて、そんな穏やかなこの人ですが、時々チョッとだけ、負けず嫌い なのが笑えます。ジムで頑張ったあと、サウナで私の腹を見ては自分と比べて鏡の前であれこれやっているのです。俳優と一般人と、はなから比べないでいただきたいものですが、ここだけの話、じつはカラダにはすこしだけ自信があります。(鼻息。)
「なかなかモリモリに割れた王の字にならなくて・・・」と呟いていましたが、私個人としては、大統領がいくら若いからといって、この人の腹にはモリモリ王の字は無くてもいいと思います。

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ほかの誰もが代われない、かけがえの無い人をお守りしながら今日もソウルの空の下、緊張したりゆるゆるしたりの時間が流れて行きます。

※元気出してキャンペーンのこのTシャツt-shirtはひょっとして、ジオダノで買えるのでしょかね?皆で揃って着てたら目立つでしょなあ。キャンペーン、プロモーションは5月6日から6月5日、とのことデス。

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2009年4月 4日 (土)

『Yの日記』

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※tartanさんの稀代の名作「キムチ兄弟」以来、ほんとうに久々の妄想劇場カテゴリーの更新です。このレビューはあくまで、管理人と皆様の妄想に於いてのみ、成り立っております。どうぞご了承くださいませ。

いったい何がきっかけで、私がこの人をお守りする仕事に就くことになったのか、今となってはもうよく覚えていません。
縁の神様のお導き、ということになるのでしょうか。

200904045 とにかく、いろんなところへ御供して行きました。アタリマエですが、この人のパスポートに押されているのとほぼほぼ同じ数だけ、私のパスポートにも出入国のハンコが押されています。

私の仕事はわが国の宝といわれる映画俳優の、マネージャーです。

何かを演じている時にはしゃっきりしていますが、ふだんは至って普通・・・だと本人は思っているようです。確かに常識人であり、吃驚するくらい気配りもし、腰も低く・・・。

しかしあまりの人の良さにうっかり拉致される危険性も無いとは言えないので、私も気が抜けません。

自分自身この人に生まれたかったかといえば、俳優という仕事の人知れない苦悩や難しさが私なりにちょっとは解るだけに、素直にウンとは言えません。
あんな顔の造作を神様から与えられたことは同じ男としては羨ましいと、たしかに昔は無責任に思っていましたけども。(移動の車の中でウッカリ、居眠り顔の睫毛と鼻筋に見とれたこともありますが、内緒です。)

200904042 いろんな人の人生を演じるのが仕事なだけに、時々同一人物とは思えないほど印象が変わって写真に写ることがあります。凄いもんだと感心しますが、それにしても普段の覚束なさ素直さは、いったいナンなんでしょう。

いつか仕事で滞在したニュージーランドのマンションで、暮らしぶり、仕事ぶりをファンに紹介する映像を撮るときに、自分の部屋はぬかりなく片付けてから、わざわざ私の「寝乱れたベッド」などを嬉しそうに撮っていそいそと「片付けるように言っておきます」とやったときにも・・・・まあちっとも、憎めませんデシタ。いいですよ、あんなことも、こんなことも、黙っててあげますとも。この人はだいたいいつもこんな、大人の男らしからぬお茶目をやって、なんとなく周囲から許されているんです。これも所謂人徳なのでしょう。

200904044 もしも私が嫁さんを貰うことになったなら、きっとこの人は家族のように夢中になって肩入れしてくれて、じつの弟さんの式の時のように泣いてくれるような気がします。
二人してあんな苦労もあった、こんなガマンもした、なんて思い出が蘇り、きっと私も・・・泣いてしまいそうです。(考えないようにしよう。)
反対に、この人にお嫁さんが来たら・・・・と今考えたら私も意外なほど動揺してしまいました。いやだなあ・・・。(照)
・・・まあ、考えてみたらこの仕事に就いてから、お互い家族よりも誰よりも長く一緒にいたんですから。

200904046 どこかから、禍々しいものがこの人に向かって飛んでくるならば、代わりに私がアタリましょう。
車に轢かれそうになったら、ドラマのようにお助けします。相手がトラックでも、バスでも、戦車でも。
仕事ですから。
この人の手は、ファンを癒すために用いられますが、私の手はあくまで、理不尽な行為からこの人をお守りするためにあるのです。

そうやってたまに一緒に写真に撮られながら頑張っていたら、なんでかときどき私にもお手紙なんかやって来るようになりました。

・・・柄ぢゃないっす。代わりに持って差し上げることもありますが、花束なんかもチッとも似合いませんから。(照×2)

人は適材適所、収まるように出来ている・・・・私の仕事が私に与えられたのも、きっと私だからなのでしょう。

もうすぐまた、新しい現場での日々が始まります。

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※さて、私はドコにいるでしょう。このCMのときはじつに意気揚々、嬉しそう~~に私に台詞の指南をしてくれましたっけ。(注・ヘッドフォンの丸いヒトぢゃ無いデスよ。)

(実際のY氏が独身か否かについては、残念ながら存じ上げません。さて、この日記、続くかなあ???by管理人)

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2007年1月30日 (火)

『キムチ兄弟 SS ~その理由を彼は知らない~』

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

【Written by tartan】

玄関の扉を開けた途端、俺の目に飛び込んで来たのは、片方があさって、もう片方がしあさっての方向を向いた革靴だった。しかも、あさっての方向を向いた一足は、裏返って靴底が見えており、いつ踏んだのだろう、ご丁寧にガムまでくっついている。
やれやれ、と思う。やっぱりな、と。
気を取り直して居間に入ると、そこには更に悲惨な光景が待っていた。
悲惨だと分かったのは急いで部屋中のカーテンと窓を開けたからで、入った瞬間に俺が目にしたのは、抜けるような青空の午前十時とは到底思えない、ドヨ~ンと空気の澱んだ異空間だった。
光を入れ、あらためて室内を見渡す。
まずドア付近の床に、丸まったコートが落ちて・・・・いや、本人は畳んだつもりなのだろう、無造作に置かれていた。視線の先、ソファーの背もたれには、手前からネクタイ、袖が片方裏返った上着、ベルトの通ったままのズボン、Yシャツの順に投げ出されていた。これも多分本人にすれば“掛けておいた”つもりなのだと思われる。
ならば靴下もきっと・・・・と辺りを捜索すると、案の定ソファーの足のところに落ちていた。どうしたことか、片方しかない。
俺はとりあえず片方だけの靴下とYシャツを洗濯機に放り込み、スーツを手早くハンガーに掛けた。裏返った袖は直し、ベルトは抜いて別に掛ける。
しかし作業はそれだけでは済まない。
テーブルの上には昨夜食べたと思しきコンビニ弁当の残骸が。下には最近気に入ってそのメーカーばかり飲んでいるのだと本人が言っていたMaxビールの空き缶が二本。缶の横には、・・・・あった。靴下の片割れだ。ビールを飲みながらポンポンと脱ぎ捨てる様子が目に浮かんだ。
摘み上げて俺は、もう一度洗濯機まで走る。
気持ち洗剤を多めに入れて、スタートスイッチを押した。
ゴミは分別して袋に入れたが、まだ何か臭う。
くんくんと、己の嗅覚だけを頼りに俺は進んだ。
「あった」
キッチンに放置されていたキムチにラップをかけ、冷蔵庫にしまった。

――――――さて。
居間には、その抜け殻しかなかったということは、スーツの中身は自室なのだろうか。
居間の惨状からして、昨夜は帰りが遅かったのかもしれない。
まだ眠っているのだろうか。足音を忍ばせ、彼の部屋に近づいた。
ドアは、案の定半分開いている。
この人は、自室のドアさえきちんと閉めなかったりする。昔からだ。変わらない。
タタッツ・・タン・・・タンタン・・・タッ・・・パシッ
その、先月よりずっとリズミカルになった音で、彼が寝てはいなかったことを知る。
週末なのに、起きて仕事をしているらしい。
タタッ・・・ダダダッ・・パン、パン!
結構早い。随分頑張ったんだろうな、と内心ちょっと感心してしまう。
ニヤつく顔のままドアの隙間から覗き込むと、――――いたいた。
丸まった背中には“それはもう、必死です”書かれていて、俺は失礼ながら思わず噴き出してしまった。
「んぶっ」
「あ・・・」
それはもう必死な背中が、ビクリと反応して振り向いた。
「ドジン」
「おはよう、兄さん」
「いつ来たの?」
「ん、今さっき」
「なんだ、声、掛けてくれればよかったのに」
「まだ寝てるんじゃないかと思ってさ」
「まさか。昨日持ち帰った仕事を片付けていたんだ」
仕事片付ける前に居間を片付けろよ、と思う。
「ねえ兄さんさぁ、母さんたちが一晩いないだけで、どうしてあそこまで物凄いことになっちゃうの?」
「物凄いって、何が?」
「何がって・・・・」
コートもスーツも畳んで掛けておいただろう。その大きな目は何の悪気も邪気もなくそう言っていた。
「一晩じゃなくて二晩だよ。明日の夜帰ってくるってさ。お前にもお土産買って来るって言ってたよ」
「・・・そう。そりゃ楽しみ」
「多分、トルハルバンの置物だよ」
「あんなの重くて持って来られないよ。石の塊なんだから」
「あ、知らないの? 発送してくれるらしいよ。この間行った時母さんったら、やたら気に入っちゃったらしくてさ」
「石の置物が?」
「うん。今度行ったらドジンの分も買わなくちゃって、張り切ってたから」
「・・・・・」
「俺はいらないよって、言っておいたけど」
俺のもいらないと、どうして言ってくれなかったんだ。気の利かない兄だ。愛想もへったくれもない石の置物など、頼まれても貰いたくない。どうせならみかんチョコレートにしてくれと、あとでシニョンさんの携帯に電話しておこうと思った。

母さんと、兄さんの彼女のシニョンさん、それと市役所のオンマ、ヘスクさんの三人は一昨日から済州島へ出かけている。この三人、実はこの半年間ですでに四回目の旅行だ。
「三人の仲がいいなんて、こんなに嬉しいことないじゃない? 母さんたちも、喧嘩ひとつしないんだから」
兄さんはことあるごとにそう言って笑う。
母さんたち、というのは俺たちの育ての親であるミスク母さんと、兄さんの生みの親のヘスクさんのことだ。母二人と未来の嫁・・・・とても複雑な関係の三人の仲を、当初俺たちは随分と心配したりもしたが、ほどなくそれは取り越し苦労だと悟る。
ある一定の年齢を過ぎ、修羅場を潜り抜けてきた女性というのは、俺たち男の想像をはるかに超える生命力と環境適応力を備えているらしい。あれよあれよという間に、やれどこどこのホテルのランチは美味しい、やれ格安ツアーがあるから行ってみないかと、三人連れ立ってはいそいそと外出ばかりするようになった。
そのこと自体はいいのだ。別に。仲のよいのに越したことはないと俺も思う。
問題は、彼女ら三人がグルメだ温泉だと楽しんでいる間、すっかりほったらかしにされている兄さんの世話が、全面的に俺に回ってくるということだ。
普通の三十四歳の成人男子ならば、数日間一人にされたところで特に困った状況にはならない。独り暮らしをしている人もたくさんいる。しかし。
兄さんの場合いささか、というか相当、身の回りのあれこれを気にしなすぎる。もっと突っ込んで言えば、ズボラ。正直に言ってしまえば生活面における自己管理能力にかなり問題がある。
スラリと整った容姿に騙されてはいけない。ゴミ箱に向かって鼻をかんだティッシュを投げ、入らなければそのままにする男なのだ。
「どうでもいいけどさぁ、キムチくらいはラップして冷蔵庫に入れなよ。部屋中臭かったよ」
「あ、ゴメンゴメン」
さほどゴメンと思っていない声でそう言った兄さんの目は、すでにPC画面に向けられていた。何度注意したってこの調子なのだから、俺もそれ以上は言わない。
『ドジン~~、三日ほど旅行に行ってくるからテヒのこと、よろしく頼むわね~。お土産たくさん買ってくるからね~~』
母さんから電話が来るたび、俺はこうして兄さんの“お世話”にやって来なくてはならないのだ。でも大丈夫。随分前に、諦めの境地に達している。
「ねえドジン、この記号って、どうやって出すの?」
「ん?」
あの酷い怪我のあと、どうにか復帰した市役所の新しい部署は、PCを使う仕事が主なようで、このところ兄さんは慣れないPC画面と睨めっこの毎日らしい。A4ほどの大きさの用紙にラフに手書きされた、数枚の企画書らしき書類を、必死で画面に入力している。俺なら一時間とかからない仕事だが、PC超初心者の兄さんには、多分夜までかかっても終わらない分量だろう。
「この、ヘンテコな記号なんだけど」
「ああ、これね。コレはIMEパッドから文字一覧・・・・それで、下の方までスクロールしていくと・・・」
「あ、あった! あったあった。ドジンはさすがだなあ」
ありがとう助かったよ、と満面に笑みを湛える兄さんに俺は、脱いだ靴下は必ず洗濯機に入れろと言い渡す機会を逸する。
「兄さん、朝飯は? 食った?」
「んーっと・・・・あれ、食ったかな? どっちだっけかなぁ・・・あ、またミスった」
「・・・・・・」
「そういえば、食ってなかったかもしれない・・・・わ、文字数が多すぎるよ・・・・こういう時は、えーっと、そうだ! 余白を減らせばいいんだ。思い出した」
「・・・・・・」
コーヒーとトーストでいいよね、と言い残し、俺は返事も待たずにキッチンへ向かった。

「兄さんさ、随分タッチが早くなったよね。先月見た時とは大違いだよ」
「そ?」
トーストのカスをテーブルにぼろぼろぼろぼろと零しながら、兄さんはんふっと嬉しそうに目を細めた。
「毎日やってるとね、結構覚えるもんだよ。最初はそれこそ電源スイッチがどれなのかも分からなかったけど」
この頃はファックスを裏返しに送ったりもしなくなったのだと、兄さんは誇らしげに胸を張った。OA機器に関してだけ言えば、兄さんは赤ん坊か原始人かというくらいに疎かったのだが、最近は多少なりとも進歩が見られるようだ。
「兄さん、ジャム、ついてる」
「んあ?」
「口んとこに」
「・・・・ああ」
舌でジャムを舐め取った後、袖で口を拭く。これも昔からちっとも変わらない。
テヒはお箸もキレイに持てるし姿勢も良いし、好き嫌いもない行儀のいい子なのに、どうして食べ物をぼろぼろこぼすのと、袖でお口を拭くのだけが直らないのかしら。母さんはいつもそう嘆いていた。
でも、そんなふうにブツブツ文句を言いながら、母さんも、シニョンさんも、ヘスクさんも、誰一人として兄さんのそういうところを心から嫌ってなどいないことを、俺はちゃんと知っている。
「ブラインドタッチっていうの? もっとダダダダッて打ちたいんだけどね。そこまでにはまだもう少しかかりそうだなぁ。でも、半年でこの進歩は、なかなかなもんだろ?」
「うん。そうだね。でも・・・・」
「でも?」
俺は、ずっと心の片隅で気になっていたことを言うべきか言わざるべきか、少し逡巡した後、やっぱり正直に告げることにした。
「兄さんさ、どうして、その、いつも人差し指一本だけで打ってるの?」
「・・・・・・・」
「あ・・・」
やっぱりその辺りは地雷原だったらしい。
“人差し指一本”を指摘した途端兄さんは、叱られたワンコのように眉を下げ、黒々とした大きな目玉をみるみる翳らせた。
「だって・・・」
「や、いいんだよ、べ、別に、指一本だって。ダメって言ってるんじゃなくてさ」
「だって・・・」
「片手の指一本だけでそこまで打てるんだから、ある意味すごいって言うか、むしろ驚くっていうか、曲芸というか」
我ながら全然フォローになっていないなと思う。
兄さんはますます項垂れてまた、「だって」とだけ呟いた。
「ごめん・・・そういう意味じゃなくて」
「指一本一本が、それぞれ違うことをするなんて、普通は無理だと思うんだけど」
「へっ?」
「右手と左手で違う動きをした上に、十本の指がそれぞれ違うキーを担当するなんてさ、そんな神がかりなこと、俺には出来ないよ。俺は人間だ」
いや、俺だって人間だけど、と喉まで出掛かったのを飲み込む。
「そんなウルトラC級の神業を、みんなが軽々とやってるのを見て、もしかしたら俺にも出来るんじゃないかって思ったんだけど・・・・やっぱり無理だった」
しょんぼりと、すっかり首が曲がってしまった兄さんに掛けるべき言葉を、俺は必死で探した。
「で、でもさ、ほら野球選手だって、たま~に、とってもヘンな打法の人がいるじゃない。バットをグルグル回したり、一本足で立って打ったり。人と違うからって、打てないってワケじゃないよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ! 兄さんの打ち方は、そりゃあかなりヘン・・・・じゃなくて、こ、個性的だけどさ、極めればきっと、ブラインドタッチも夢じゃないよ」
「そう?」
「そうそう」
「本当に、本気でそう思う?」
「おお、お、思う思う。思いますとも」
俺が貼り付けたような笑顔でブンブンと何度も繰り返し頷いてみせると、兄さんはようやく「そうだな。大事なのは個性だよな」と笑ってくれた。
キレイな指をしているのに、勿体無い・・・・
俺は心でだけそう呟き、兄さんのコーヒーのお代わりを淹れに立ち上がった。

「そういえば、兄さんの左手の中指ってそれ、どうしたの? 怪我?」
「ん?」
結局は入力の半分以上を請け負うハメになった俺は、せめて弟の邪魔しないようにという優しい心遣いからか、傍らで雑誌をめくってゴロゴロ寛いでいる役立たずの大型犬に尋ねた。
「先んところ、ちょっと曲がってるじゃない」
「ああ。これね、これは・・・・」
兄さんは、自分の左手の指先をじっと見詰めた後、ちょっと上目遣いに俺の顔を見て、何やら意味ありげにクスッと笑った。
「これはね・・・・昔バスケで怪我したんだ」
「そうなの?」
「・・・・うん」
「高校の時?」
「・・・・うん」
「そう――――――あ、これはWordじゃ無理だなあ」
書類の五枚目から六枚目辺りは数字の羅列だった。ホッチキスを外し、Excelを立ち上げながら俺たちの会話はそこで途絶えた。
ただ頭の片隅をチラリと、兄さんの中指はもっと小さな子どもの頃から曲がっていたような気がするのだけれど・・・という思いが過ぎったのだが、結局あとで数えたら六枚にも及んだExcelでの細かい表作成に没頭してしまい、指のことを兄さんに尋ねたことすら忘れてしまっていた。
「終わったよ、にい・・」
ようやく全てを打ち終えた時、あたりはすっかり夕方の色に染まっていた。
いつの間にやら依頼主は、開いた雑誌にヨダレを垂らして転寝をしている。
「に・・」
起こそうとして、やめる。あまりによく眠っていたから。
薄手のそっと毛布をかけ、簡単なメモを残し、俺は部屋を後にした。
今日はこの後、深夜にかけての張り込みが待っている。探偵という仕事柄、夕方から朝までの仕事はザラだ。
気を引き締めて、俺は仕事人の顔に戻る。

もう二度と、兄さんにあんな悲しい顔をさせはしない。苦しい思いをさせはしない。
たったひとりの、血は繋がっていなくとも、大切な俺の兄さんだから。
兄さんを守ってやれるには、俺しかいない。

見上げた空に、気の早い一番星が、小さく輝いていた。

          ■            ■            ■

『兄さんへ。あんまりぐっすり眠っているから起こさずに帰ります。これから所長と一緒に仕事です。打ち終えた企画書はプリントアウトして封筒に入れておきましたので確認してね。冷蔵庫の残り物で適当に炒め物作っておいたので、温めて夕食に食べて下さい。それから言い忘れたけど、靴下は脱いだら必ず洗濯機にね。 ――――ドジン』

ふああ~~と大きな欠伸をひとつして、テヒはまだ醒めない目をごしごしと擦った。
今何時だろうと壁を見ると、時計はすでに夕方の六時を回っている。
「腹、減った」
何もしていなくても、腹は減るものだ。
「ドジンが残り物で適当に作った料理は、俺が材料を一から揃えて半日かかって作るより、ずっと美味しいんだよなぁ」
などとひとりでブツブツ言いながら、企画書の確認よりもまず腹ごしらえを優先させることに決めた。尤もテヒが材料を一から買ってきて半日がかりで料理したことなどない。多分そうだろう、という話だ。
果たして大変に美味しかった料理を突きながら、テヒはひとり思う。
―――――ドジンのやつ、やっぱり憶えていないんだな、あの時のこと。
憶えているかと、そういえばあらためて尋ねたこともなかったが、憶えていなくても当然だ。当時ドジンはまだ、この手にぎゅっと抱きすくめたら潰れてしまいそうなほど柔らかい、小さな小さな子どもだったのだから・・・・・・

テヒは思い返す。
傍目にはあまり幸せとは映らなかっただろう、あの頃の自分。
けれどテヒは周りが気遣うほどに、自分が不幸せだなどと感じてはいなかった。特に、五つ年下の駄々っ子の弟分が現れてからは、毎日がとても新鮮で、そして何より彼と過ごす時間の全てが、楽しくて仕方なかった。
どんなに小さくてもドジンは、それはそれは根性の据わった子どもだった。当時のその施設の中では一番年下で、かつ新米だったにも拘らず、向っ気が強く、相手がどんなに年上だろうとやられて黙って引き下がることはなかった。理屈の通らない仕打ちには、地団駄を踏んで抵抗する小さな戦士を、テヒはいつも半分の諦めと半分の羨望をもって見詰めていた。
二人の預けられていた施設には、いろいろな性格の子どもがいたが、テヒのようにいつも鷹揚然として、誰かに意地悪をされても泣きもせずやり返しもしない子どもの方が、むしろ珍しかったかもしれない。

ある日ふたりは、たくさんの子どもたちに混じってかくれんぼに興じていた。
「テヒ兄ちゃん、ぼくね、ぜったいに見つからないところ、しってるんだ」
ドジンはテヒと二人になるや否や、瞳を輝かせてそう言った。小鼻をピクピクさせているあたり、相当自信を持ってその場所を紹介できる様子だ。
「絶対見つからない場所? そんなとこ、あったかなあ」
この施設のことなら、ドジンより自分の方がずっと詳しいはずだ。何せ、生後間もなくからここで暮らしているのだから。
「あるんだもん。ぼく、しってるんだもん」
なのにドジンはきっぱりと言い切った。
「二人で隠れられるところ?」
「うん」
「ほんとに?」
「うん。こっちきて」
ドジンはテヒの手を握ると、年齢にそぐわない強引さで、施設の建物の裏手にある倉庫の、そのまた裏へと引っ張っていった。
「ここって・・・・」
ドジンに連れて来られたその場所というのは、シスターたちが常々「いいですか、あそこの鍵を勝手に開けてはいけませんよ」と言っていたその倉庫の裏だった。
「みて、テヒ兄ちゃん、ここの下のかべにほら、あながあいてるでしょ? そこから中にはいれるんだよ。ぼく、このまえ入ってみたんだ。ちゃんと入れたよ」
「ドジン、ここはダメだよ。シスターがいつも、入っちゃいけないって」
「どうして?」
「危ないからって」
「どこが?」
「だから、子どもが触ったら危ないものが、いろいろしまってあるんだよ、この倉庫には。だから入っちゃいけないんだ。さ、戻って別の場所に隠れよう」
ドジンの手を引こうと、テヒが手を伸ばした時だ。その手を彼がバシンと払った。
「痛っ、何するんだよ」
「ぜったい、ここにかくれるんだい!」
「ドジン、だからここはダメだって言ったろ。シスターに叱られても知らないぞ」
「だってぇ!」
テヒを睨み上げたドジンの目が、非常にマズイ感じに潤んでいる。地団駄経由で大荒れになる兆候だ。
「なあ、ドジン・・・」
「やだ! ここにかくれるんだい! だって・・・だって、このまえヒョンビンとジンモがぼくのこと、かくれんぼへたくそ~、や~いってバカにしたんだもん。だからきょうはぜったいに、みつかりたくないんだもん」
「・・・・・・」
テヒは深々とため息をつき、そして不本意ながら、規則違反の片棒を担ぐことに同意してしまった。

確かに入ってはいけない場所だけあって、十五分たっても二十分たっても、誰も探しには来なかった。
「ねえ、ドジン。もうそろそろ出て行こうか。みんなもう降参したかもしれないよ」
「やだ」
「じゃ、いつまで隠れているつもりだよ」
「みんながさがしにくるまで」
「探しに来なかったら?」
「くるもん」
そんな不毛なやりとりをしていると、遠くからヒョンビンとジンモの声が聞こえてきた。
「き、きた! あいつらきたよ、テヒ兄ちゃん」
「う、うん」
「こえださないように、がんばろうね」
「うん。分かってる」
ドジンを膝に抱きかかえるように座っていたテヒは、棚とダンボールの犇く狭い空間で、じっと息を殺した。
「ちっくしょう、ドジンのやつ、チビのくせの生意気なんだよ」
「どこに隠れたんだろう」
「ぜってー見つけ出して、泣かしてやる」
やくざまがいの不穏極まりない会話を聞きながら、「どうか見つかりませんように」とテヒが祈ったその時だった。
膝の上で、ドジンがもぞもぞと身を捩って動く。
「おいドジン、じっとしてなきゃ。音を出したら見つかっちゃうじゃないか」
なるべく小声でテヒは囁いた。
「だって・・・・ぼく・・・」
「何?」
「テヒにいちゃぁん・・・ぼくぅ・・・」
「え?」
「だって・・・ぼくぅ・・」
その声が、微かに震えている。
「どうしたの? ドジン?」
お腹でも痛くなったのだろうか。テヒは急に不安になり、ドジンをこちらに向かせようと、その小さな身体抱いた腕に、きゅっと力を込めた。すると。
「あぁっ!」
「へっ?」
「あ・・・・あ・・・・ああぁ・・」
「・・・・・わっ! わあっ!」
膝のあたりに、じわ~っと広がる生温かい感触に、テヒは己の身に降りかかった緊急事態を察っする。
「ド、ドジ・・・おしっこ・・・」
「うっ・・・」
とひと呼吸おいて、うわ~~~~ん、という世にも豪快な泣き声が倉庫内にこだました。
「ドジン、ドジン、大丈夫だから。泣かないで」
「うわあああああ~~~~ん、あん、あん、」
「ドジン、ねえ、落ち着いてよ、ね」
「でじゃっだよぉぉ~~、おぢっご、でぢゃっだああぁぁぁ、うぁぁぁん!」
シスターに見つかったらどんなに叱られるだろう。見つからないうちに早くここから脱出しなくては。そればかり考えていたテヒは、向こう三軒両隣に響き渡るほど大音量のドジンの泣き声が、すでに彼女らの耳に届いていることなど知らない。
「ドジン、早く出よう、ほら立って。お願いだから立ってよ」
「うぁ~~ん、ひぃ~~ん」
「ドジンったらぁ」
とうとう自分も半べそになったテヒは、お漏らしでパニックを起こしたドジンを抱きかかえようとして、思わずバランスを崩す。
地面に不自然な形でついた手を、ドジンの踵が踏んだ。
「いっ―――――・・・!」
左の中指の先が、ギグッと変な音を立てて曲がった。
「・・・い・・たい」
そして次の瞬間、テヒもまた、ドジンとともに泣き出した。
「痛いよぉ~~~、指が痛いよ~~、うわ~~~ん」
「おぢっごでぢゃっだぁ~~、うえ~~~ん」
おしっこと涙にまみれた二人が揃って救出されたのは、それから三分後にことだった。

「ま、相当パニクってたからな。あいつはまるで憶えていないだろうけど」
テヒは懐かしさを込めて、自分のちょっと曲がった指先を眺める。
あれからふたり、いろいろなことがあった。

もう二度と、ドジンにあんな悲しい顔をさせはしない。苦しい思いをさせはしない。
たったひとりの、血は繋がっていなくとも、大切な俺の弟なのだから。
あいつを守ってやれるには、俺しかいない。

見上げた窓の外に、気の早い一番星が、小さく輝いていた。
同じ星を、ドジンもまた見ているかもしれない。そんな気がした。

                                              おわり^^

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2006年8月 7日 (月)

『キムチ兄弟』 最終部 ~希望~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

「いくら殺したいほど好きだったからってよぉ、その男の土地に“じゃがいもタワー”って発想は、やっぱどう考えてもありえねぇだろ。常人の理解の範疇を超越している」
「確かに」
「挙句、その最上階に秘密の小部屋を作って、心行ゆくまでふたりきりの時間を堪能したかったなんて、ぬけしゃあしゃあと供述したってんだから全く・・・」
呆れ返ってモノも言えねえと、パクウィはその夜3本目の缶ビールのプルタブを引いた。ようやく完全に復帰した市役所からの仕事帰り、この古ぼけた探偵事務所にちょくちょく顔を出すテヒの手土産は大抵、パクウィの好きな銘柄のビールだ。自由業をいいことに、店仕舞いもしないうちからちょいとほろ酔い気分らしい探偵の語りに相槌を打ちながら、テヒも1本頂く。
この日、オ町長の新しい供述が取れたとジュンギから連絡があったのは、テヒが訪れる少し前のことだった。日々、少しずつ明らかになるドジンの両親殺害の動機、じゃがいも村計画の裏工作、そして最後までは隠し通せなかった尋常ならざるその人間性・・・・・そのひとつひとつが、テヒにとってもドジンにとっても、一刻も早く忘れてしまいたいものであることには違いない。しかし、敢えてふたりは真実を知ろうと努めた。町長に洗いざらい真実を語らせ、それを全て受け止めることでしか前に進んでは行けない。そう強く思っていたからだ。

Paku_2P&G探偵事務所にtartanを就職させてくださいっ!
『結局デスは、ドジンの父親とは恋人でも何でもなかった。まともに友達にすらなれなかった美貌の同級生に、勝手に恋心を抱いて、振られて・・・・その腹いせに、当時幸せの絶頂だったであろう彼を、デスは家族ごと不幸のどん底に叩き落とした。挙句その息子が父親そっくりに美しく成長しているのを知るや否や、今度はその息子を我がモノにしようと言葉巧みに接近する。亡き父との思い出話をあれこれ聞かされたり、妹探しを手伝ってもらっているうちに、ドジンはデスにすっかり心を許すようになって・・・・やがてデスに妹探しの資金を出させていることを心苦しく思い始め、じゃがいも畑を手放す決意までする。と、まあこのあたりまでは、デスとしては最初から計算のうちだったんだろう』
ジュンギの淡々とした説明に、テヒはこの数ヶ月の間に点々と起きた様々な出来事が、ひとつの線に繋がってゆくような感覚すら覚えた。
『しかしデスの異常性はここからだ。ドジンの心を手に入れただけでは飽き足らず、殺した男がかつて所有していた土地に、自分の愛の象徴とも言うべき建築物を建てようとした・・・・ここまでいくと、もはや愛だとか恋だとかいう感情だけでは片付けらない。もっと強い、歪んだ征服欲だ。異常な執着心の領域だな』
接見した弁護士にデスが語ったところによると、じゃがいもタワーのデザインは、件のエロ画家によるものだというからもう常識もなにも通用しない。
ヤツにとってドジンの父は、殺して尚、手に入れたい男だったんだろうが、何にしてもゲージツにかぶれた奴の脳みそは俺にはよく分からん。そう言い残してジュンギは帰っていった。
ジュンギと入れ違いにP&G探偵事務所を訪れソファーに腰を下ろしたテヒは、いつもより少し苦く感じるホップの泡をコクリとひと口飲んで、今はもうすっかり元気を取り戻したかのように振舞う弟を思った。

あの日・・・・・
海雲台の町長の別荘から助け出したドジンを、テヒは自分のマンションに連れて帰った。玄関に佇んだまま、なかなか靴を脱ごうとしないドジンの肩に手を当て、どうしたのかと問えば、自分はここには入れないのだと小さく肩を震わせ呟いた。たとえほんの一時期だけであっても、両親を殺した男を愛してしまったか自分を許せない。自分は身体も心も穢れてしまったのだ。兄さんに許されてはいけない人間なのだと、吐き出すようにそう言ってぽろりと涙を零した。どんな理由があっても復讐など考えてはいけないと言った兄さんの言葉も、今なら理解できるのにと、しゃくり上げながら上がり框に崩れ落ちる弟が、以前と比べて随分痩せた気がして・・・・テヒは黙ってその身体を抱き締めた。
『お前は穢れてなんかいないさ。身体も心も。お前は自分の両親を愛していただけだ・・・・ただ、それだけだ』
『だけど兄さん、俺は、あの町長と・・・・』
『ドジン』
テヒは静かに首を振ると、抱いていた弟の身体を離し、俯き加減の濡れそぼる瞳を見詰めた。
『もし、逆の立場だったらお前は俺を軽蔑するか?』
『・・・・・え?』
その質問に、ドジンがおずおずと視線を上げる。
『もしもの話だ。もしも俺が・・・・・・自分のまだ見ぬ肉親を探してくれるという親切な男に出会って、同性ではあるけれど互いに心惹かれ、やがてその男を愛に答えようとしたとする。心も身体も全てをその男に預けて、しかし結果手酷く裏切られて、ボロボロに傷ついて・・・・・・そうなったとしたらお前は、俺を軽蔑するか? 穢れたと思うか?』
ドジンは黙ったまま、ぶんぶんと首を横に振った。テヒはそんなドジンの幼子のような仕草に、ようやくこの手に弟が帰ってきたのだと実感するのだった。
『ドジンはドジンだよ。どんな人間を愛そうと、どんなに傷つこうと。お前は俺の弟だから』
『兄さん・・・』
『それを忘れるな』
くしゃっと髪をやや乱暴にかき回すと、ドジンの大きな瞳からまたひと粒、透明な滴が零れ落ちる。睫毛の先に光る小さな宝石のようなそれを、テヒは心の底からうつくしいと、そしてどこまでも清らかだと思うのだった。

                     *

Otouto_1「ボス!事件ですか」 弟よ・・・・探偵は拳銃携帯してないぞ^^

「ボス、遅くなりました!」
回想に耽っていたテヒの耳に、あまり顔には出さないが実は待ち焦がれていた声は、思ったよりずっと元気で明るいトーンで飛び込んできた。
「おっせぇよ~、新人。写真1枚撮ってくんのに一体何時間かかってんだ!」
「すみません、ボス。マルタイが出てくるのが思ったより遅くて、かなり手間取っちゃって・・・・でも、はい、これ。粘った甲斐あって、かなり鮮明に撮れました」
「ん・・・・どれどれ」
今月、この探偵事務所に入った“新人”からデジカメのメモリーチップを受け取ると、偉そうにボスなどと呼ばれたパクウィは、早速立ち上げてあったPCにそれを挿入した。
「おお。なかなかヤルじゃんか、新人。褒めてつかわすぞ」
「ありがとうございます。それ、あと俺やっときますから、ボスはどうぞ上がって下さい。約束あるんでしょ?」
どうやら思ったよりずっと優秀だったらしい“新人”にそう提案され、パクウィは少なからず動揺をみせる。いつになく視線を事務所内のあちこちにうろつかせては、曖昧なニュアンスで返答する。
「え? いや、そんな、お前・・・・新人ひとりに任せて、経営者の俺が帰るわけにはいかんだろう」
「写真の解析作業だったら、俺がやった方が断然早いし、ギョンジンが今夜はボスとデートだって、さっき嬉しそうに言っていましたよ。いいんですか? 待たせて」
“新人”に、思いっきりストレートに突っ込まれ、うっ、と一瞬返答につまったパクウィは、とうとうバツ悪そうに頭をポリポリと掻いて、照れたように苦笑する。
「そ、そっか? ・・・そうだな、んじゃ、今夜はお言葉に甘えてそうするかな。悪いなあ、新人」

Gyonパクウィ、おせ~よ、と不貞寝のギョンジン。

「こっちは大丈夫ですから。そんなところで兄さんなんかとビール飲んで油売ってないで、早く行って下さい。ギョンジン、下で待ってますよ」
「おいおいドジン、なんかとはなんだ。兄さんなんか、とは」
ソファーでくつろいでいたテヒが、それは聞き捨てならないと半身を起こし、“弟”の暴言に苦笑しながら抗議した。
「兄さんもだよ。今日はヘスクさんのところに行くって言ってたくせに、なんでこんなところにいるのさ?」
「お、俺は、ヘスクさんとの約束の時間までまだ少しあるから・・・・・ちょっとお前の様子を見ようと思って寄っただけだ」
「俺ならこの通り。心配ご無用だよ」
ドジンは両手のひらを天に向け、少しだけ首を竦めるとサラリとした表情で笑った。
「兄さんには分からないだろうけど、俺、これからの時間が結構忙しいんだ。写真の解析が済んだら昨日の“夫の浮気調査”の報告書まとめなきゃないし、その後は明日からの“ストーカーの証拠掴み”の準備しなくちゃならないし・・・・ああそうだ、その後はカン代理からの依頼も・・・・」
「カン代理ぃ?」
テヒは、カンがここを訪れたという事実を初めて知り、吃驚する。
「カン代理が何で、ここに?」
「離婚したんだとさ」
ドジンの代わりにそう答えたのは、すっかり“お帰りモード”で薄手のスウェードジャンパーを肩から羽織った咥え煙草のボス、パクウィだ。
「クレジットカードで例のサッカーグッズ、じゃんじゃん買い捲っていたのが奥さんにバレて、とうとう家を追い出されたらしい。『あんな分からず屋の女房より、サッカーに100万倍理解のある女性をアウラジで見つけました』とか言っちゃってよ。依頼内容ってのも、その買い集めたサッカーグッズを元奥さんの外出中に、隠密裏に自宅から運び出して欲しいっていう・・・・・・ウチは便利屋じゃねえっつうの!」
「・・・・・それ、犯罪だろ」
突っ込みを入れつつテヒは思いを巡らす。
アウラジでカン代理が知り合った“サッカーに理解のある女性”・・・・・?
テヒの脳裏には唯ひとり、うらぶれた居酒屋のカウンターに頬杖をついて日本vsブラジル戦を観戦していた、あの気だるい女主人しか思い浮かばなかった。
「その女とよぉ、なんでも4年後、南アフリカに行く約束までしているらしいぜ・・・・・ったく、とんでもねぇヲタクなおっさんだぜ。じゃ、ドジン、お先な」

『兄さん俺ね、この仕事が本当に性に合うみたい。毎日が楽しいし、とっても充実しているんだ』

忙しいから早く出てってとドジンに事務所を追い出され、ヘスクの元に向かう道すがら、つい先日その弟がふと漏らした言葉を反芻する。
空港で大怪我負ったあの1件から程なくして、まるで責任を取るような形で以前の勤め先を辞めてしまった繊細な弟を、監禁のショックから立ち直るのも待たずに『安月給でよけりゃウチで働け』と誘ってくれたパクウィに、テヒは今でも感謝している。実家に戻り、母の元から元気に仕事に通うドジンの様子を見るにつけ、1日1日、静かに、しかし確実に、自分たち家族が以前の幸せな暮らしを取り戻しつつあることを感じる。しかし、そんなゆるやかで静謐な時の流れの中にあってさえ、ドジンの心の裡にはまだ濾過しきれない澱のようなものが残されていることも、テヒは充分に知っていた。母や自分にそんな胸のうちを覚られまいと、殊更のように仕事に打ち込んでいることも。
(ドジンは、まだ苦しみを乗り越えてなどいない)
ただ純粋に、亡くしてしまった家族を思い、人を愛しただけだったのに、結果として一番あってはならない状況を招いてしまった。その心の傷からすっかり立ち直るには、まだ日が浅すぎる。全ては、時間が解決してくれるのを待つしかないのだ。
(俺は、あいつを哀れとは決して思わない)
望まぬ宿命、押し付けられた運命であっても、時に人はそれを背負って生きて行かなくてはならないのだと思うから。放棄すれば、そこで人生は終わってしまう。そう遠くない未来に、ドジンが心の底から幸せだと感じられる日が来ることを信じて、見守ってやることしか自分にはできない。
「もっともっと、強くなれ。ドジン。兄さんがついてる」
と、口に出してみればやはり、少し照れた。だから続く言葉は心の中にひっそりと浮かべることにする。
俺はいつもお前を思っているから・・・・

「・・・・ヒ・・・ゃん!」
ぼんやりと、すっかり陽の落ちた街角を歩いていると、後ろから誰かに呼ばれた気配を感じた。
「・・・・ちゃん!・・・テヒちゃん、待っとくれ!」
「あっ」
振り向いたテヒの目に飛び込んできたのは、両手にスーパーの買い物袋を提げ、小走りに駆け寄ってくるヘスクの姿だった。

「あぁ、良かったよ。重くて重くてどうしようかと思ってたんだよ。助かったわ」
「一度にこんなにたくさく買い物するからですよ」
「だって、テヒちゃんに、あれも食べさせたい、これも食べさせたいって思ってさ。ついつい買いすぎちゃって」
あまりに大量の食材とその袋の重さに驚きながらも、少女のようにはにかんでそんな事を言われては、テヒは苦笑するしかない。
「今度から荷物が重い時は電話して下さい。俺、ヘスクさんのところに向かう時は必ずスーパーの前、通るんですから」
「わかったよ」
「あぁ、それよりも、今度から買い物、一緒にしましょう。仕事帰りにどこかで待ち合わせして」
そんな、とヘスクはみるみる顔を赤らめ、目の前で両手を振った。
「止しとくれよぉ、それじゃまるで恋人同士のデートみたいじゃないか」
「いいじゃないですか、デート。それとも、相手が俺じゃ不満ですか?」
ヘスクはそんなテヒの冗談めかした台詞に、珍しく少し眇めたような視線を寄越した。
「テヒちゃん」
「はい」
「あのね、あたしゃ前から一度言わなくちゃと思ってたことがあるんだけどね・・・・そんな殺し文句を、あたしなんかに言ってどうするんだい?」
「えっ?」
「殺し文句を言うべき相手が違うだろってことさ。分からないわけじゃなかろ?」
当然、分からなくはなかったテヒは、痛いところを突かれて返答に迷う。
「それは・・・その」

Otubone4天然記念物と付き合うのも楽じゃないのよ、実際・・・
ヘスクは、テヒと同じくやはり元のS市役所に戻って仕事を続けているシニョンとも、ずっと親しく交友している。何かしら彼女から悩みめいた相談を受けているのかもしれない。
「この際だから率直に訊くけどね・・・・どこまでいったのさ、シニョンちゃんと」
意を決したようにそう問いただすヘスクに、テヒは至極真剣な面持ちで答えた。
「どこまでって・・・・この間はちょっと海の方までドライブに行きましたけど、まだあまり遠くまでは行ったことないですね・・・・・あ、それより今度ヘスクさんも一緒に行きません? ドライブ。この間行った海、思ったよりも水が澄んでいてきれいで、今度ヘスクさんも連れて来たいねって彼女と話していたんですよ」
「・・・・・・・」
「ヘスクさん?」
ヘスクの盛大なため息の意味をテヒは解さない。あまりの天然ぶりにすっかり呆れられたことすら気付かず、黙ったまま首を振るヘスクの顔を訝しげに覗きこむことしか出来なかった。

                         *

ふたり、段違いの肩を並べて歩く歩道。
街路樹からは気の早い落ち葉が1枚2枚と、先を争うようにして落ち始め、テヒとヘスクの足元をかさかさと賑わしていた。
気付けば市役所のオンマからの緊急輸血でテヒがその一命をとりとめてから、すでに数ヶ月が経過していた。目眩く勢いでテヒを翻弄した夏が駆け足で過ぎて行き、やがて訪れた秋は、まるでその足元の落ち葉たちのように密やかに、けれどその確かな存在で、次の季節を予感させるものであった。その秋も、間もなく終わる。
市役所で掃除のおばちゃんをしていたヘスクこそが、自分の本当の母親であるとテヒが気付いたのは、やはりあの輸血がきっかけだった。テヒの血液型はO型だがRhマイナスで、テヒ自身その事実を認識してはいたものの、日常生活の中で意識することなどほとんどなかった。アウラジで仕事をしていたあの時期、何かの折にシニョンら事務所仲間に自分が“Rhマイナス”だという話をしたことは確かにあった。しかしあの日、空港で血まみれになった自分に敢えて背を向け勢い駆け出したシニョンが、同じく“O型Rhマイナス”のヘスクを奇跡的なタイミングの良さで病院に連れてきたのだと聞くまで、自分とヘスクの数奇な運命に思いを馳せたことはただの一度もなかった。

ふたりは・・・・・・・紛れもなく、真実の母子だった。

テヒがいつもポケットに忍ばせ、大切に持ち歩いていた数珠。タイガーアイの持つ輝きにも似た大粒のそれは、ヘスクがこの34年もの間、忘れようとしても忘れることなどできなかった過去への重苦しい後悔そのものであり、また一方のテヒにとっては、どこか悲しく切ない生みの母への思慕の象徴でもあった。
精神的にも肉体的にも長く辛い入院生活を支えてくれたのは、育ての母ミスクと恋人のシニョン、そして実母ヘスクその人であった。3人が交代でテヒの元を訪れ、世話をし、励ましてくれた。枕の下に忍ばせ、毎夜取り出しては握り締めて眠っていたその数珠が、ヘスクの目に留まった時、テヒはひとつの決意を固めた。退院まであと数日という日のことだった。
『34年前・・・・・・・この数珠を、ベビーキャリーに入れたのは、あなたですよね』
とても正面から視線を合わせる度胸などなく、四角く切り取られた窓の外の景色にウロウロと視線を這わせながら、それでもテヒは必死で言葉を紡いだ。
『輸血のこと、シニョンさんから聞きました』
その瞬間のヘスクがどんな表情でいたのかをテヒは知らないが、未だかつてないほどに動揺した彼女の手から滑り落ちた花瓶の割れる鈍い音で、入院以来自分がぐるぐると空想していたひとつの繋がりが、あながち無謀な妄想ではなかったのだと知った。
シニョンは多分、かなり前から気付いていたのはずだ。ヘスクも自身に生後すぐ手放した息子がいたことを、シニョンにだけは話していたのだろう。血液型と、数珠と、そして生きていれば34歳になっているはずの息子・・・・・利口な彼女は自分の口から事実を知らしめるようなマネはしなかったが、テヒの生命の危機を察するなり、物も言わずヘスクの元へと駆け出した。あの時の揺れる黒いシッポ・・・・・
考えてみればそれだけでもう、彼女が何かしらの事実を知っていたという、十分すぎるほどの“証拠”と言えるだろう。
『・・・・・』
白い床に砕け散った陶器の破片を無言で拾い集めるヘスクの背中に、一体どんな言葉をかけるべきなのかと思い倦んでいると、小さな肩が微かに震えたように見えた。テヒはベッドから降り、一緒に破片を集めながら言った。
『俺が知りたいことは、ただ・・・・・ひとつだけなんです。あとはもう何も訊きませんから、答えてもらえますか?』
『・・・・・』
忙しなく床の上を動いていたヘスクの手が、止まる。
『俺が生まれた時・・・・嬉しかったですか? それとも・・・』
『・・・・・』

Tehi_4張り込み気取ってみても、およそ探偵に向かないテヒ。わけもなく好きな一枚です(*^_^*) ゆるゆるの口元が。
『父親がどんな人なのかとか、どんな事情で俺を手放したのかとか、いろいろ悩んだりした時期もありましたけど・・・・今この歳になって、純粋に知りたいのは、そのことだけです。自分は望まれてこの世に生まれてきたのかという・・・・』
うっ、と口元を押さえ、ヘスクが嗚咽を漏らした。
『ヘスクさん? ・・・・大丈夫?』
両手で顔を覆い、ごめんなさいとだけ繰り返し、号泣するヘスクの肩にテヒはそっと手を沿わせる。そのまま、ひとりきり泣いた後、彼女は言った。
『謝って、許しを乞うなんてことを、してはいけない人間なんだよ、私は。どんな事情があったにせよ、あんたをこの手で育てられなかったことには違いないんだから』
『だけど・・・』
『あんたの親はね、テヒちゃん、あんたをここまで立派に育ててくれた2人以外にはいないんだよ。ドジンちゃんとあんたの母さんと、亡くなった父さんだけが、あんたのふた親さ』
『それは分かっています。でも・・・』
ゆっくりと立ち上がったヘスクの後姿に、縋るような視線を投げかけてみても、その背中は振り返ってはくれない。テヒは胸の奥に感じるチリチリとした痛みに耐えかねて、ヘスクの細い腕を思わずぎゅっと掴む。
『答えて下さい。お願いします。そうでないと俺・・・・』
これからどうやって生きていけばいいのか分からない。そう呟いたテヒの声のか細さに、しばし黙り込んでいたヘスクが、深い吐息とともに吐露した言葉は、多分長い間彼女の胸の中で熟成された息子への思いをたっぷりと含んだような重みを持っていた。
『子どもが生まれて、嬉しくない親がいるかい。あたしの人生の中で、一番幸せだったのはね、生まれたばかりのあんたをこの手に抱いた瞬間さ・・・』
『ヘスクさん・・・』
もうそれだけで、他に言葉など何もいらないと思った。産まないという選択もきっとできたであろうに、自分をこの世に送り込んでくれた実の母。市役所でドジ踏んで、あたふたしている自分をいつもいつも庇ってくれる優しい女性。その女性に望まれて――――事情で育ててもらうことは叶わなかったにせよ――――この世に誕生したのだという事実だけで、テヒはこれまで誰にもその存在を語ることのなかった、心の奥深くに根付いていた虚のようなものが、温かい何かで満たされてゆくような気がしたのだった。

                     *

不思議なほどに、恨みつらみといった負の感情は、一切湧いてはこなかった。
父親になるはずだった歳若い青年が、自分の存在も知らぬままにあっけなく事故で他界したこと、ひとりで産んだ子を育てたいというヘスクの意志を完全に無視するような形で、彼女の両親が産まれたばかりの小さな息子をどこか遠くへ連れ去って行ったこと。テヒはその後、ぽつりぽつりと聞かされた。
『あんたを抱いて、家出でもすればよかったって、何度悔いたかわからないよ・・・・でもね、あんたを連れて行くって言った両親に、ならばせめてこれをって、その数珠渡したのは、他でもないこのあたしなんだ・・・・』
どこまでも後悔と自責の念から逃れならないヘスクに対し、それでもいいから時々ふたりで会いたいのだと、がんぜない幼な子のように駄々を捏ねたのはテヒだった。自分の心の一体どこに、そんな我儘な感情が存在したのかと、テヒ本人が驚いてしまったこともまた事実で、それもこれも、このところの一連の事件と無関係ではないのかもしれないと、ふと思ったりもする。

「ほらほら、テヒちゃん、ぽろぽろご飯こぼしちゃだめじゃないか」
「あ、ああっ・・・ごめんなさい」
「よそ見してるからだよ、まったくこの子は」
ぶつぶつと文句を言いつつも、時々こうして息子に手料理を振舞うことが、今の彼女の生きがいになっていることをテヒは知っている。そんな彼女との約束はただひとつ。
“ヘスクを、オンマと呼ばないこと”だった。
あんたの母親は、育ててくれたミスクさんだけだよ。それを忘れちゃいけない。あたしは市役所の掃除のおばちゃん。それでもいいなら時々遊びにおいで。あんたの大好きなキムチ、食わせてやるよ。そう言って複雑に笑ったヘスクの元を月に2~3度訪れるのがあの夏以降テヒの習慣となった。勿論、ミスクも承知している。元来、豪放な性格のミスクは、心乱れる様子など微塵も感じさせず、あれこれ逡巡する息子の背を押した。
ミスクとヘスク、ふたりの母を得て今、自分はなんて幸せな人間なのだろうと思うのだった。
「あんたね、そうやって煮え切らない態度でもって、いつまでも待たせてると、逃げられちゃうからね」
「え?」
さっきの話の続きだよと、アパートの狭いキッチンでチヂミを焼くヘスクが、首だけ捩るようにして居間の息子に忠告した。
「大体あんたには女心ってもんが分かってないようだからね。あの人・・・ほら何て言ったっけ、探偵の」
「パクウィ?」
「そうそう! パクウィさんあたりに、女の子のハートを鷲摑みにする極意かなんか、一度伝授してもらっておいで。そうでないといくら気の優しいシニョンちゃんだって・・・」
「な、何で俺がパクウィなんかに、恋のハウツーを伝授されなきゃならないのさ」
テヒはあからさまにムッとした。冗談じゃない。ギョンジンと知り合ってから一体何年間、あいつがウジウジとナイトの役を演じてきたと思ってるんだ。俺よりあいつの方がず~っとずっと、煮え切らない男だというのに。
ところがヘスクの口からその夜、テヒは驚愕の事実を告げられる。
「さっき市役所でシニョンちゃんから聞いたんだけどね、あのふたり、結婚するらしいじゃない?」
「・・・・・えぇっ!!??」
ブーーーーッと盛大に、飲んでいたチャミスルを鼻から噴き出して、テヒはまた叱られる。
「汚い子だねえ・・・ったく。自分で拭きなよ、ほら」
動揺したまま卓袱台の上をせっせと拭くテヒに、ヘスクは更に追い討ちをかける。
「しかしアレだね、最近の若い人たちはみんな順序が逆なんだねえ。デキチャッてから結婚なんだからねえ・・・」
「な、な、な、で、で・・・」
もしかしてあの夜か? 100発100中なのか、あいつは? いや待て、日数が・・・・まさかそんな信じられないと茫然自失するテヒに、ヘスクは厳しい表情で告げた。
「テヒちゃ~ん、あんた負けてる場合じゃないわよっ! デキチャッタでも何でも、好きな娘と結婚したモンの勝ちよ!」
「な、何でもって・・・・勝ちって・・・そんな」
「つべこべ言ってないで、とっとと“すること”しないと、逃げられてからじゃ遅いんだからねっ! 強引なくらいの男に、女は惚れるんだよ」
すること――――その意味を理解することは、もはやオーバーヒート状態のテヒの脳には不可能で、ヘスクのぶんぶん振り回すフライ返しを、ただ呆然と見詰めるのだった。

Brother_3最後はやはりこの1枚^^ 「キムチ兄弟」です。
子どもの頃――――と、テヒは夜空を仰ぐ――――自分が不幸だと思ったことなどなかった。ヘスクの部屋から帰宅したひとりきりの自室。目覚めてしまった夜半に窓を開け放てばもう、少し冷気が厳しい季節だ。テヒは、現在も勿論そうだが、自分が他の人間よりも恵まれないとか幸薄いとか、そんなことを感じたことは一度もなかった。それは教会のシスターや、一番にはやはりミスクとドンファンの愛情によるところが大きいのだろうが、テヒの鷹揚な性格も大いに関係しているのかもしれない。
ただ、自分の求めるものはきっと、何ひとつとして手に入らないのかもしれないという諦念の感は、いつも心のどこかに根強くあった。掬い上げたはずの水が指の隙間からさらさらと零れ落ちてゆくような、音のない虚しさが常に心を支配していた。
だからあの時・・・・ドジンの身代わりになって刺されたあの瞬間、全く恐怖を感じなかったことも、最初はそんな虚無感の延長なのだろうとテヒは考えていた。しかし、それならば、ドジンを傷つけた町長を許すまいと燃え盛る火の中に飛び込んでいった自分の激情は、どう解釈すればよいのだろうか。
なりふり構わず何かを求めるという行為は、それまでのテヒには有り得ないものだった。というよりも、そこまでして手に入れたい、守りたいと思うものが、テヒにはなかったのかもしれない。これみよがしの激しい感情表現は何よりも苦手だし、大体“愛”なんてものは、口に出しした瞬間、半分に減ってしまうのではないかとさえ思っていた。真剣に。
けれど。
隠し持った愛の深さを恥かしげもなく見せつけるようなやり方も、もしかしたら悪くはないのかもしれないと、そんなタチの悪い思いもふと過る。悔しいけれど、あの粋がったニコチン中毒の探偵の生き方にテヒは少なからず憧れを持っていて、そしてまた、認めてもいるから。

今度の週末はまた、シニョンを誘ってドライブに出かけよう。
特別な計画など何もない、ただのドライブだけれど。
助手席で、海の色がきれいだとはしゃぐその手のひらを、黙ってそっと握り締めたら、彼女はどんな顔をするだろうか。

求めなければ傷つくこともないけれど、永遠に手に入れることもない。
けれど、どれほどに傷ついても構わないから手に入れたいものが、今、テヒには確かにある。

満ちた月がうつくしい。
いつかふたりでこんな月を、寄り添い眺めることができればいいと、そう願った。

                                               (了)

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2006年7月28日 (金)

『キムチ兄弟』 第14部 ~暁光~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

天井は思ったより高かった。腰を屈める必要もない。186cmもあるパクウィでさえも鴨居に頭をぶつけることはなかった。屋根裏の小部屋というにはかなり広さのそこは、窓こそないものの空調設備が整っているらしく、照明を点ければいっそ快適な空間ともいえた。しかしテヒは、そこへ1歩足を踏み入れた瞬間、胸を圧迫されるような吐き気を覚える。
漂う一種異様な雰囲気の原因は、鼻をつくテンピン油の臭いと壁一面を覆い尽くした何枚もの絵画であった。
絵のモデルはすべて・・・・・・・眠るドジン。
絵としての出来不出来は別にして、どれもこれもまともな神経では正視できないようなアングルの作品ばかりだった。KTXの車内でパクウィから聞かされた話は、はやり本当だったのだ。あり得ないことではないと思いつつ、それでも心のどこかで嘘であって欲しいと願っていたテヒの思いは、無残にも打ち砕かれた。
コンテで雑に描きなぐっただけのスケッチから、体毛の一本一本まで丁寧に描かれた大作まで、号数も手法もバラバラなそれらの、ある作品は額に入れられ壁に、またある作品はイーゼルに置かれてオブジェのように飾られていた。
ドジン、と小さく呼びかけて揺り動かせば、長い睫毛を震わせて目を覚ましそうな表情。その生々しいまでのリアルさに、テヒは目蓋を伏せ、肩で荒い呼吸を整えた。そうでもしないと本気でその場に吐いてしまいそうだった。

Kim1で、出たぁぁぁ\(◎0◎)/ エロ絵描き(爆) こんな形で登場させてみましたが如何でしょう(^^ゞ
「彼の美しさはね、この手で隅々までつまびらかにすることによってより奥深く、神秘的ともいえる領域にまで達したのですよ。彼の、きっと他の誰にも見せたことなどないセクシャルな表情・・・・眠りに落ちた時の危険なほど無防備な四肢・・・・それらの全てが、ああ、ただ自分だけにあるのだと、自分だけのためにだけ捧げられた芸術なのだと、そう感じる瞬間の背筋がゾクゾクするような歓喜! あなた方にお分かりいただけますか?」
「いただけるわけねえだろっ、このエロジジイ!」
もはや独善的としか言いようのない講釈を始めた町長に、パクウィがぶちキレた。
「本人の了承もなくこんな絵、何枚も描かせやがって! どうせ途中で起きねぇように毎回妙な薬でも飲ませてたんだろが!」
「そんな大げさな、ただの睡眠薬ですよ。害はない。私はただ、恋人同士の逢瀬の残像を絵画として残そうとしただけです。ドジンには、彼がもう少し大人になって自分の持つ芸術性を理解できるようになった折、きちんと話そうと思っていました」
「バカ言ってんじゃねえよ」
「何がバカなものですか。ドジンは私を愛しています。それはお兄さんとてよくご存じですよね?」
黙ったまま、残り少ない壁の白い部分を睨んで、テヒは微動だにしない。
「愛はエロスです。そしてエロスこそが美です。芸術です。ドジンと私はふたりで、それらの偉大なる結合の瞬間を目指すのです! 今までも、そしてこれからもずっと!」
町長の声は次第に興奮に奮え、ギラギラとした狂気を滾らせた視線は、ゆらゆらとどこか遠い世界の果てを見ているようだった。
「死ね! この変態野郎!」
「私たちふたりなら出来る! ドジンの美しさを存分に引き出せるのはこの私しかいないんだ! 死んでしまった彼の父親の分まで・・・」
「テメエが殺ったんだろがっっ!!」
「エロスこそが近代芸術を支える礎です! ドジンと私の目指すものは、愛とエロスの、それはまさしくアウフヘーベンなのだ~~!」
町長の支離滅裂な台詞が終わらないうちに、パクウィが目の前にあったイーゼルを手当たり次第なぎ倒した。
「ふざけてんじゃねぇぞ、おりゃああっ!! 寝言は寝て言え!!!」
「ああっ! 大切な作品になんていうことを!」
慌てふためく町長を尻目に、パクウィは床に散らばった絵を次々に踏みつけた。
「こんなものの、どこが芸術だ! テメエはな、ただの色情狂だ!」
「ナントでも言いなさい! そんなことで私のドジンに対する気持ちは何も変わらない!」
「テメエが変わらなくてもな、ドジンの方で思いっきり変わるんだよ!」
パクウィが町長と揉みあっている間に、テヒはこの部屋に入った時から気づいていた、ある位置へ移動した。階段を上がって入ってきたドアとは反対側の壁にあるもうひとつの扉・・・・・
テヒは迷わずそのノブを回した。
「あっ! そこは!」
あからさまに動揺した町長の声色に、テヒは確信する。狭い階段を一度駆け下り、寝室からさっきパクウィが振り回していた手斧を取り再び階段を上る。
「やめろ! よすんだ!」
「こっちは押さえてるから、テヒ、早く入れ!」
パクウィが町長を押さえつけている。テヒは夢中で手斧を振り下ろし、ドアノブを鍵ごと叩き壊した。足の裏で勢いよく蹴りつけると、木製のドアは吹き飛ぶようにして開いた。
真っ暗な2畳ほどの狭い納戸の奥に、まるで座らせられたマネキン人形のように、弟はいた。
「ドジン・・・・・」
静かに目を閉じたその表情は、いましがた見た絵画と何ら変わりない穏やかなものだった。ただひとつ決定的に違うのは、ここにいるのが血の通った生身の人間、パク・ドジンであるということだ。2次元ではない、温みと感情を持った人間だということ。
「ドジン」
近づきながら、もう一度テヒは声をかける。
けれど、・・・・・返事はなかった。

                  *

Otubone8こんな日が近く訪れるのか、果たして?どうよテヒさん、そこんとこ。
それで、と彼女はポットのお茶をカップに注ぎながら訊ねた。S市役所近くの公園。夏の間は毎日のように子どもらが水遊びに興じていた噴水の池も、この季節になるとさすがに静かで、心なしか水の勢いも弱まっているように思える。
背後に飛沫の音だけを感じながら、ふたりベンチに並ぶ午後12時30分。
「まだしばらくは入院が必要なんでしょ?」
「うん。完全に退院するまでにはもう少し時間がかかるらしいし、第一元通りの身体に戻るかどうかも今のところ定かじゃないらしくて・・・・自業自得って言えばそれまでなんだろうけど」
「命があっただけでも良かったと思って欲しいわ」
「まあね・・・・・精神鑑定の結果を待って、本格的な裁判が始まるらしいよ」
「そう・・・・・・やっぱり、複雑?」
シニョンは、自分こそ複雑な顔をしながらそう訊ねた。ふっ、とやはりどこか複雑な苦笑を漏らし、テヒは答える。
「・・・いろいろとね、ありずぎたから」
「・・・・そうよね」
「・・・・・・」
途切れた会話の合間に、テヒは彼女の手製のキムパを一切れパクリと丸ごと頬ばった。まんま飲み込もうとして喉に詰まらせてしまう。
「んっ! んんっ! んーーー!っ」
「え? 何、また詰まらせちゃったの? もぉテヒさんは・・・・・はい、お茶」
「んっ・・・・・・・ぶはっ」
涙目になりながら胸を叩いていたテヒは、シニョンに手渡されたお茶を飲み干しやっと息をついた。
「あ、ありがと。はぁぁ、苦しかった」
「一度にそんなにたくさん口に入れるからよ。昨日も一昨日も同じことを」
「だって・・・・お腹空いてるからつい」
テヒの言い訳に、はっ、と短く尖ったため息を零したシニョンは、恨めしげにその邪気のない横顔を睨んだ。
「美味しくてつい、とか言えないものかしらね~、せめて」
「え?」
「いいえ。別に何でも。テヒさんにお世辞とか求めても、無駄よね」
きょとんと半開きの口で、テヒは小首を傾げる。
「お世辞じゃなくて、本当に美味しいよ? シニョンさんの作ってくれるお弁当はいつだって美味しいよ」
「・・・・・」
「嘘じゃないよ。本当だよ。だからこうして毎日・・・・」
「お弁当が美味しいから?」
「へっ?」
「美味しいお弁当が楽しみで、毎日昼休み、付き合ってくれてるの?」
「そ、そ、それもあるけど・・・・・それだけでもないというかナンというか・・・・」
もごもごとはっきりしないテヒに、もういいわ、とシニョンは立ち上がった。
「シ、シニョンさん?」
「いいのよ。こうしてテヒさんとお昼一緒に食べられるだけで」
そう言って彼女はう~~んっ、とひとつ背伸びをした。後頭部の犬のしっぽがふるんと揺れる。すっかり秋の色合いを濃くした空はどこまでも高く、あのうろこ雲に触ってみたいなぁという彼女の呟きも叶いそうにない。
「あ、私のお弁当に飽きちゃった時は遠慮なくそう言ってね。それから誰か他にお弁当作ってくれる人が出来た時も、はっきり言って欲しいの。それに時間が惜しい時や、気が向かない時も・・・・」
「・・・シニョンさん?」
「本当は疎ましいと思われているのに、自分だけ気付かないなんていうシチュエーションって、笑えないじゃない? 私そういうの鈍感だから、迷惑な時は迷惑だってきちんと言ってもらわないと・・・・」
Nukesaku_3クマちゃ~ん、写真ありがとう。え? 聞いてない? へへっ・・人はそれを“無断借用”と云ふ。反則その1。
「どうして?」
テヒは思わず彼女の言葉を強い口調で遮った。
「どうしてそんなこと言うの?」
「どうしてって・・・・それは・・・」
「シニョンさんのしてくれること、迷惑だとかそんなこと、俺は一度も思ったことないのに」
「・・・・・・」
「俺が迷惑そうにしたこと、ある?」
「・・・・・・」
「他の人と過ごすくらいなら、お昼はひとりで食べるよ」
テヒのその言葉に、背を向けていたシニョンが振り返る。テヒは彼女のいつになく弱々しい視線を正面から受け止め、優しく微笑んだ。
「ねえシニョンさん、ふたつだけ、お願いしてもいいかな」
「・・・・?」
「ひとつ目は、・・・・訂正して欲しいんだけど」
「訂正?」
「うん・・・あの日、アウラジの事務所でシニョンさんは俺に『今のは事故だから』って、そう言った・・・・・・・憶えてる?」
「あっ・・・」
それが、テヒにキスをされた夜のことだと思い至り、シニョンは見る見るその頬を染め上げた。
「あれはね、その・・・つまり、事故なんかじゃないから。確かに俺はあの時どうしようもないくらい混乱していて・・・誰かに縋りたい気持ちだった。でも、誰でもよかったわけじゃない。あの時あそこに現れたのがシニョンさんじゃなかったら・・・・俺はあんなこと・・・・しなかった」
「・・・・・」
「わかってくれる?」
深く俯いたまま、シニョンがコクリと頷いた。さらりと揺れる犬のしっぽを、愛しい者にするように優しく撫でながらテヒは続けた。
「それからふたつ目なんだけどさ・・・・今度の週末、時間あるかな」
「・・・・?」
「ふたりでどこか、出かけない?」
「えっ?」
「暑くもないし、寒くもないし・・・・ドライブには最適な季節・・・・でしょ?」
「テヒさん・・・でも・・・」
「でも?」
「ドジンさんは・・・」
「ああ・・・・あいつはもう大丈夫。新しい仕事が随分と性に合ったみたいで、休み返上で働いてるよ。半分はまあ、コキ使われてるっていうか・・・・まだ慣れないんだから加減しろって言ってるのに、俺の忠告なんか聞きゃあしない。相変わらずのやんちゃさ」
「そう・・・良かった。本当に良かった。ドジン君が元気になって」
シニョンの目から、突然大粒の涙がほろほろと溢れて落ちた。
どうして泣くのかと慌てたテヒは、お茶の入ったカップをひっくり返し、泣き笑いの顔で文句を言いつつシンニョンがハンカチで拭く。

昼下がりの公園。よちよち歩く幼子に追われて一斉に飛び立つ鳩の羽音・・・・・
ほんの小さな幸せの風景に、テヒはこの数ヶ月の苦しみが確実に薄らいでゆくのを感じていた。

                  *

真っ白のシーツに辛うじて半身だけに纏った状態のドジンを、海雲台にあるオ元町長の別荘から助け出したのは、およそ半月前のことだった。
隠し部屋の、更に奥の納戸に閉じ込められていたドジンは問いかけにも答えず、何時間もの間縄で縛られていた手足は血流を止められて紫色に冷え切っていた。
(まさか・・・・・死んでる?)
一瞬過った恐ろしい想像に震え、竦みそうになる己の身体にムチ打ち、自分と同じほどの体重の弟を担ぎ上げると転げ落ちそうになりながら一気に階段を下りた。寝室のベッドに寝かせ呼吸を確かめる。口元に顔を近づけると微かではあるが頬にあたたかい息がかかるのが感じられた。縺れる指で、それでも懸命に縄を解き、氷のような温度の手足を必死で擦ってやると、ようやく「んんっ・・」とくぐもった呻きが漏れ聞こえた。

Dojin_mini反則その2。ちょいと拝借してきたチビドジン。可愛いから許して。
「ドジン? ドジン、大丈夫か? 怪我はないか?」
「・・・・にい・・・さん?」
「どこか痛いところはないか? ん?」
「兄さん・・・・俺・・・」
「苦しくないか? 寒くないか?」
大丈夫だよ、というようにドジンは頷いた。
「気分悪くないか? 何かヘンなもの、飲まされたりしてないか?」
「・・・大丈夫だから・・・もう心配しないで」
「ドジン・・・・」
安堵からか、テヒは全身の力がへなへなと抜けてゆくような感覚に襲われた。とりあえず生きていてくれた。ドジンが、帰ってきた。
「兄さん、俺・・・・」
「待ってろ」
何か言いかけた弟を制し、テヒはなけなしの脚力で立ち上がる。
「今は何も話さなくていいから。上で今、ちょっと揉めてるから行ってくる。お前はここで待ってろ。いいな? 絶対にここを動くなよ」
「兄さん・・・待って!」
「すぐに戻るから」
テヒがそう優しく諭しても、ドジンはテヒのシャツの裾を握って離そうとはしない。
「ドジン?」
「俺ね・・・俺、デスさんのところに戻ろうと思ったんじゃないんだ。嘘じゃないんだ。信じて。兄さんがあんなことになって・・・俺、本当に怖くて怖くて、自分のせいだって、申し訳なくて・・・」
「あれはお前のせいなんかじゃない」
「ううん、俺のせいさ。俺のせいで兄さんはあんな怪我までして・・・・もう兄さんに合わせる顔なんかないって思って・・・・」
「・・・・・」
「だけど、ひと言どうしても謝りたかった。何度もお見舞いに行こうと思った。ギョンジンにもいい加減意地張るのはやめろって、毎日のように言われた・・・・だけど・・・デスさんとのことをきちんと終わりにしない限り、兄さんには会っちゃいけないような気がして・・・だから、俺・・・・」
「だからひとりでこんなところに来たのか?」
叱るように問えば、すまなそうにコクン、と小さく頷く。そのどこか怯えたような眼差しは、テヒだけが引き取られることが決まったあの日、離れたくないと泣いて縋った時の涙に濡れた眼差しそのものだった。
「バカ野郎。心配ばっかりかけて」
「ごめん・・・・ゴメンね兄さん・・・・ごめんなさい・・」
もうとっくに許しているよと告げる代わりに、眦から零れた熱いものを指で拭ってやった。
「デスさんに・・・別れようって言ったんだ。あなたをどんなに恨んでも、父さんも母さんも帰って来やしないから、せめて自首してくれって・・・・だけど、あの人は耳を貸さなかった・・・・油断した隙に後ろから殴られて・・・俺・・・・」
「もういい、ドジン。もう話さなくていいから」
「ごめんなさい・・・・兄さん」
ごめんなさいばかり何度も繰り返してはしゃくりあげる弟を、テヒは力の限りその手にかき抱いた。

Paku_1お約束の(いつから^^;;)サービスショット。あっは~~ん。
程なくして、パクウィがぐったりした町長を伴って階下へ降りてきた。テヒが応援に駆けつける間もなく捕り物は呆気なく終わったようで、新米探偵はかすり傷ひとつ汚れひとつないクールな姿のままその任務を完了しようとしていた。
ひとりで歩けるとドジンが言い張るので、4人はそれぞれの足で屋敷を出る。
玄関に佇んで時計を見れば、あと1~2時間もすれば夜が明ける・・・そんな時刻になっていた。テヒが警察に連絡を入れ、パクウィがその日1本目の煙草に火をつける。
「トイレに行かせてはもらえないかね」
町長が、隣で紫煙を吐く長身の男に向かってそう言った。
「警察で行けよ」
「今更もう逃げたりしませんから。何ならドアの外で待ってもらっても構わない」
ちぇっと舌打ちし、パクウィは顎で言って来いと伝える。ドジンが無事であったことが何かしらの気の緩みを生んでしまったのかもしれない。ありがとう、と穏やかに頭を垂れて今出てきたばかりの建物に戻る町長の目がこれまでで一番強い狂気を宿していたことを、そこにいた3人の誰もが見落とした。
はっと気づいた時には、出窓の隅に赤い炎がはっきりと確認できた。
「クソッ! ジジイ、火ィつけやがった!」
3人は、とりあえず足元の覚束ないドジンを両脇から支えるような体勢で建物を離れた。そしてほんの数十秒後に振り返った時には、思いの外猛烈な勢いで回った火の手がすでに出窓一面を覆うようにうねっていた。あまりの様子に、それぞれが愕然と立ち尽くす。

メラメラと音を立て始めた炎を見ているうちにテヒは、何だか分からない怒りが心の奥から湧き上がってくるのを感じた。
(ダメだ。許さない・・・・・許せない!)
思った時には、身体は弾かれたように駆け出していた。
「テヒ! 待て!」
「兄さん! ダメだ!」
走り出したテヒに気付くのが遅れた2人の声を背中に聞きながら、テヒはあっという間に屋敷の中に転がり込んだ。案の定、町長は最上階の隠し部屋にいた。
「何やってるんだ! 焼け死ぬぞ!」
火をつけた時に負ったのだろう。町長の腕や腿のあたりには既に酷い火傷が見られた。惨たらしく焼け爛れたそこは、皮膚がズルリと剥け落ちている。
「早く! 一緒に下りるんだ!」
「ドジンや、私の可愛いドジン・・・い、一緒に死のうね・・・一緒に死のうね・・・うけけっ・・・うけけけけ~~~」
町長は完全にヤラレテいる。痛みすら感じていないようだ。このままでは自分も助からない。そう判断したテヒは、生まれて初めて他人の腹に力いっぱい拳を叩き込んだ。
「うっ・・・」
低く呻いた町長が崩れ落ちるのを待たず、テヒはその身体を担ぎ上げて階下へ向かった。途中煙にむせ、何度か倒れそうになったが、割れた窓の外から必死で自分を呼ぶドジンの叫びに励まされ、ようやく玄関を出ることが出来たのだった。
「自分だけ楽になろうなんて、許さないから」
テヒは、朝露に濡れた芝生に転がった町長に向かって呟いた。
「生きて・・・・・・法の下で一生罪を償うんだ。死んで楽になるなんてことを、俺は認めないから。ドジンも、死んだドジンの父さんも、お前のものなんかじゃない。そのことを一生かかって認めさせてやる! 分かったか!!」
もはやその叫びさえも聞こえてはいないだろう町長が、ひくりと動いたように見えたのは気のせいだろうか。近づいてくる様々な種類のサイレンと、時折響く乾いた木の焼かれる音だけが、海辺の朝靄の中にこだましていた。

Chouchou_1「ド、ドジン・・・い、一緒に・・・一緒に・・・」 我ながら強烈でええキャラやのぉ・・・むひひ。
それから半年の間に町長がぽつりぽつりと自供した様々が、どういったルートかは不明ながらもジュンギを通してテヒらの耳に届けられた。
亡くなったドジンの父とオ・デスは、確かに高校時代を共に過ごした旧友であった。しかし当時の同級生らの証言から、ドジンの父に付き纏っていたのはデスの方で、その思いはかなり一方的なものだったという。飛びぬけてハンサムなだけでなく、スポーツ万能で明るい性格だったドジンの父は男女を問わず人気があり、勉強こそ並外れてよく出来たもののどこか暗い印象のデスとは対照的な存在だった。人目を避けるようにして、あの手この手と個人的な関係を紡ぐ努力をするデスに対しても、彼はあえて嫌な顔をせず、付き合える範囲でその呼び出しに応じていたらしい。しかしそれが、最後には仇となってしまった。
高校を卒業してすぐ地元で実家の家業を継いだドジンの父と、S市の有名大学に進んだデスは、その時点で友人関係も途絶えたかのように思われたが、実はまるで違っていた。なかなか会えない苛立ちから、デスの行動は次第にストーカーじみてゆく。毎日の電話、週末ごとの帰郷、気味の悪い内容の手紙・・・・しかしそんなデスの常軌を逸した行為にも、ドジンの父は激することなく、やんわりと宥めるような言い方しかしなかったのだという。
大事な友達だから・・・・と。
けれどそう思っていたのは彼の方だけで、大学を卒業後国家試験にも合格し検察事務官から検事への道を歩みだしたある日、デスはとうとう越えてはならない一線を力で無理矢理越えようとした。体格は互角だったが、運動神経で勝るドジンの父にねじ伏せられてしまう。
初めてはっきりと突きつけられた“拒絶”の意思。10年以上もの間心に秘めてきた想いを打ち砕かれ、プライドの高いデスは激しく傷ついた。一方的な歪んだ愛情が憎しみへと変貌するのにそれほど時間はかからなかったようだ。

半年後、ドジンの父が結婚するという話を耳にしたデスは、ある計画を思いつく・・・・・
そして、不幸なことに、その計画は実行され・・・・・すべてはひととき、闇へと葬られたのだった。
そう、26年もの間、誰にも気付かれることなく・・・・・・・・・・

                                               (続く)

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2006年7月27日 (木)

『キムチ兄弟』 第13部 ~接近~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

「何で、ここ?」
ソウル駅近くの駐車場。いいから早く降りろと急かされ、理由も聞かされないままとにかく走れと命令された。
「なあ、高速でアウラジに行くんじゃなかったのか?」
腕時計にチラチラ視線をやりながら少し前を走る長身の男の背中にそんな疑問をぶつければ、
「俺がいつアウラジに行くと言った」
と、ぶっきら棒な返答が飛んでくる。
「だって、町長の本丸なら当然アウラジだと・・・」
「あ~~もっ、グダグダしてると間に合わねぇんだよ! もっと早く走れ!」
「ちょっ、おい、待てよ!」
擦れ違う人に何度も激突しそうになり、挙句切符売り場のお姉さんから奪うようにしてチケットを受け取り、ふたりは発車直前のKTXに飛び乗った。

Pakuおよそ本能のまま進む男。
息も絶え絶えの両人が相次いで崩れ落ちるようにして座席に着いた時、列車は既にゆるやかに動き始めていた。
一昨年開業したばかりの超高速列車KTX。ソウル発釜山行き。
目的地とはそことばかり思い込んでいたアウラジとはてんで違う方向に時速300キロで向かうことになったテヒが、なぜ?と問う前に、向かい側の席で脱力する男が荒い呼吸の合間に語りだした。
「あんたが、わ、悪いんだぞっ・・・降りてくんの、遅せぇ・・・から・・・あー、しんど」
喉をゼーゼーいわせて額の汗を拭うパクウィに、テヒは反論する。
「だってっ、こんなの、乗るなん・・・って、き、きいてないし・・・うー、気管が血の味する」
「俺も・・・・久々、こんなマジで、走ったの」
テヒのリュックに偶然入っていたペットボトルのミネラルウォーターを分け合って飲んだ。すっかりぬるくはなっていたが、今のふたりにとっては正に命の水だった。
「この17時発ってのが今日最後の直通なんだ。後は途中であちこち駅に止まる列車しかなくて・・・それだと釜山まで3時間もかかっちまう。それにこれに乗らないと海雲台までの最終のバスに間に合わなかったんだ」
「海雲台?」
「ああ。知ってるか?」
「場所は知ってる。行ったことはないけど」
パクウィの調査によれば――――といってもかなりの部分でジュンギの人脈と知力が物を言っているのではあるが――――オ町長は、検事をやめてアウラジ町長に就任した数年前、海雲台の海岸近くに別荘を購入している。登記上の名義人は町長の父親になっているため警察もたいした調べを行わなかったらしい。しかもその事実を知っているのは町長本人と、彼に手なずけられていた運転手だけだ。町長自身滅多にそこを訪れなかったため、側近と言われる人間でさえも誰一人として別荘の存在を知らないという。
ところがこの1年の間、町長は突如として別荘にしばしば足を運ぶようになった。彼の運転手だった男に大枚を渡して得た情報によれば、町長が別荘に向かう時、その傍らにはいつも20代と思しき美しい青年の姿があり、毎回ふたりがその別荘でどんな休暇を過ごしていたかについては、推して知るべしといった雰囲気だったという。
「・・・・・・・」
思わず言葉を無くすテヒの様子を見て見ぬふりをし、パクウィは続けた。
「それだけじゃねえ。あの変態オヤジは、別荘に滞在する際必ずといっていいほど絵描きの男を呼んでいたそうだ」
「絵描き? 画家ってことか?」
「ああ。町長の古くからの知り合いっちゅうか、つまり・・・・そっちの世界の男だ。そちらの方々の間じゃかなり有名らしい。町長はドジンと別荘を訪れるたび、毎回そいつを近くのホテルで待機させておいて、深夜とか明け方近くの時間になると呼びつけていたらしい」
「それは・・・どういう・・ことだ」
言わずもがなといった表情で首を振るパクウィの横顔に縋る様な眼差しを向けてみても、救いの言葉など返ってこないと分かってはいた。さりとて言葉にしてはっきりと確認するだけの勇気もない。ならばせめて彼の口から真実を、バッサリ切りつけるように傲然と告げられたいと願う。
「もっと詳しく聞かせてくれ」 
パクウィは静かに頷く。
「つまり・・・・絵だ。それも大量にあるらしいんだ」
「・・・・・・・」
「一度だけ、町長の忘れ物を届けに、運転手の男が夜半に別荘を訪れたことがあったらしい。その時偶然覗いちまったみたいなんだ。あんたの弟はどうやらコトにあと眠っちまってたみたいで・・・・・・・町長がその画家にあれこれ指示して・・・・眠っているドジンの・・その・・・絵を描かせていたそうだ」
「・・・・・・・」
Otouto9 miyukiひょん、ほらほら、ヨダレ拭いて(笑)
気付けばすでに列車は市街地を抜け、ポツリポツリと家々のあかりが灯り始めた郊外の田園地帯を疾走している。テヒは後方に飛び去るそのひとつひとつの灯りを目で追った。
「何をされてもどんな格好させられても、ドジンは全く目を覚ます気配がなかったっていうから、多分、何か薬でもって眠らせれていたのかもしれない。ドジンは自分の眠った後に毎回そんな絵を描かれていたことなんか、多分知らないはずだ。描かせた絵は全て、別荘の隠し部屋みてえなところに保管されているらしいんだが・・・・さすがに運転手もその部屋には入ったことねえみてぇだし、当のドジンはその部屋の存在すら知らねぇんだろうな」
ったくどんな歪んだ愛だよ、そんなの愛じゃねえだろ、クタバレ変態町長とパクウィは吐き捨てるように言った。テヒは何も答えず、黙ってずっと窓の外を飛び去ってゆく風景を見ていた。
ただひたすらに無事なドジンに会いたいと願う。たとえ時速300キロでもって駆けつけても・・・・今の自分には遅すぎる気がした。
「ドジンは・・・・・それでもドジンだから」
「ん?」
ぼそりと突然呟いたテヒの横顔に、パクウィが労わるような視線を送る。
「どんなに貶められても、辱められても、俺にとってドジンはドジンだ。何も変わらない」
「・・・・・テヒ・・」
「ずるいことや卑怯なことは出来ないやつなんだ。だから・・・本気で好きになっちまったんだろうな、町長のこと。疑うこともせずに一途に突っ走って、・・・・こんな仕打ち・・・馬鹿なやつだよ。本当に」
「・・・・・・・」
独り言のようなテヒの言葉を最後に会話は途切れ、ふたりは今夜にも対峙することになるであろう厳しい現実を思ってか、どちらともなく仮眠に入った。

ソウルを出てから2時間34分後、KTXは終点の釜山駅に到着した。
すっかり夜の帳がおりた海辺の街に、浮かび上がるような近代的な駅舎。郷愁を誘う街並みと時代の最先端を思わせるその建物のミスマッチともいえるコントラストに、ふたりは2度3度と振り返りつつ急ぎ足でバスターミナルへ向かう。
途中、パクウィが首を傾げながら言った。
「ちょっと眠った間に、やな夢見ちまったぜ」
「え、どんな?」
偶然なのか、自分も車内での仮眠中に妙な夢を見たテヒは、驚いて問うた。
「俺が高校生の時飼っていた犬が食われちまう夢でさ、すげえ泣いてるんだ、俺。ウワッて目が覚めたらちょうど蜜陽駅のあたりで・・・・もう一度眠ったんだけど・・・何だかヘンな夢だった」
「そんなのまだマシだよ」
「お前も夢、見たのか?」
「ああ。俺のはもっと最悪さ。釜山のどこかのホテルの前で、ヤクザにメッタ刺しにされる夢だ」
「げっ・・・」
「ラルフローレンのポロシャツ着て、短パンはいた小太りのおっさんに、いろいろと命令されるんだけど・・・」
「なにぃ! ちょっとおい、そのおっさん、俺の夢にも出てきたぞ! メガネかけた海ガメみたいな顔してなかったか?」
「うん、してたしてた。知り合いのような気もしたんだけど、どうも思い出せなくて・・・・」
「俺もだ。どっかで見たことあるんだけど、思い出せなくて・・・・何かの祟りかな」
「海ガメの祟り?」
「さあ・・・」
海雲台行きのバスが、ターミナルに滑り込んできた。ふたりはう~~んと首を傾げたまま、最終バスに乗り込んだのだった。

                         *

浜辺にほど近いその別荘は、探し回るまでもなくすぐに見つかった。パクウィが住所のメモ書きを持ってはいたが、それすらも必要のないほど、その荘厳かつ静謐な佇まいは周囲を圧倒する存在感をもってそこにあった。昼間であったならその青さに瞳孔が収縮するであろうほどの見事な芝生の庭園の、中央をうねる様にして玄関まで続くレンガの小道。ふたりはわざとその小道を避けるようにして庭園の隅を通り、建物に近づいていった。
何よりもふたりに緊張感を与えたのは海岸を一望できるであろう部屋のひとつから、微かに漏れる明かりであり、それはすなわち誰か――――つまり持ち主であるオ町長を含む誰かしらが、今現在ここに滞在しているという証であった。
腰を屈め、息を潜め、目視で頷きあい建物に近づく。規格外の巨大な出窓の下には男ふたりが身を置けるだけのスペースが辛うじて確保できそうだ。
レースのカーテン越しに黒い人影が動く様子が見えて取れる。気付かれないように・・・・と細心の注意を払いながら出窓の下に潜り込んだ瞬間、その尊大な声は落ちてきた。
「おやおや~、こんな暗がりで一体どうなさったんです? 何か探し物ですか?」
「わっ!!」
驚いて尻餅をついたのはテヒだ。パクウィはチッと舌打ちをし、不敵な笑みで立ち上がる。
「・・・・ちぇっ、見つかっちまったみたいだな。仕方ねえ」
「逃げないところをみると、泥棒や強盗じゃないようですが、一体どちら様でしょう」
落ち着き払った低い声には、テヒもパクウィも聞き覚えがあった。
「こんばんは、オ・デスアウラジ町長・・・いや失敬、元アウラジ町長さんよ。俺たちはあんたに用事があって遠路はるばるやってきたんだ。ちょっとお話伺わせてもらえませんかね、いろいろと」
「はははは。なかなかどうして度胸の据わった人ですねえ。他人の敷地にこそこそと忍び込んでおいてその言い草。どうやら初対面でもないようですが・・・・そちらで尻餅ついてらっしゃるのは、もしやドジン君のお兄さんかな?」
テヒは尻についた草や土を払いながら、窓辺の男を睨みあげた。
「パク・テヒです。勝手に入り込んだことはお詫びします」
「これは光栄ですね。ドジン君のお兄さんに釜山くんだりまでご足労頂けるなんて。折角いらっしゃったのですからお上がりになりませんか? 生憎食事はもう済ませてしまったので、シェフは帰してしまったのですが。お茶でよろしければいかがです? ドジン君のお兄さんなら大歓迎ですよ」
「ああ、望むところだ。そのために時速300キロで走って来たんだからな」
すかさず答えたのはテヒではなくパクウィであったが、町長は殊更のようにテヒだけを見詰めてにっこりと微笑んだ。
「それはそれはご苦労様でしたね。さ、どうぞ玄関にお回りください」

Nukesaku_4オレだって脱いだら凄いんだよ。乳毛とか腹毛とか普通にあるし・・・・(わりと自慢)
以前から気に入っていた古い洋館を買い取ってあちこち手を加えたのだというだけあって、エントランスから続く長い廊下の至る所に、町長の趣味らしきガラス工芸やオブジェ、絵画などが飾られていた。どうぞ、と通された洋間はさっきふたりが蹲っていたあの出窓のある部屋で、やはり壁一面に絵画や、廊下に飾られたいたものとよく似た雰囲気のオブジェが所狭しと並べられていた。
「エミール・ガレか」
パクウィの何気ない呟きに、町長はパッと顔を輝かせ、歓喜に満ちた表情で目を細めた。
「おお、パクウィさんはアール・ヌーボーをご存知で」
「別にご存じなんて高尚なもんじゃねえ。昔ちょっとあれこれ興味があっただけだ」
「そんな、ご謙遜を・・・・」
明らかに嬉しそうに町長は立ち上がり、窓辺に置かれていた華美な装飾を施されたランプを手に取った。
「これは・・・・ガレの後期の作品です。この、ここのところの曲線のラインが何とも言えずに美しい。これぞアール・ヌーボーの真髄といえるほどの一品だと思うのですがね。パクウィさんはいかが思われます?」
差し出されたそのガラス細工のランプを手にすることなく、パクウィは胸ポケットから無造作に取り出した煙草に火をつけた。
「生憎だったな。俺はごてごてと飾り立てたモンより、すっきりシンプルが好きなんだ。ランプは明かりが点きゃそれでいい」
「おやおや、パクウィさんはアール・デコ派ですか。それでは先ほど廊下でご覧になったオーブリー・ビアズリーなんかはお嫌いですかね?」
「はい、お嫌いです。すんませんね。それに俺はここに、あんたと美術談義をしにきたんじゃねえ」
「それでしたら建築物はどうです? やはり建築様式に関してもデコ派ですか? バルセロナのグエル公園・・・あれはガウディなんですがまことに美しい。パクウィさんは行かれました? そうそう、プラハ本駅のドーム初めてこの目で見た時の興奮と快感といったらあなた・・・・筆舌に尽くしがたいものがありました」
恍惚とした表情で滔々と語る町長の目には、もはや客人の姿など映ってはいないようだった。
「私はね、何でも美しいものが好きなんです。建築物も、絵画も、オブジェも。美しいものだけに囲まれて暮らしたい・・・・若い時からそう思っていました」
「それで自分のオトコにも、とりわけ美しいやつを?」
いささかビーンボール気味に飛び出したパクウィの質問にハッとしたテヒが顔を上げたが、驚いたことに町長は顔色ひとつ変えることなく何度も頷いた。
「パクウィさんは芸術の何たるかをきちんと理解できる方のようですね。まさにあなたのおっしゃるとおりです。ドジンは・・・・顔はもとより、それはそれは美しい体躯をしていましてね・・・・・あのフォルムこそがすでに神聖なる芸術品なのです。体躯のラインひとつひとつが実に洗練されていて、緻密な計算のもとにデザインされた彫刻のようです」
呆れ返って咥え煙草を落としそうになっているパクウィと、普段は温和なその瞳に射殺さんばかりに冷徹な色を湛えたテヒのふたりを、もはや町長が振り返る様子はない。身振り手振りを加えながらドジンの美しさを語る目には狂気が色濃く宿り、自ら発するドジンへの賛美に酔いしれるかのように、語りは次第に尋常でない熱を帯びてゆく。

「彼を手に入れることが出来るかもしれないと知った時の興奮は、私の人生においてプラハ本駅を肉眼で観た時以上のものでした。衝撃的でした。それほどまでにドジンは私の心を揺り動かした・・・・そう、彼の父親と出会った時と同じようにね」
「ドジンの父親を殺したのは、やはりあなたなのですね?」
テヒの質問に町長は答えず、出窓のレースのカーテンの隙間から外の暗がりをじっと見詰めた。
「あの男は・・・・あろうことか私のモノになることを拒んだんです。今のドジンにそっくりな、本当に美しい顔かたちを惜しげもなく世間に晒して・・・・私はそれが許せなかった。あんな、またとない素晴らしいシルエット、フォルム、ライン、そして色合い・・・・どうしても私だけのものにしたかったのに・・・・彼はそれを頑強に拒否したんです。私は当時、検事なんていうケチな仕事をしていましたがね、祖父の代から引き継いだ相当の資産があるんです。じゃがいもなど育てなくとも、生活に不自由させるつもりはなかったのに・・・・それがあんなどこにでも転がっているような、ちょっとばかり顔のキレイな女と結婚なんて・・・・・心底馬鹿な男だ。しかしまあ、そのお陰でドジンが生まれたのだから、今となっては怪我の功名ということになるでしょうがね」
狂ってる・・・・テヒの小さな呟きも、町長の耳には届かない。
「2年半ほど前、S市で初めてドジンを見かけた時、私は歓喜のあまり3日3晩眠れませんでした。本当に偶然だったのですが・・・・街角で佇むその姿をひと目見ただけで、すぐにあの男の息子だと分かりました。事故で1人だけ生き残った、あの子だとね。それで彼がまだあのアウラジの土地の名義人になっていることを知って、思いついたのが・・・」
「チョンソンじゃがいも村か」
「ええ、その通りです。パクウィさんはカンもいいんですね。この手に抱くことの叶わなかったあの男の生まれ故郷アウラジの地で、その最愛の息子を手に入れる・・・・・・素晴らしい計画でしょう? 私は何の迷いもなく早速検事を辞めて、アウラジの町長に就任しました。資金はたくさんありましたから簡単でした。就任するとすぐ、計画をスタートさせました。あちこち抜かりないようにと・・・・町を上げての観光開発ですからいろいろと大変でしたが、ドジンを手に入れるためなら何でも出来ました。就任から1年半でようやく計画が本決まりになり、ようやくドジンに声をかけることができました。呼び出して、土地を売って欲しいと言うと、案の定警戒心剥き出しで反抗的な視線をぶつけてきて・・・・その無垢な子どものような瞳に、大変そそられました」
堪らずカッとなり、拳を握り締めて立ち上がろうとしたテヒを、横のパクウィが無言で制する。
「君のお父さんと私は、それはそれは仲の良い友人だったんだ。何をするのも何処へ行くのも一緒。君のお父さんはね、もしも万が一自分に何かあった時は息子のことをよろしく頼むって、いつもそう言っていた。だからドジン、私のことを本当の父さんのように慕ってくれて構わないんだよ。好きなだけ甘えておくれ。そして一緒に、行方の分からない妹を探そう・・・・たかがそれだけの台詞で、ドジンは私の目の前で涙を流してくれたんです・・・・・聖なる泉から湧き出でたかのような、清らかな涙でした・・・・・」
オ町長の目には、すでに窓の外の暗闇ばかりの景色さえ映されてはおらず、どこか、空想と現実の交わる曖昧なあたりをぼんやり見詰めるような眼差しは、穏やかであるからこそなお、普通ではない世界のものであると確認できるのだった。

                        *

Chouchou_1や、だから、あんたが暴れてどうすんねん・・・^^;;;
ドジンは今、どこにいるのですか?
その単刀直入な一言をテヒが口に出そうとしたその時、一瞬だけ早くパクウィが立ち上がり、部屋のドアに向かって歩き出した。無言の一瞥が、まだそれは聞くなと言っている。
「おや、どちらへ?」
「便所だよ、便所。もう出ちまいそうなんでね・・・で、何処っすか? 厠」
直接的で下品な言葉を撒き散らしながらポリポリと尻を掻いくパクウィに、さすがに眉根を寄せた町長だったが、仕方なくドアを出て左の突き当たりですとトイレの場所を教えた。
わざとらしくドスンドスンと音を立ててトイレへ向かうパクウィの足音が聞こえなくなるのを見計らって、テヒはようやく重い口を開いた。
「ドジンを自分のものにしたかったというだけなら、何もじゃがいも村の計画などなくても父親の旧友だと偽って、妹の生存をダシにして、あいつの気持ちにつけ入ればよかったじゃないですか。町やS市まで巻き込んで、あんな壮大な施設を計画するなんて・・・・」
「馬鹿げているとお思いですか? オトコひとり、我がモノにするために300億ウォン以上の金を動かすなんて」
「ええ」
町長は、分かっていないといった様子で首を左右にゆっくりと振った。
「ドジンの体躯はね、300億ウォンにも値するものなんですよ。どこの筋肉ひとつ取ってもそこには“美”がある・・・・たわわな黒髪も、愛くるしい瞳も、唇も・・・全てが芸術なのです」
「・・・・・・」
「それに、私はあの計画で、実はもうひとつの大切な思いを成就するつもりだったのです。私が手に入れたかったのは、ドジンひとりだけじゃあない」
「えっ? そ、それはどういう・・・」
虚を突かれ、テヒが言葉を失った瞬間だった。
階上でドン!ドン!という激しい物音が鳴り響いた。瞬時にそれがパクウィの仕業であると悟ったテヒと町長が弾かれるように立ち上がったのは、ほぼ同時だった。町長と争うようにして部屋を飛び出し、階段を駆け上がるテヒの耳にパクウィの叫び声が届いた。
「テヒ! 来い!」

町長より数秒早く、その寝室と思しき部屋に駆けつけたテヒの目に飛び込んできたのは、どこで見つけてきたのか手斧のような物騒な凶器で、クローゼット横の壁を叩き割るパクウィの背中だった。
「隠し扉があると、すぐに気付いたんだが、ボタンの位置が分かんねえんだ。あちこち探していたら隣の納戸にこんなモンが入ってたんで、ブチ壊す方が早えぇと思って」
「パクウィ・・」
「多分ドジンはこの中だ」
テヒは、背後の町長を振り返った。慌てるでもなく怒るでもない、かといって開き直った様子もないその凪いだ表情は、落ち着きすぎていていっそ不気味だ。瞳の奥に燻る仄暗い埋み火のような色に、テヒはあの日自分の向けられた刃に対する以上に恐怖を覚える。
「パクウィさん、困りますねえ、勝手に壁を壊されちゃ・・・・修理費にいくら掛かると思ってるんです?」
もはや振り向きもせず手斧を振り下ろす彼に、町長は、仕方のない人ですね短気で、と口元だけで笑った。
「そんなことしたって入れませんよ、奥の部屋には。私が開けますから下がってください」
町長は、パクウィが壊していた反対側の壁にある書棚から、一冊のぶ厚い本を取り出す。そして、その中に隠されていた小さなリモコンのボタンを押した。
カランカランカラン・・・・という滑車の回る音と共にゆっくりスライドしてゆくクローゼットの陰から現れたのは、天井裏へと通じる隠し階段だった。

「おふたりが初めての客人です・・・・・ようこそ私のアトリエへ」

                                              (続く)

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