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2011年6月17日 (金)

映画「ブラック・スワン」を見た

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※「Happy Together」は全てのレビューにおいてネタバレに配慮しておりません。作品を未見の方で、内容を知りたくない方は充分にご注意下さいますようお願い申し上げます。(管理人)

ちょこっとご無沙汰致しました。

遅まきながら映画「ブラック・スワン」を観てまいりました。もとバレエ・マニアのココロにはいろんな思いが巡りましたが、この作品の振り付け担当(兼王子様役)のミルピエさんとナタリーさんの間に無事男の子ご誕生とのこと、アカデミー主演女優賞とともに、まずはおめでとうございます。

20代から30代のころ、仕事の合間に山ほどバレエの舞台を鑑賞していました。ダンサーたちの日常にもずいぶん触れる機会があり、そこにあった青春群像といえば、一言で表すと「職人生活」カンパニーに所属していれば、朝レッスン、ちょっとご飯食べてリハーサル、夜舞台・・・世間もものすごく広いわけではなく、毎日が自分の体との対話みたいなかんじといいますか・・・・

さすがにスター・ダンサーともなれば各界とのお付き合いなどもあり世間はもうすこし広かったと思います。フィジカル・エリートな面々とはいえいつもどこかしら体の痛みを引きずっていて何かと大変そうでした。(ステージでは目もくらむ金髪王子も、朝のレッスンは不精髭にズルズルのレッスンスタイルとかね。いやマニアにはそういう姿がまたこよなく美しく見えたものなのでした。)

恋愛事情もメインのお仕事であるバレエを引きずって、狭いところで廻っているかと思えば、反対に一見なぜこの組み合わせ?的な連れ合いがいたり、なんにしても仕事抜きに語れないのはどこのどんな世界の人でも同じなんですね。

演じることで生じる自分の中の「小部屋」そこに好きな家具を入れて自在に屈託なくコーディネイト出来る人もいれば、与えられた部屋を使いこなせない人もいる・・・生まれながらに持ってはいても、今まで自分には見えなかった引き出しを探し出して取っ手を引っ張るということはなかなか難儀なことのようです。ひとつは簡単に開けられても、芸の神様は良くしたもので、また別の難儀を投げてくださる・・・どんなに完璧に見えるスターも、誰も助けてくれない自分との闘いを抱えているのは間違いありません。

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※(あらすじ)ナタリー・ポートマン、ミラ・クニス共演の心理スリラー。ニューヨークのバレエ団に所属するニナ(ポートマン)は、元バレリーナの母とともに、その人生のすべてをダンスに注ぎ込むように生きていた。そんなニナに「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが巡ってくるが、新人ダンサーのリリー(クニス)が現れ、ニナのライバルとなる。役を争いながらも友情を育む2人だったが、やがてニナは自らの心の闇にのみ込まれていく。監督は「レスラー」のダーレン・アロノフスキー。主演のポートマンが第83回米アカデミー賞で主演女優賞を獲得した。(映画.com)

バレエを扱った作品であると思えば良く知っている者にとってはあれれ??な部分も多少アリ。二ナというキャラクターも今時ありえないようなウブさ、暗さ。ダンサーの生活部分的余白はほとんど描かれていませんが、この映画は「サイコ・スリラー」であると思えばそういうところはなるほどいらないのかもしれません。

それにしても、「白鳥を踊るバレリーナ」のイメージって西洋人にとってもこうなのか、と改めて驚きました。淡いピンクの可愛らしいコートや白いフワフワした羽のごときマフラーを纏い、部屋もピンク、バレリーナのオルゴール・・・これはやはり、父の影無く過剰に娘に接し期待し反応する母親と息苦しいまでに密着して生きて来たというところの多少のデフォルメだったのやもしれませんが。

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そんなウブなお嬢さんが、一大決心黒鳥を演じるための修行(か?)官能の世界に引き込まれ・・・たくてもいいところでブレーキがかかってしまうそのもどかしさよ。自分を解放してやること、これを意識してやろうと思ったら一番大変なのかもしれません。

神経症のようになっていく彼女の描写は「逆ムケ」「爪割れ血だらけ」「寝ている間の引っかき癖」イタイイタイ、痛いったらのオンパレード。黒い羽の出てくる背中の皮膚は「トリ皮」状態(ここ、よく出来てました)。「怖い」というよりワタクシはとにかく「痛い」が先に立ちました。

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二ナが憧れていたスターダンサー、ベスの描写はもっと痛いです。人生からダンスを取ったら何も残らない、しかし引退の時が迫り、自ら車に撥ねられて大けがを負うベス。

彼女にあやかりたくて楽屋からつい持ち出してしまった私物を病院に返しに行った二ナに(こういうエピソードはかえっていじらしく、成長しきれていない未熟さ、世間の狭さを感じさせました。)「私が完璧ですって?私は空っぽなのよ!」と言いながらこれまた痛い自傷シーンを繰り広げたのがあのウィノナ・ライダー。出番は少なかったですが存在感とその痛さはさすがでした。

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バレエ団もダンサーたちも仕切りまくる演出家のトマ(ヴァンサン・カッセル)はあまりに典型的でちょっと笑えました。

もとダンサーの母親と、現役バリバリの娘の葛藤といえば「愛と喝采の日々」をつい思い出しますが、自立しこれから自分の道を切り開いて行く娘の舞台を見守りながら、母が子供を産んだ自分のキャリアを誇りに思う希望に満ちたラストと、この「ブラックスワン」の母娘とは似ているようで別物でしょう。

ブラック・スワンの母親は言いました。
「あなたには無理よ」「役に潰される」(好意的に見れば、このお母さん、娘の限界も分かっていたのでしょうかね。)

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※二ナとは裏表の様に自由奔放なリリーを演じたミラ・クニス。ちょっと前まであのマコーレ・カルキンくんと交際していたんですね。なるほど・・・

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潰される、というより大葛藤の末に取りつかれて黒鳥に成り切り、たった一度の完璧な舞台を演じ終えた二ナの恍惚ともつかない表情は、演じることが生業の人もそうそう何度も味わえないという「アドレナリン大放出」の境地だったのでしょうか。

ナタリー・ポートマンのアカデミー主演女優賞、これはいかにも納得できる結果だと思いました。
ラストの舞台の黒鳥の迫力の姿と映像の美しさ、スタイリッシュさは現代の映画ならではの表現であったかと・・・。

悪魔ロットバルトの娘「黒鳥」とは・・・もともと王子も一目ぼれした白鳥姫オデットと見間違えてまんまと騙されてしまうという設定であるため、一人のバレリーナが踊るその演じ分けが「白鳥の湖」の醍醐味とされ、今ではあたりまえのことになっています。私も別のバレリーナがそれぞれ演じたというのを見たのは考えてみれば殆ど無いかもです。(アクロバティック・白鳥の湖は白鳥と黒鳥別だったなあ。)

王子が黒鳥にプロポーズする前に繰り広げられる第三幕の舞踏会のシーンでのグラン・パ・ド・ドゥ、クライマックスの32回転は有名ですよね。この回転技、グラン・フェッテ・アン・トゥールナンといいます。ダブル・フェッテといって、一回の脚の振りで二回転するのを何回か挟んだり、ここは気力体力、技の見せどころで、ワタクシも過去にすごいのを何度も拝ませてもらいました。

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※シルヴィ・ギエムの白鳥。子供のころにオリンピックの国内予選を突破する体操選手だった彼女のプロフィールでは身長170体重はたしか50㎏くらいだったと記憶。

王子様がまんまと騙されて黒鳥オディールに愛を誓ったとたんに稲妻閃き正体を現すオディールの、その「高笑い」のシーン・・・それがぞっとするほどに心に残っているのは偉大なるプリマ、シルヴィ・ギエムでしょうか。思えばあれはこの映画の描くところのサイコな世界に通じるものがちょっとあったかもしれません。

ギエムさんというひとは、これまたすごい体を持ったプリマでありますが、なんというかもう人を超える異形さと紙一重になることがあって(いい意味で言ってます。すんません。)ほかに誰もあのような姿とテクニックで踊る人は未だ現れないですわ・・・

そのギエムさんの白鳥はそれゆえに「鳥に変えられた姫」そのもので、微動だにしないポアント・ワークや、誰も行きつけないあのポーズを思い出すと、うっとりします。
かつてギエムさんのパートナーを務めることになった日本人の王子様が、監督さんから言われた印象深い話は「チュチュ(衣装のスカートの部分)のどこから脚が上がってくるのか予想できない。普段のパートナーとは常識外れなところから脚が上がるからよく気をつけて。」みたいな・・・

おお・・・なんかちょっち脱線して世紀のプリマ、シルヴィ・ギエムの話になってしまいましたがすまんこってす。ちなみに私が彼女の白鳥を初めて見たのはパリ・オペラ座のエトワールになって間もない19のころ。パートナーはルドルフ・ヌレエフでありました。

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※ブラック・スワンにも短い場面がありましたが、バレリーナは皆自分でリボンやゴムをつけたり、中敷きを半分はがして折り曲げたりと自分の足に合わせてトウシューズをカスタマイズします。カスタマイズ前の新品のシューズはカチンカチンです。写真はトウシューズを新聞紙の上に広げてカスタマイズ中のギエムさん。人間らしいひとコマ。

ブラック・スワンでは「王子と結ばれることが叶わなかった白鳥が身を投げる」という悲劇の結末になっていましたが、オディールに目を眩まされたことを反省した王子と二人で悪魔と戦い愛を成就するというハッピーエンドもあります。(あと、二人で別世界へ行き幸せに暮らしました・・・つう半分ハッピー・エンドも。)

うむ・・・なんだか久しぶりにバレエの舞台が見たくなりましたわ。

ナタリー・ポートマンさんは子供のころにバレエの経験はあるものの今回一年以上の集中レッスンとダイエットによってすっかりダンサー体形に。偉いデス!しかしだいぶ小柄なんでしょうね、マニアとしては手足がもちっと長かったら完璧だあ・・・などと思いながら見ておりました。ダンスシーンのボディ・ダブルを務めた現役のダンサーが「踊りのシーンは私の体(CG合成?)」云々発言してちょっと論争になったようですが、そこは追求しても仕方なしってもんで、何かほかに納得できないことでもあったのでしょうかね。

たしかにバレエのプロになるためには子供のころからの精進が必要ですが、さらにプリマまで行きつくには厳しい条件と苦しい修練+α、「赤い靴」のモイラ・シアラーも、「愛と喝采の日々」のレスリー・ブラウンも、映画に出た当時はプリマというよりソリストくらいの地位であったかと記憶しております。

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※「レオン」のマチルダを演じたナタリー・ポートマン。可愛い。

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※こちらは「スター・ウォーズ」のアミダラ女王。

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コメント

eyeglass奥深いレビューに感銘いたしました。
ナタリー・ポートマンはやはり子役出身と括られるんでしょうかね。
『レオン』の面影が色濃いですが、もはやここまでの演技者になれば別ものとして語られるべきですね。

リリー役の女優さんのカレシのマコーレ・カルキンって誰やったっけ・・・?って調べてきたら、おほほ、そうでしたか、ここにも子役出身が。
彼の場合、幼少時代の愛くるしさが大人になる段階で邪魔をしましたかね。

わたしの場合は『こわおもしろい』と称しましたが、『いたおもしろい』も大いにあり、でした。
ああ、怖くて痛くておもしろかった。

投稿: れいち | 2011年6月18日 (土) 15時45分

smileれいちさん、いらっしゃいまし。(笑)
コメントありがとうございます。

カルキンくんはあんまり若いうちに大成功してしまって
その先の長い時間をどう使うのか迷ったでしょうなあ。
いやマダマダ長いハズ・・・
(短い、と思うのはやっぱ、庶民ですな。
一生懸命働いてるからこそですわい。)

ナタリーさんはほんとすっかり細くなってそのあまり
素敵なバレリーナの証(ほんとか?)の貧乳に
なり果てておりました。

しかしアカデミー受賞のときは
ふっくらと。
女としての幸せもゲットし、これからが
ますます楽しみな女優さんですよね。

冒頭にも載せた写真など、
この映画の衣装、メイク、宣伝写真が
非常にオシャレで女性ならちょっとそそられると思いました。
でも、観ると痛いし恐いっすよね。

足の指がくっつくってのは、
ありゃ練習しすぎなのか
それとも「みずかき」になっちゃったってことなんか。
おっきくくっついたのを
切って離す暴挙に出たらどうしようかと
ハラハラ致しました。
(そのままタイツ履いてくれてよかったわあ、ほっ・・・)coldsweats01

投稿: miyuki | 2011年6月18日 (土) 22時49分

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