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2006年6月

2006年6月29日 (木)

真っ直ぐっていいなあ・・・映画「奇跡の夏」

【Written by miyuki】

Kiseki1韓国のポスター。原題は「アンニョン ヒョンア」ヒョンに呼びかける時「ヒョンア」になる。
昔、某有名歌手が(注・おっさん)、「絶対泣けるからって言われて映画を見に行って、気持ちよく泣けないと、欲求不満になるのよ。」と発言していたのを聞いて、子ども心にちょっとばかし驚いたのを思い出す。
「気持ちよく涙する」ために映画を見に行く。こういう目的があるのか。たしかに最近私もなんとなく分るようになった。とはいっても、前回のレビューに書いたように、他愛無く泣けるアジュンマになった今、表向き涙しているからと言って、それが「涙の傑作」とは限らない。
泣くことはストレスの解消になり、涙の成分にはそのシチュエーションによって塩分濃度の違いなんかもあるらしい。しかし、中にはどっぷりぐるぐる引き摺ってしまう涙もあるし、解消になるというより、新たな問題を提起されてしまうことも。(それはそれで、ボケかかった脳の活性には良いのかな・・・^^;;)

「奇跡の夏」という、もうすぐ公開になる映画の試写に行ってきた。原題は「アンニョン、お兄ちゃん」英題は「Little Brother」(まんまやん!)本国では昨年公開されて、主演パク・チビンくんが、10歳にしてニュー・モントリオール国際映画際の主演男優賞に輝いている。

9歳の弟ハニと12歳の兄ハンビョル。両親は共稼ぎで、ソウルの高層アパートに暮らすごく普通の一家だ。しかし、ある日兄が脳腫瘍に侵されていることがわかり、生活が一変してしまう・・・・
一家の生活は病院の兄中心になり、弟ハニの心も子供なりの戸惑い、怒り、悲しみでいっぱいになる。更なる問題をおこしてばかりのハニ。とどめは兄が入った小児病棟での闘病仲間ウクの登場である。年下だが、病気では先輩のウクはハンビョルを「お兄ちゃん」と呼んで、ハンビョルのほうも同じ苦しみに耐える仲間としてなにかと庇い、目を掛けているようだ。当然ハニが面白かろうはずがない。
「僕のお兄ちゃんなのに。お兄ちゃんが病気になって、僕だってこんなに我慢しているのに。お母さんは僕を怒ってばかり。どうして、どうして、僕はどうしたらいいのさ・・・?」
そんな思いが満タン限界になって、とうとう学校で、気の合わない同級生を相手にちょっとしたコトを起こしてしまうハニ。

Kiseki2 チビンくんはピの真似のダンスも上手い。このままひょろっと育ってね。
それは明日から夏休みという日。兄の機転で、ハニは退院するウクに付いて行き、「ホームステイ」させてもらう事に。
コメディアンの「オクトンジャ」さんが大好きで、ひょうきんもののウクが言うところの「ターザン・アジョシ」を捜しに家の裏山に入り、「行方不明」になるハニとウク。
このターザン・アジョシは、大人の世界からすると、おそらく浮世を捨てたホームレスかと思われるが、その描写が妙にメルヘンなんである。スターウォーズにでも出て来そうな格好で、長い髪から覗く顔が、デイジーのイ・ソンジェ系。(俳優の名前はわからず)

元気なハニに付いていけずに山の中で気を失って倒れたウク。ハニがウクを抱いておいおい泣いていると、そのターザン・アジョシがどこからともなく現れて、ぼこぼこのアルミの水筒に入った泉の水を飲ませてくれる。あの水はきっと、命の水だ、病院で売れないかな、と後でハンビョルに報告し、「水飲んで生き返ったら誰も病気になんかならないだろ?」と返されるが、そんなことでウクと友情が結ばれて、腕白一方だったハニは、自分と同じようには生活できない子供たちのことを通し、すこしずつ成長して行く。(この泉の水は、あとでクライマックスの重要な小道具に・・・。)

「闘病もの」それも子供の。真っ直ぐ過ぎて、今の日本ではとうていお目にかかれないような企画だと思う。病気物といえばここ日本に於いては有名な某作品など、世界の中心で叫ぶのはもっぱらハニより上のティーンエイジャー。純粋な愛=初恋とセット、一緒に生きられない切なさ、そういう「二人の世界」でないと会議にだって通らなさそうな気さえするし。

Kiseki3ウクの家の裏山で。
病院でのシーンなど、ちょっとばかり強引な描写も見受けられたけれど、こういうストレートな世界は韓国映画(ドラマ)ほんとにウマい。
病気はただただ残酷で、人生には自分でどうにも出来ないことが山ほどある・・・・。以前見た「僕が9歳だったころ」にも同じような世界観があったと思うが、子供だけれど、いっちょまえの「人生」を知る、そんな感じなんである。

キム・ソクくん、ユ・スンホくんがかなり大きくなってしまった今、ハニを演じたパク・チビンくんは目下引っ張りだこのようである。いやもう、粗相してお尻をまるっと出してお兄ちゃんにシャワーで洗って貰う姿の可愛いこと。ありゃ、たしかに10歳前でないとねっ。(爆)顔立ちは、大人になったらシン・ハギュン系かな、と思われる。一重で、逆さ睫毛になりそうなんだが、大きな目でじっと見据える天晴れな演技には、主役を張れるだけのオーラがたしかにある。このまま真っ直ぐ素直に育って欲しい。あの可愛かった子役がびっくり極悪、みたいにならないといいなあ・・・。

物静かなお兄ちゃんを演じたソ・テハンくんにも泣かされた。同じ脳腫瘍ということで、眼鏡を掛けて、車椅子に座った姿からつい「愛の群像」でヨン様が演じたジェホを思い出す。(なんか、ロケしてた病院も同じだったような・・・?)
ウクを演じたのはチェ・ウヒョクくん。ウクがとうとう昏睡状態になってしまい、ハニはウクが大好きなコメディアンのオクトンジャさん(グッチ裕三似)を連れてこようと思い立つ。オクトンジャさんの仕事先の駐車場で出待ちをするハニ。そのオクトンジャさんの車がJDGと同じスターの証、黒のスタークラフトだったのには一人でおお~~~ッ、とウケてしまった。(笑)

Junior_4 ジオダノの広告で、我らがドンゴン・アジョシと共演。腕にぶら下がってましたな。映画より大きくなってます。
お母さんはぺ・ジョンオク、お父さんはパク・ウォンサン。お父ちゃん、「ダンサーの純情」ではバタ臭くてセコい先輩、ジェームス・マ先生を演ってたしい~~。(グニョンちゃんをはじめの方で情け容赦無くビンタ。ひい~~)この作品では、頑張って妻を支えようとする、小綺麗ないいお父ちゃんである。
以前見たドラマ「サンドゥ、学校へ行こう」で、ピくん扮する若い父親が、娘の病気の治療のために泣きながら髪を刈ってるシーンがあったけれど、韓国ではそういうのは父親の仕事なのだろうか。この映画でもお兄ちゃんの頭をバリカンで刈っていて、このお父ちゃんは泣いていなかったけれど、こっちが先に泣けた。
そのほかに、私にもわかった顔が、ハニの担任の先生、チョン・ヘジン。「ごめん、愛してる」の、あのムヒョクの頭の弱い双子の姉さんを演じていた人だ。地味だけれどちょっと印象的な女優さんである。

「アンニョン、お兄ちゃん」・・・そのセリフを誰がどう言うのかが、映画のクライマックス。私を含め試写会場にいた少なくとも女性客の殆どが、多分涙ダダ漏れ状態であったろうと思われる。

※ 2005年 韓国作品
監督・・・イム・テヒョン
脚本・・・キム・ウンジョン(イルマーレ、カル)
原作・・・キム・ヘジョン(脚本家の姉。映画にはモデルとなった実際の兄弟がいる。カナダ在住で、お兄ちゃんは現在も闘病中とのことである。)
音楽・・・イ・ジス(冬のソナタ、オールド・ボーイ)

※7月15日/東京・シャンテシネ、7月22日/大阪・三番街シネマ、名古屋/シネマスコーレ他

※(近況)
韓国版「台風」のDVDが我が家にもやってきた。この夏はこれをオカズに乗り切れそうである。うぷぷ。約一年前の釜山が懐かしくて、わざわざ暑い釜山へ行きたいと切に願う今日この頃・・・・シンや・・・・(涙)

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2006年6月28日 (水)

『キムチ兄弟』 第6部 ~選択~

Nukesaku12 こういう顔をして、人をケムに巻く抜け作
「おはようございます・・・・」

耳元でご~んと除夜の鐘をつかれたくらいの頭痛に苛まれながら、這うようにしてテヒが向かったのは他でもない㈱チョンソン・ふるさと開発センターの本社である。本社といってもそれは、アウラジ町役場の脇の駐車場を兼ねた空き地の一角に立てられた、掘っ立て小屋に毛が生えた程度の粗末なプレハブである。旅館から徒歩10分という地の利のよさだけがせめてもの救いだ。最初にそこを訪れた時、パクウィは怒ってそのプレハブ本社にケリを入れた。
『何だよこりゃ。アウラジの冬がマイナス何度になるのか知ってての所業か? え? 冬になったら俺たちにここで凍死しろってことか?』
ふざけてんじゃねえぞ、と、後ろで縮こまって怯える町役場の若い衆をギロリと睨み、ドカッと一発、薄い壁を蹴った。すると出入り口に掲げてある“㈱チョンソン・ふるさと開発センター・本社ビル”と書かれた木製の看板が、ガタリと音を立てて傾いた。慌てて定位置に戻そうとする若い衆に思い切りガンを飛ばしながら、『殺人事件捜査本部の戒名だって今時、もうちっとマシだろよっ』と言い放ち、どう見ても中古としか思えない薄汚れたグレーの回転椅子に、ドカッと腰を下ろした。
本来なら町を挙げて歓待すべきワールド不動産の社員に対して、そんな社屋ともいえない事務所しか提供できなかったことの背景にはやはり、町なりに反対派の目をかなり意識しるという実態がある。余計なお金は1ウォンもかけませんよ、という町側のアピールであろう。もっともそのプレハブで仕事をするのは主として若い5人であって、部課長クラスの人間はたまにアウラジにやってきたとしても、町長や助役らと観光かゴルフを楽しみ、旅館に泊まって帰るだけだ。その旅館も、テヒたちが泊まっているところとは格段にクラスが違う。
上層部の機嫌さえ損ねなければよい。町長らのそんな浅ましい考えが、ありありと伝わってきて、パクウィでなくてもケリの一発くらいお見舞いしたくなるのだった。

Gyonjin1Mの抜け作は彼女くらいにつつかないと・・・?
「あ、テヒさん、よく起きられましたね。大丈夫ですか?」
真っ先に声をかけて来たのはカン代理だ。
「はい・・・あの・・・昨夜はちょっと俺、飲みすぎたというか、その・・・」
テヒがおずおずと、机が5つ向かい合わせに配置されただけの殺風景な事務所を見渡すと、「はい、どうぞ」と、冷えたペットボトルを手渡された。
「ギョンジン・・・?」
「さっき買ってきたの。へへ。テヒさん今日は二日酔いだと思って」
飲んでね、と彼女は、二日酔いのテヒの目には眩しすぎるくらいに明るく笑った。
「ありがとう。あとで頂くよ」
ムスッとしたまま卓上のパソコンを睨み付けているパクウィにチラリと視線をやりつつ、テヒはそのスポーツドリンクを持って、奥のキッチンスペースにある冷蔵庫へ向かった。
(うう・・・・頭痛い。気持ち悪い。もう最悪)
こんな酷い二日酔いは初めてのことだったが、遅くまで付き合いで酒席に縛られた翌日などに、テヒは実は松のジュースをよく飲んだ。
(松のジュースが飲みたいな。あの歯磨き粉みたいなミント味でないと、この頭痛は良くならないんだ。でもこの辺って、どこで売ってるんだろ・・・)
近くにコンビニなどあろうはずもない。一番近い自販機にも松のジュースは入っていなかった。駅前のスーパーに行けばあるだろうけど、まだ運転はしたくないな。今運転なんかしたら酒気帯びかもしれない、などと思いながら冷蔵庫を開けた。
「んっ? な、何でここに??」
驚いたことに、ほとんど空っぽの冷蔵庫の真ん中に松のジュースの缶が2本、ちょこんと置かれていたのだ。口をぽか~んとあけて放心するテヒの背中に、聞きなれた野太い声が掛かる。
「飲まねえんなら、さっさと閉めろよ」
「え?」
「冷蔵庫だよ。扉、開けっ放しにすんな」
「あ、ああ・・・ごめん」
慌てて冷蔵庫の扉を閉めると、閉めた側からパクウィがまた扉を開け、ファミリーサイズのアイスコーヒーを取り出し、足で乱暴に閉めた。そして自分のマグカップにアイスコーヒーをなみなみと注ぐ。
「その松のジュース、あんたのだからな」
「・・・・?」
「今朝、シニョンさんが買ってきた。車で市場まで行って。この時間に松のジュース買えるのはそこしかないとかナントカ言って」
「シニョンさん・・・が?」
「ああ。シニョンさんが、だ」
「何で?」
「何でって・・・・・・ったく、あんたも大概鈍いな。だいたいあの時計のことだって・・・」
「時計? 時計がどうかしたのか?」
「・・・・いや、別に」
もごもごと言葉を濁すとパクウィは、とにかく、と一直線に冷蔵庫を指差した。
「中に入ってる松のジュースは、シニョンさんがわざわざあんたのために買ってきたものだから。一応言っとく」
ぶっきら棒にそう言うと、彼はカップのアイスコーヒーを一気にグビグビ飲み干した。
「あのさ・・・・」
「何だ」
「シニョンさん、どうして俺が二日酔いの時に松のジュースを飲みたくなるってこと、知ってたんだろう?」
「アホか、お前は。んなこと俺に聞くなよ。本人に聞け。・・・って、彼女はもう出かけたけど」
「・・・うん」
Otsubone3 もおうっ、どこまで抜け抜け抜け作なのよっ。
テヒは、黙ってその場で腕組みをし、思い当たる節はないかと真剣に考え込んだ。しかし頭痛が邪魔をして思考はほとほとまとまらない。まとまらないなりにも、シニョンが寄せてくれるほのかな優しさは、いくら鈍感カエルのテヒでも感じずにはいられなかったのだが・・・・
(時計って何だ? そうだ昨夜、枕元でシニョンさんとパクウィさん、時計がどうとか言ってた気がするけど・・・・ううっ。だめだ。頭が痛くて思い出せない)
と、そこで突然パクウィが、厳しい口調で尋ねてきた。
「おい、どっちにするんだ? いい加減さっさと決めろ。もう時間がないんだから」
「え? ど、どっちって、そんなこと」
そんな、急に決めろと言われても、第一テヒはまだシニョンにはっきりと気持ちを打ち明けられたわけではない。松のジュースを買ってもらったというだけだ。そんなことで何かを“決めろ”といわれても困る。
好き好き大好きモード全開のギョンジンは、確かにとても可愛いと思う。一緒にいると楽しいし、明るい気持ちになれる。けれどその可愛さは、例えて言うなら妹に対する感情に近いとテヒは思っていた。もしも何かあって、ギョンジンが傷つくようなことがあれば、自分の出来る精一杯でもって、守ってやりたいと思う。そう・・・・ドジンに対して常にそう思っているように。
しかしシニョンに対しての自分の気持ちは、どうもはっきりしない。彼女はいつもどこかツンとしていて、他人との間に一本間に線をひいているようなところがある。それなのに、こんなふうに突然、松のジュース・・・・・・・・よく分からない。それが今のテヒの正直な気持ちだった。
「急に決めろって言われても、無理だ」
「は?・・・・そんなに真剣に考えることか? んなこたぁぱっぱとカンで決めろよ」
「カンってそんな・・・・俺はパクウィさんとは違う。物事何でも、そんなにサクサクと即断なんかできない」
「なんで」
「できるわけないだろ、普通」
「普通は即決だろ? 10秒ありゃ充分だろ?」
「じゅっ・・・」
あまりの人生観と恋愛観の食い違いにテヒが丸い目を更に丸く見開いていると、パクウィがいらいらと冷蔵庫を開けた。
「とにかくよ、普段あんたが何時間かかって飲み物決めてんのか、今そんなことどうでもいいんだよ! 今日は今すぐ出かけなきゃ間に合わねえんだから、とっとと決めてくれ。スポーツドリンクか、松のジュースか、それともアイスコーヒーか! どれにするんだ?」
「・・・・へっ? 即決するって、の、飲み物の話だったの?」
「決まってんだろ! このシチュエーションで、一体他に何決めんだよ! 二日酔いのカエルを助手席に乗せて途中でゲロゲロ吐かれちゃたまんねえからな、とにかくさっさと何か飲め! 10分後には出発だ」
まったく信じられない優柔不断カエルだと、ぶんぶん首を振りながら彼は、あ、と振り返る。
「テヒさん、あんた今、何か勘違いしたろ?」
「なっ!」
咄嗟の言い訳も思いつかず、ひたすら口をぱくぱくさせるテヒを残し、パクウィはニヤニヤ笑いながらキッチンを後にした。自分の勘違いをパクウィに見透かされたテヒは、耳まで赤くなりながら緑色の缶のプルタブを引き、一息にゴクゴク中身を飲んだ。
よく冷やされたその歯磨き粉味の液体は、今まで飲んだものの中で一番美味かった。

                   *

Pakuui2 この男にはやっぱり腕力で負ける。口でも。
夕方、町内を調査やら調整やらに駆けずり回っていた5人がようやく事務所に揃った。翌週に控えた2度目の住民説明会までに揃えなければならない資料は、5人の奔走にも関わらず残り3分の1がまだ集まらない。必要な部分の大半は町役場の資料室にあるのだが、そこは役場のこと、午後5時を過ぎたら資料室に鍵をかけなければならないという規則を一切曲げる気はないらしい。昼間はあちこち回って歩き、主として夜にその資料を検討したいテヒらの意向も、全く聞き入れてもらえなかった。ワールドの上司も、S市役所の上司も、てんでアテにならない。
「ったく! どいつもこいつもお偉方は揃いも揃ってボケナス野郎ばっかりだ! ゴルフで骨抜きにされやがって、クソ! ファーーーーーッ!!」
じゃがいもタワーの構造計画書の上に、“チョンソン郡のじゃがいもの歴史”と書かれた資料集を叩きつけ、パクウィが轟々と吼えた。
「テヒさん! その人差し指打法、いい加減何とかならないのか? そんなスピードじゃ、渡した資料全部打ち込む前に明日の朝になっちまうだろ。おい、ギョンジン! さっき頼んどいたコピー、まだなのか? 役場の明かりが消えたらコピー機借りらんねえんだから、さっさと取って来い!」
彼のあからさまな八つ当たりには慣れているのか、ギョンジンは、ヘ~イと気の抜けた返事をして、隣の町役場へコピーを取りにひらひら向かった。この狭いプレハブ小屋にはコピー機すらない。あるのはワールド不動産から1台、S市役所から1台各々持ってきたパソコンだけである。
キーを打つのが遅いと思いっきり指摘されたテヒだが、さっきから最も苦手とするエクセルの画面をじーっと見詰めたまま、周囲に会話など耳に入っていない。もてあますほどの長い人差し指を前歯で軽く噛みながら、じっとパソコン上の数字の羅列に見入っている。
「おい、テヒさん! 聞こえねえのか。急ぎの資料だから誰かもっと打つの早い奴に交代してもらえ・・・・って言っても、誰もいねえし。ああ・・・・頼む、もう少し早く打ち込んでくれ。後生だ」
「・・・・・」
「テヒさん、あんた聞いてんのか? おい、テヒ!」
「・・・・え?」
このクソ忙しい時に何ボケッとしてんだよ! とパクウィに怒鳴られて、テヒはやっと我に返る。そしておもむろにエクセルの画面を指差した。
「なあパクウィさん、ここんところ、どう思う?」
「どうって、何が?」
「数字だよ。“レストラン・ぽてと”で出す野菜類の仕入れ単価なんだけど・・・・・ほらここ、いくらなんでも安すぎるんじゃないかと思ってさ」
「野菜の単価ぁ? ・・・どれ」
パクウィはいつに無く真剣な眼差しでパソコンの画面を覗き込んだ。
「それぞれの野菜の仕入れ量は、勿論季節によって違いうけど、おしなべれば年平均してこれくらいになる」とテヒは手元の電卓をゆっくりと叩いてパクウィに示す。
「このレストランは、“チョンソンの味”っていう触れ込みだから、チョンソン近郊で採れる野菜関しては当然それを使う予定だと聞いているんだけど・・・・それにしてはこの価格、いくらなんでも安すぎると思わないか? 全体的に」
「うーん・・・・確かに市価の5分の1以下ってのは、大量購入だとか委託生産とかいうことを差っ引いても、ちょっと腑に落ちねえな」
確かに、とパクウィが唸ったその時だった。背後からいきなり低い声がした。
Teho3たまにはネクタイも締める。
「ようやくいろいろ分かってきたみたいだな、そちらさんも」
コピーをしに行っているギョンジン以外の4人が一斉に出入り口を振り返ると、そこにはテホが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「なんだ、またてめえか。ギョンジンなら今いねえよ、残念だな。それに勝手に入って来やがったら不法侵入で訴るぜ」
「はんっ・・・・まあ勝手にあれこれ触られたくなかったら、せいぜい鍵でも掛けとくんだな。ドアにも、女にも」
「このやろっ・・・」
また熱くなりそうなパクウィを慌てて制したのはテヒだ。カンが胸ポケットからカードを出そうとしたのを見たからだ。冗談じゃない、今ここでホイッスルなど吹かれたら、夕方になってようやく治まりかけていた頭痛がぶり返してくること間違いない。そんな恐ろしい行為は断固止めなくてはならないのだ。
「何か用か、テホ」
カンの手の動きに怯えながらも、テヒはテホに尋ねた。
「あんたらに面白い資料を見せてやろうと思って、わざわざ持ってきたんだ。ありがたく思え」
「資料?」
「ああ。俺たち反対派がこの1年、あれこれ手を尽くして集めた資料だ。役場の資料室にある資料なんてのはな、うそ八百並べ立てた偽物さ。そんな資料のコピーなんか取っても、何の役にも立たねえ」
確かに町役場の資料ときたらどれも数年から数十年前のデータで、とても今に即しているとは思えなかったが、そのことがどんな意味を持つのかまで、テヒは深く考えていなかった。
「じゃがいも御殿だか何だか知らねえがな、そんなものの下敷きにされたら最後、もう一生戻って来ない物がいっぱいあるんだ。そっちの資料には、そんなこと書いてないだろうがな」
テホは、怒りと憤りを隠した冷淡な表情でテヒを見詰めた。テヒはその視線を真っ直ぐに捉えて正直に自分の気持ちを口にする。
「だけどテホ、どうしてこんな大事な資料を、俺たちのところへ?」
彼がゆっくりと深呼吸をするその音を、テヒもパクウィもカンもシニョンも黙って聞いていた。
「はっきり言う。時間が無いんだ。最後の砦だったはずのじゃがいも畑は来週にも町のものになるらしい。町長の野郎がどんな汚ねえ手使ったのかは知らねえが・・・・とにかくあんたらにその資料を見てもらいたい。それで町側と、俺たちと、どっちの言い分が正しいのかをきちんと検討してもらいたい。俺が言いたいのはそれだけだ」
テホは、一番近いデスクの上に、茶色の厚い封筒をバサッと置いた。
「敵に塩でも送ってるつもりか? ふんっ・・・馬鹿げてるな。今更どんな事実が出てきたところで、俺たちは開発する側の人間だ。ここにじゃがいも村を作るためにわざわざ都心から出向いて来てるんだ。都合の悪い資料なんか、もしかしたら見て見ぬフリするかもしれないぜ? 男はビジネス成功させてナンボだからな」
そう言ったパクウィの顔に、痛いほど熱のこもった視線を送り、テホは言い切った。
「あんたらはそんなこと出来ない。そんなこと、俺がさせない」
「そ、そりゃまた、たいした自信だな」
一瞬怯んだパクウィには直接答えず、テホはテヒに視線をやった。
「テヒ、明日何時でもいい、ちょっとだけ付き合えよ。時間は取らせない」
「明日?」
「ああ、明日だ。適当な時間に電話よこせ。俺の携帯番号だ」
テヒの手にメモ用紙を渡すとテホはドアノブに手を掛けた。そして半分ドアを開けたところで、ああそれから、と思い出したように立ち止まる。
「今さっき、あんたらが話していた野菜の単価のことも、俺の資料を見れば一目瞭然だ。町長一味とワールドの偉いさん方はな、チョンソンの産直野菜なんか最初から使う気ないんだぜ。全く・・・“チョンソンの味”が聞いて呆れる。単価の安い輸入野菜を使って1円でも儲けを増やそうって魂胆さ。味なんてのは、あいつらにとっちゃ二の次なんだよ」
「・・・・まさか・・・そんな」
唖然とするテヒたちに、テホは続ける。
「信じる信じないは、あんたら次第さ。そっちの腐りかかった資料と、俺の持ってきた資料。つき合わせてよーく検討することだな。じゃ」
そういい残して立ち去るテホとほぼ入れ違いに、手に大量のコピーを抱えたギョンジンが帰ってきた。
「今そこで敵の親玉と擦れ違ったわよ。何だかすっごく怖い顔してたけど・・・・なんかあった?」
ギョンジンと擦れ違っても、声すら掛けないテホ・・・・彼の今言ったことはもしかすると真実なのかもしれないと、テヒは直感的に感じた。昔から、嘘が嫌いで、どこまでも不器用なほど真っ直ぐに自分を通そうとする奴だったから。

                   *

Otouto6髪型ちょっとヘンだけど・・・(気にしないでくれろ)
人間が、その生き方を変えることは、口で言うより結構難しいことだとテヒは常々思っている。かつて20代の頃は、弾けるように明るく生きてみたいと思ったこともあった。たくさんの恋愛をして、たくさんの友人とつるんで戯れて笑って・・・・・そんなふうに、例え表面だけでもいいからキラキラとした青春を謳歌してみたいと、真剣に考えた時期もあった。しかし結局のところテヒにはできなかった。上辺だけの、理解しあっているような錯覚だけの、薄っぺらい関係の知り合いと、幾晩も続けて歓楽街を飲み歩くようなマネは、自分には一生できないだろうと早い時点でテヒは悟っていた。
向いていない。つまりはそういうことだ。
だからといって、今の公務員の暮らしが100%満足のいくものかといえば、それはそれでちょっと何かが物足りないような気もして・・・・しかし、何だかんだ、うだうだと悩んだり迷ったりしているうちに何となく30歳を過ぎ、気がつけばすでに34歳。中年と言われても申し開きのできない年齢に達していた。
(テホは、この16年の間、どんな暮らしをしてきたのだろう。あの不自由な足をかかえて)
そんなことをふと思った時だ。ギョンジンが「あ、そうだ!」と頓狂な声を上げた。
「ねえねえねえ、みんな聞いて! あたし今、凄いもの見ちゃったんだ~~」
ふっふ~ん、言おうかな~、止めようかな~、というギョンジンの振りにピクリとも反応せず、テヒとパクウィはテホの持ってきた茶封筒を開け、急いで資料に目を通す。カンとシニョンも明日訪問予定の白菜畑の場所を地図で確認している。
「ねえ! ちょっと、みんな聞いてる? もんのすっごいモノ見たのよ、あたし!」
「・・・・・」
「何と、町長と愛人の濃厚キスシーン!」
「えっ!?」
現金なことに“キスシーン”の一言で全員が顔を上げると、ギョンジンはいとも満足そうにうんうんと頷いた。
「見ちゃったのよ。偶然町長室の前を通ったら、ドアが少しだけ開いててね。抱き合ってたの!」
「お前なあ、何でそれだけで愛人だって決めつけんだよ。町長の奥さんかもしれないじゃねえか」
パクウィの至極もっともな返答にも、ギョンジンは動じない。
「いいえ、とっても若かったわ」
「とっても若い奥さんかもしれないじゃない」
とシニョンが言い、横でカンも頷く。
「違うわ。あれは愛人よ。間違いない」
「だ~から、どうしてそう言い切れるんだって。お前はなあ、昔から物事を自分の価値基準で決め付ける悪い癖がある。直せ」
やってらんねえ、とキッチンに飲み物を取りに向かったパクウィを無視し、彼女が口にしたことはしかし、世にも信じがたいことだった。
「男同士でどうやって夫婦になるのよ。愛人しかあり得ないでしょ」
「・・・・・?」
瞬間・・・・事務所内の空気が止まった。
「だってさあ、町長と抱き合っていたのって男よ、オ・ト・コ! 若くて、超イケメンなオトコ。ありゃ結構、あたし好みだったなあ・・・・」
思い出してぽーっとなるギョンジンに、おずおずと声をかけたのはシニョンだった。
「ほ、本当に・・・・男の人だったの? 見間違いじゃない?」
「見間違いなんかじゃないよ。だって、スーツ姿だったし、ネクタイしてたし・・・あ、半分解けてたけど。ソファーで町長に、こう、むぎゅっと抱かれてキスされながら・・・何て言うか・・・・恍惚としてた」
「・・・・・・」
「ほ、本当だってば、やだなあ。みんな疑ってる? だったら行って確かめて来なよ」
「・・・・別に、疑っているわけじゃ・・・でもちょっと意外っていうか」
シニョンが口籠る。
「あたしだって最初、信じられなかったけど・・・・・帰りがけに駐車場で見慣れないS市ナンバーの車を見つけたから、多分時々S市から通ってるんじゃないかな、あのイケメン愛人君」
Tyoutyou1  “あの男”ってこの人(ひい~~~)笑ってるし。
テヒはその時、言葉ではとても表現しようのない息苦しさを感じていた。深く呼吸をしても、肺の奥まで酸素が届かないような、かつてない感覚に襲われる。けれどその苦しさが一体どこから来るものなのか、皆目見当もつかない。ただただ、ギョンジンの見た光景をこれ以上詳しく聞きたくなかった。危機を感知する心のアラームが、マックスで鳴っている。
「どんな車だ?」パクウィが聞く。
「白のセダンよ。車種は・・・・」
ギョンジンの口から零れたその車種名を背中に聞きながら、テヒはふらふらと事務所を出た。
「おい、テヒ、どこに行くんだ」
パクウィの問いかけも、テヒの耳にはどこか虚ろにこだまする。

よろよろと10数メートル歩いて、辿りついた町役場の駐車場でテヒが目にしたのは・・・・数年前からドジンが乗っている、正にその車だった。ナンバーも、ドジンのものだ。
疑いようも無い。ドジンは今、この建物の中にいる。そして多分・・・・
「ドジン・・・・・これは、どういうことだ」
テヒはその場に崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえた。

                                        (続く)

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2006年6月25日 (日)

若いって、いいねえ・・・・映画「ダンサーの純情」

【Written by miyuki】

Danser1ダンスの特訓が始まったばかりで、まだ上手にホールドも出来ないころにチェリンが夢見た幻想シーンの二人。
最近とみに思う。
「ああ、ホントにどこそこ“ばばあ”になったモンだよなあ、自分・・・。」もういちいちボケる自分が最近ほんとに情けない。電車に乗って、「生活ヤツレしてますな、オバチャン」なんて向いの席のひとの目の下のクマを眺めても、きっとたぶん、そんな彼女も私より年下なのね。心の中では18くらいのアサハカな私と、婆の私が、双生児をやっているカンジなのである。この感覚は、果してあの世に召される大婆さんになる時まで続いて行くものなんだろうか。少女のように可愛らしい婆さんになることは理想だが、じっさいには綾小路きみまろにネタにされている可愛げのない「中高年」になるんだよなあ。ああ現実・・・

去年は新宿まで「海岸線」(コーストガード)と「アナーキスト」を見に行った「韓流シネマ・フェスティバル」、今年は会員になったシネコンへ見に行った。全部ではないけれど、幾つかの作品がご近所で見られる。ありがたいことである。しかし、お客さんは入っているのか?このところ、「タイフーン」も「デイジー」も今よっつくらいの入りだったもんで、田舎のシネコン。こんな事ではもう韓国映画やってもらえないかも・・・と密かに心配。
しかし、一週間限定の「ダンサーの純情」最終日だったからかもしれないけれど、お客さんはそこそこ入っていて、へえ~~、と思った。
「韓流」転機とあちこちで言われているけれど、昔から韓国映画のファンは確かに巷に存在していたわけで。日本映画は細やかだけれど、韓国映画の妙に乾いて突きぬけた感覚と、力強さが私も好きだ。

Danser4 「体操着」で股割り特訓。ストレッチは大事よ。ひいい~~~っ!!
この映画、おすぎさんも、「良く出来ているワ。」とおっしゃっていた。競技ダンスのパートナー捜しで、冴えないダンススタジオの先輩(ジェームス・マ、だって。笑。)がヨンセ(パク・コニョン。椎名桔平似。)に宛がうべく中国の延辺朝鮮族自治州から手配した女の子、チェリン。(ムン・グニョン)じっさいは、自治州のダンス大会優勝というふれこみだった姉の身代わりで、フェリーに乗ってやって来たのは役に立ちそうもない「少女」だった・・・・なんだかんだあって、気を取り直し彼女を育ててみることにしたヨンセ。わざとらしく、監視員に見せ付けるために腕を組んでお買い物に行ったり、ウエディングドレスで記念撮影したり、こてこて「偽装結婚」であるために描かれるシーンは微笑ましい。
「秋の童話」のウンソ(ソン・ヘギョ)の少女時代、アメリカに行く兄を追ってトンネルの向うで大粒の涙を浮かべていた、あのあどけない制服姿のグニョンちゃんもこんなに大きくなったのね、と感慨ひとしおである。もうすっかり“アズバイ”気分。(アジョッシ。おじさん、の訛ったやつ。)それでも中国の田舎育ちという設定だし、グニョンちゃんも、いまどきの韓国芸能界に於いては超「天然物」を誇るナチュラルさ。まずはストレッチから、の特訓も、懐かしい「体操着」であるよ。まあ可愛いこと。

こういうダンス映画では、実際の舞台と違って主役をクローズアップで写すから、本当の実力がどのくらいなのかというと、そりゃ専門家からすればまだまだなんだろうが、グニョンちゃんはかなり頑張っていた。よくここまで、と感心した。パク・コニョンもミュージカル出身だというが、なかなか良かったっす。身体も良いし(ダンサーはなんたって、フトモモの張りと長さと膝頭よ~~。)かなり背が高いので(183㎝)グニョンちゃんがとても可憐に見えて。

Danser2特訓の甲斐あって、おお!お見事なスプリット。
ペントハウスのスタジオ(じっさいこれって、屋根部屋だろうか?韓国では。オクタップパンにしては広いような。)不遇を囲っているヨンセは、トレーナーとしては一流らしい。そうして良い具合に育ってきたパートナーを、過去にも横取りされて、しかも怪我をさせられた悲しい過去がある。その憎い奴が、ダンス協会会長の御曹司、お金持ちのヒョンス(ユン・チャン。どっかで聞いたことある名前だな。笑。)こいつがどうも、「踊る内田裕也」に見えてしまって、困った。こいつは今のパートナーに満足出来ないで、またぞろヨンセの育てたチェリンに目を付ける。目先の金に困っているらしいジェームス・マ先生が勝手に取り引きして、ヒョンスの手下と乱闘したヨンスはまたしても古傷再発、目指していた大会に出られなくなってしまう。
なんでここまでひどい目に・・・ってのが韓国映画ならではかも。(ひどい先輩なのに、結局従わざるをえないって設定も、目上をたてる韓国だからか?)

Danser3_1「踊る内田裕也」と。ダンスはまあまあだけど、あってないよねえ、チェリンと。(笑)
後ろ髪引かれながら、ヨンセが教えてくれたダンスを精一杯踊って、大会で優勝するチェリン。しかし、ほんとうのクライマックスは、入国監視局の係官にべつべつに出会った経緯や生活の証言しながら、互いにいつの間にか抱くようになった気持ちを吐露しているシーンである。アジョシが足を洗ってくれた・・・・子供みたいで可愛い・・・。

・・・ああ、若いって、いいなあ。気が付くと、同じ列に座ったアジュンマと我、いつの間にかぼろぼろ貰い泣き。亡き母が私くらいの年の時、やたらドラマなんか見ては簡単に泣いているので、指差して笑ったもんだけど、アジュンマって「泣ける」んだよね、他愛無いことで。他愛無い、というのがポイント。複雑な現実では泣きやしませんて、簡単に。もっと言うなら、こういう琴線を刺激するツボ満載だから、韓流アジュンマが存在するんだな。自分も泣いてるし。あはは。
(私は韓流脱して、映画マニアでいたいものだす。きっぱり。)

監督は、「純愛中毒」のパク・ヨンフン。昨年公開された時は、チャ・スンウォンの「血の涙」とタメはって、スマッシュヒットだったという。余談だけど、チャ・スンウォンて濃ゆい顔の男優さん、日本ではあまり知られていないようだが、韓国ではかなり評価の高い一人のようで。(あと、チョン・ジュノとか・・・)
ヨンセの後輩カップルを演じていたコメディアン・ダンサー(そんなジャンルあるのか)のキム・ギスと、入国管視局の役人二人組が結構良い味で、ツボだった。

Danser5「黄金撮影賞」に出席したグニョンちゃん。「チャン・ドンゴンお兄さんのような俳優になりたいです。」後ろでボケてるセジョンくんも心なしか「清い気分」なんだろか?へっへっへ。(ワタシもいつもアジョッシ~~と呼ばれてるんだよ、と思っているんだかどうか。笑。)
※ヨンセがダンスのヤマ場に振り付けに取りいれて、ヒョンスがこの技の出来るパートナーにコダワリを持っている「グラン・アレグロ」とはなんぞや?バレエ教室を見学に行くシーンがあったが、特訓の様子を見ると、所謂バレエコンクールで競われる「グラン・アレグロ」の中で、男子に課せられているシェネ(両脚で回転しながら横に移動するステップ)+ダブル・トゥール・ザン・レール(フィギュアスケートの2回転を思い浮かべて下され。)これを女性がやって、フィニッシュに男性に支えられてポーズを決める、というようなもんではなかろうかと・・・グニョンちゃんも空中を斜めに飛んでおりましたが、さすがに曖昧に撮られてましたわ。

※やっと東京国際フォーラムで開催中の「大韓流展」に行ってきた。自分より気合の入った元気なアジュンマ(例にって、3人連れ多し)に出会えるのはこういうイベントである。どうでもいいが、もう少し早く歩いてくだされや。ビニや、神話のエリックの前に立ち止まる世代と、王子やビョン様の前に立ち止まる世代がきっぱり違うのには笑えた。ビニファンのアジュンマだってここにいるで~~~。(爆)
主に韓国の映画雑誌「SCREEN」「Interview」誌に掲載された写真とインタビューで構成された会場だったが、「Coma」という、フォトグラファーや、ヘアメイクアーティストを一貫して提供しているらしい団体のマークのついた写真群が際立ってアーティスティックで、綺麗で面白かった。我らがJDGの最新のジオダノのもありましたぞ。ここの良く知られている代表作というと、かのヨン様の最初の写真集かな。(びっくりするような肉体に改造して挑んだ、アレ。)

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2006年6月23日 (金)

『キムチ兄弟』 第5部 ~煩悶~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

「よお、ネエチャン。そんなところで何してんだ?」
テホは、白菜畑とあぜ道を挟んだ反対側の用水路の前に屈んでいる、やけにスタイルの整った女に背後から声をかけた。その手足の細さや長さときたら、まるでファッションモデルのようだと、間近で見て感心する。
「シーッ! 静かに!」
人差し指をその小さな唇にあてた彼女の恐ろしく真剣な眼差しに、テホは思わず素直に小声になってしまう。
「何、してんだよ、こんなところで」
「カエル。捕まえるの」
「はっ?」
「シーッッッ!! あっ・・・・・・あ~ぁもお、逃げちゃったじゃない。どうしてくれんのよ、もうちょっとだったのに」
「・・・・・・」
この女、俺の話よりカエルなのか?と、テホは可笑しさがこみ上げてくるのを禁じ得なかった。
「捕ってやろうか?」
「バカね、自分で捕まえるから楽しいんじゃないの。他人に捕まえてもらったって嬉しくも何ともないわよ」
「カエル、好きなのか?」
「別に・・・・あ、でもちょっとカエルっぽい人は知ってるけど。ひどいO脚なの。ところでどうでもいいけどあなた、開発反対派の人よね? さっきの説明会にいた」
カエル以下だと思ったら今度は、“どうでもいい”と来たか。
「カン・テホだ。どうでもいいことだろうがな」
「あたしはワールド不動産のヨ・ギョンジン。よろしくね、敵の親玉さん」
「ふん、大した肝っ玉だな。こんな暗がりに知らない男と2人で、おっかなくないのか?」
「全然。だって知らなくないもん、あなたカン・テホさんなんでしょ?」
「名前はたった今知ったんだろが」
「顔はさっきから知ってたわ。こーんな怖い目つきで睨んでた、テヒさんのこと。昔の知り合いなんですって?」
「・・・・・・・」
指で目尻を吊り上げてみせたギョンジンに、テホは苦々しげに眉根を寄せる。
「テヒの野郎もしばらく会わないうちに、随分口が軽くなったもんだな」
「あたしが聞き出したのよ。あの、もんの凄~~く人相の悪い人誰?ってね。テヒさんが自分からそんな話するわけないじゃん」
確かに、とテホは納得する。あいつは何でも自分からべらべらと喋る男じゃない。
「おい、ネエチャン」
「ギョンジンよ」
「ふん・・・・それこそどうでもいいさ。今から俺に付き合わないか? 奢るぜ」
「あら~、ごめんなさいね。あたし今からカエル足の男&その他大勢と食事に行くのよ、反対勢力撲滅作戦会議を兼ねて。白菜畑の真ん中でカエル共々ナンパされるなんてシチュエーション、きっとこれが最初で最後だろうから、ちょっと残念なんだけど」
「ふざけてんじゃねえぞ、このアマ」
「ふざけてないわよ、全然」
そのまま2人はじっと睨み合う。しかしBGMはゲロゲロゲロというカエルの合唱だ。奇妙に賑やかな沈黙を破ったのは、遠くからのパクウィの呼び声だった。
「ギョンジン!」
彼の後ろを、テヒ、シニョン、カンが追いかけるようにして駆けてくる。息を切らしたパクウィが、射抜くような視線をテホに向けた。
「何してる」
「あ、パクウィ。あたし今ね、ナンパされてたのよ、この人に。白菜畑でつかまえて~なんちゃって。あたしゃ青虫かっての」
「ギョンジン、今お前に聞いてない。黙ってろ」
パクウィは一歩、テホに近づく。
「あんた、確かカン・テホさんだっけ? 反対派のアタマの。ここでギョンジンに何してた?」
パクウィは、テホから一切視線を逸らすことなくそう詰問する。
「アタマって・・・・はっ! 最近の不動産会社ってのは田舎の暴走族レベルなのか? テヒ」
何をしていたと問われたテホは、薄い笑いを浮かべてテヒにそう振ったが、テヒは黙ったまま何も答えない。彼にしては珍しく強張った表情だ。
「まあいいさ。俺がこのオネエチャンをナンパしようとしていたのは事実だからな。ちょっと気持ちいいことしてやって情報聞き出そうと思っただけさ。まあ、こんな気の強えぇオネエチャンだと知っていたら、声なんかかけなかったけどな」
「てめっ」
拳を振り上げそうになったパクウィを留めたのは、ピィィィィ~~~!という、例のけたたましいホイッスルだった。
「はいはい、パクウィさん、2枚目ね。次回、出場停止です。残念ですけど」
「・・・・・・・」
言葉という言葉を失った全員を、ゲロゲロゲロゲロというカエルの歌声がのどかに包む。
イエローカードに助けられて去ってゆくテホの後姿にあっかんべーをしながら、ギョンジンはテヒの腕に絡みついた。
「行こ、テヒさん」

Kerokero_1テヒ、悶々・・・・
テホと入れ違いに居酒屋“ヤン・ミミ”を訪れた5人を、女店主は気だるい「いらっしゃい」で迎えた。アウラジの町に、居酒屋らしい居酒屋はここ1軒しかない。多分テホもさっきまでここで飲んでいたのだろうと思うと、女店主の気持ちもさぞや複雑なのではないかとテヒは気が気ではなかった。
「すみません・・・また来てしまって」
他の4人がメニューを奪い合っている間に、テヒは店主にこっそりそう言った。
「何で謝るんだい? まさか食い逃げの予定でも?」
「そうじゃなくて、私たちみたいなのがちょくちょく来ては、ご迷惑じゃないかと」
「迷惑なら迷惑って、はっきりそう言うよ。あたしゃね、客の話にいちいち聞き耳立ててるほど暇じゃないんだよ。一人で店、切り盛りしてんだから」
「ありがとうございます」
「さっさとオーダー決めとくれ。オーダー遅い方がよっぽど迷惑なんだよ、こっちは」
そう言って立ち去る途中、店主は「それから」と、すっかり恐縮気味のテヒを振り返った。
「ここではあんたらは、客なんだからね。金払って遠慮するこたないんだよ。店主には店主の守秘義務ってのがあってね、何見聞きしたって誰にも喋りゃしないよ。あー今夜はイングランド、どこと試合だっけかねえ・・・」
店主ヤン・ミミが、ぶつぶつと念仏のように呟きながら去ってゆく後姿を見詰め、テヒは心底思うのだった。
(居酒屋の店主の守秘義務、か・・・・女には敵わないな、多分、一生)

                            *

まずい、少し飲みすぎたかもしれないと気づいた時には、すでに足元がかなり怪しくなっていた。
テヒはそれほどアルコールに強い方ではない。自分自身そのことはよく分かっていたので、いつも適当なところでウーロン茶に切り替えるなり何なりするようにしていた。酒席での大人としてのマナーや嗜みも、充分に心得ているつもりだった。
それなのに、どうしたことだろう、今夜はなぜかちっともセーブが効かない。こんなことは学生時代も含めて初めてのことで、テヒ自身驚きを隠せない。
「おい、大丈夫かよ。そろそろやめとけ」
パクウィの声がする。
「まーだまだ、ぜんっぜん、だいじょーぶですってばぁ。あはは~~」
このダラシナイ声は誰だ? まさか俺か? 何だその、あはは~~ってのは。
バッカじゃなかろか、と悲しくなる。仕事なのに。付き合いなのに。さっさと切り上げて旅館に戻ろう。戻って寝よう。そう思うのに、足に力が入らない。立ち上がれない。
「飲みすぎだっちゅうの」
「そんなに、ぜんぜんのんでませんよ~、おれ、まだまだいけますけどぉ、明日も仕事だし、部屋に戻ってえ、寝ます! んじゃ、お先」
頑張って立ち上がろうとしたのに、グラリと身体が沈む。皿が1枚床に落ちて割れた。いつかテレビで見たオオサカの食い倒れ人形みたいだ、俺。咄嗟に腰のあたりを支えてくれたのはパクウィさんだろうか。
「へーきです。歩けますから」
「無理だ」
「だいじょーぶ、ですっ」
「大丈夫じゃない」
「し、しつこいな、パクウィさん、だいじょうーぶだって・・・・だって・・・うえっ」
わ、何か、急にきたぞ。き、気持ち悪い。
「テヒさん! テヒ! 吐くなよ、ここで」
「だめ・・かも。うっ」
「うあっ、待て、ちょっと、外、こら、今」
おいおいそれじゃまるで、昼間の俺じゃん。パクウィさんも、もっかい一緒に小学校だな。あははは~~やりなおし~ うえっ。とか考えているうちに、トイレより近かった店の玄関からずるずる外へ引き摺り出され、側溝の淵ににしこたま吐いた。
「何やってんだよ・・・ったく。いい大人がこんな飲み方」
「・・・・すみません・・おえっ」
「何だか知らねえけど、そうやっていろいろ腹に溜めてるとな、いつかカエルみてぇに腹が膨らんで、ぴょこたんぴょこたん歩いてるところを悪戯小僧に捕まって、ケツから空気入れられて爆死だぞ」
「・・・・ごめんなさい・・うえっ」
「だから、謝れって言ってんじゃねえよ。あほ。男はゲロってナンボだ。・・・・・・弟のことか? あんたの自棄酒の原因は?」
口の中が酸っぱくて、唾液腺が痛い。涙が滲みそうなのは吐き気が苦しいからだ、とテヒは自分に言い訳する。
「あいつ・・・・携帯番号変えたんだ。俺に黙って」
本当のことだった。テヒがそれに気がついたのは昨日のことだったが、もしかすると数日前から変えられていたのかもしれない。勿論テヒはドジンから新しい携帯番号もメルアドも聞いていない。昨夜慌てて、自分とほぼ同時期に実家を出て一人暮らしをしているドジンのマンションに行ってみたが、結局ドジンは帰ってこなかった。随分遅い時間までエントランスの前で待っていたのに。
テヒは、生理的に滲んだ眦の涙を、ごしごしとシャツで拭った。
「連絡、取れないんだ・・・・じゃがいも畑、あっさり売るって言うのも何かヘンだし・・・最近あいつのことが分からない」
「ブラコンか、あんた。しかも血、繋がってねえんだよな。もしかして、2人は“おホモだち”?」
「ドジンは・・・・あいつは俺の、大事な弟だ。妙なこと言うな」
「けっ。そういうのをブラコンって言うんだよ。世の中」
何とでも言え、くそ、と思ったらまた、猛烈な吐き気が襲ってきた。
「うおえっ」
「あーあー、兄貴ってのも大変な稼業だな。ご愁傷様。俺には兄弟なんかいなくて、つくづくよかったよ。会計してくる。遠慮しなくていいから、そこで思う存分好きなだけ吐いてろ」
パクウィのドカドカという足音が遠ざかって行くのと同時に、辛うじて保っていた意識の方も、ズンズン遠ざかって行くのを感じた。
何だか眠い。疲れた。パクウィの支えが無くなったテヒは、その場にころり、と転がった。冷んやりした土の感覚が、妙に懐かしく心地よい。

「あ! でっかいカエルの死骸だ! やったあ、部屋にお持ち帰りしよっと」 
「お持ち帰って、どうする気だ、ギョンジン」 
「食う~!」 
「・・・踊り食いかよ? まだ生きてるぜ、相当瀕死っぽいけど」
「確かに、イキ悪いですねえ、かなり弱ってるみたいです。一度ピッチの外に出して、棒で突いてみますか?」 
「焼けばまだ食えるかも」 
「ギョンジンちゃん、焼いてもあんまり食べるところなさそうよ、このカエルさん。最近随分痩せたみたいだから」
「へ? 痩せた? そっかな?」
「うん。だからエサ与えて太らせて、もう少し元気になってからみんなで焼いて頂きましょう、ね?」 
「はーい! そうしま~す! シニョンさん、さっすがあ」
「仕方ねえ、大事な食材だ。俺が背負って帰るしかねえな。よっこらせっと」
俺を食っても多分美味くはないよ、ギョンジン。棒で突くのは勘弁して下さい、カン代理。痩せちゃったこと気づいてくれてたんだね、シニョンさん。パクウィさん、覚えてろよ・・・・・しかし、テヒにはもはや、怒る気力も言い返す力も、一滴たりとも残ってはいなかった。

Sinyon髪おろすとこんな感じ。
「あんたさ、時計、渡さなくていいのか? コイツに」
「・・・い、いつ気づいたですか?」
「さっき・・・・って、もう昨日か。市庁舎の駐車場で、チラッと見えた。ギョンジンが持ってきたのと同じ店の紙袋だったから分かった。もっともこのゲロゲロ鈍感カエル野郎は、まるで気づいていなかったようだけど」
「そう」
「このまま渡さないつもりなのか?」
「だって時計、2つ貰っても困るだけでしょ、テヒさん」
「2つあって困るもんじゃねえだろ。知らんふりして渡して、どっち使うかはコイツに決めさせりゃいいんだ。敵前逃亡なんて、俺は好きじゃないぜ」
「ギョンジンちゃんが選んだこの時計、とっても素敵よ。テヒさんに似合ってるわ」
「・・・・そうやって、卑屈になんなよ」
「違うの。卑屈になってるんじゃないの」
「じゃあ・・」
「私は、私が時計を渡したことで、テヒさんが困るのが嫌なの。同じ仕事仲間から同じ物を同時に贈られたら、どっちを使おうか迷うでしょ? そういうふうに困るテヒさんを見るのが嫌なだけ」
「・・・・・」
「それだけよ。別に、イジケて渡さないんじゃないわ」
「シニョンさん」
「何?」
「コイツの心には今、誰も住んじゃいないと俺は思うぜ。弟以外、誰も」
「・・・・・・」
「力になってやれよ、このヘタレガエルの」
「あなたこそ・・・・」
「え?」
「あなたこそ、ギョンジンさんを、このまま放っておいて、後で後悔しない?」
「なっ、何でここであいつの話なんか」
「彼女さっきね、カン代理にこう言ってたわよ。『あたしなんかもう何年もゴール前で待機してるのに1点も決められない。え、オフサイドって何ですか? 反則なんですかぁ? 知らなかったなあ。だから味方は誰もパスくれないんだ・・・そっかあ、分かった。待っててもダメなのかぁ』って」
「・・・・・・」

テヒはその夜、枕元でパクウィとシニョンが、そんな会話をする夢を見ていた。

                              *

教会の礼拝堂で、シスター・マリアが祈っている。
『主よ、汝の罪をお許しください。なんびとたりともあの兄弟の愛を分かつことのないようお導きください、ああ主よ・・』
教会に併設された小さな孤児院、“希望の家”。
中庭でふたり、もつれるように転がりながら遊んでいた日のこと、お祈りのとき以外は入ってはいけない、といくら言ってもこの礼拝堂でかくれんぼをして叱られていた日のこと・・・・
いつも、テヒはドジンをかばい叱られていた。ふたりとも頑固な子だったけど、叱られればテヒは、すぐに謝った。言い訳はせず、おおきな目にいっぱい涙を溜めてシスターを見上げた。
そんなテヒの後ろに隠れて、ドジンは俯いていることが多かった。自分が悪くないと思えば、絶対謝らなかった。泣きもしない。唇をかんで、こぶしを握り締めていた。
『ほら、ドジン、謝らなければ晩御飯抜きだよ』
テヒがいくら諭しても、頑として非を認めないこどもだった。
『ドジンは利口そうだから、僕が働いていっぱいお金を儲けて、高校にも大学にも行かせてやるんだ』
テヒは、本気でそう思っていた。
『ふたりを別々の里親に預けることは無理ね』
ふたり一緒という条件では、なかなか名乗り出てくれる里親はいなかった。だから、他のこどもたちが次々ここから巣立っていく中で、テヒとドジンだけは、来る日も来る日も、どろんこになって遊んでいた・・・。
『テヒにいちゃん、やだよぉ、いっしょがいいいよ、おわかれしたくないよ』
『ドジン・・』
『うわ~ん、やだあ、いやだよぉ、テヒにいちゃん、ぼくもいくよ、つれてってよ、おにいちゃーん!』

「ド・・ジン・・・・ドジン・・・わっ!」
テヒは掛け布団を思い切り蹴っ飛ばし、半身を起こした。
「痛った・・・・っぅ」
途端に、この世のものとも思えないほどの激しい頭痛に見舞われ、テヒは再度布団に撃沈する。ほとんど初めての経験と言ってもいいほど、酷い二日酔いだった。
そうだった。あの日・・・・ドジンは先にパク家に引き取られることが決まった俺を、施設の門まで追いかけてきて、泣いて縋ったんだっけ。そんなドジンの様子を目の当たりにしてしまった父さんと母さんが、テヒを引き取って2ヶ月も経たないうちに、ドジンまで引き取る決心をした。
『これでまた一緒にかくれんんぼ、できるね』
『うん! おにいちゃん!』
・・・・幸せだった。
優しい両親と、可愛い弟。何も不満などなかった。ずっとずっとこのまま幸せに暮らしてゆけるのだと信じていた。それなのに・・・・・

それにしても、と、テヒはメガトン級の頭痛の原因を思い出そうとする。
(えっと・・・昨夜は、住民説明会の後、居酒屋“ヤン・ミミ”で・・・・えーと、うーんっと・・)
ゆるゆると戻ってくる昨夜の記憶に、テヒは震え慄く。
(まずい・・・・途中からよく覚えていない)
居酒屋“ヤン・ミミ”で、立ち上がろうとしたのを、パクウィに支えられて、皿が床に落ちて割れたところまでは、はっきりと覚えている。しかしその後は、断片的な会話以外、何も思い出せないのだ。
はああ・・・と、バイカル湖より深いため息をつき、ずるずると布団に潜った。何だかもう、ハマグリみたいな気分だった。

Dojin弟はどこから見ても美しい ・・・しかしどんな秘密が??
その頃、1台の車が、S市からアウラジに向けてひた走っていた。
ドジンは思い出している。たった一人、アウラジから遠い教会に預けられた当時の恐ろしい孤独を。どんなに他に子供がいても、それは何処へ追いやることも出来ずに、不意に襟首を掴むようにして、幼い心を苛んだ。
苦しかった。悲しかった。誰に訴えることも出来なかった。そんな時、いつの間にかそばにいてくれるようになった、年長の少年。いつもいつも自分のことはどっかに置いて、俺を庇ってくれたっけ。その手だけは、離したくなかった。たったひとつ残された暖かいもののように思えた。
そして、彼は俺の兄さんになった。嬉しかった。オンマに素直に感謝した。
兄さん・・・今の俺にはそんな兄さんの知らない世界がある・・・・
ドジンは、その美しく整った顔を苦悩に歪めながら、力任せにアクセルを踏みつけた。
この1年、“出張”と称して、数え切れないほど何度も往復した道のりだ。
そう・・・誰にも内緒で。兄さんにも内緒で。
いや、兄さんにこそ知られたくはなかったのだ。
あの男に会うためだから。そう、あの男に・・・・

                                             (続く)

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2006年6月21日 (水)

『キムチ兄弟』 第4部 ~対立~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

真夜中の閃光が、闇を引き裂く雷鳴を伴って閉めきったカーテン越しに部屋を照らし出した。真後ろに立っている男が纏っている空気は、昨日までのあどけないだけの弟のそれとは全く異質なものだ。テヒは必死で動揺を隠し、ともすると震えそうになる指で部屋の電気を点ける。テヒがこの部屋を出てひとり暮らしを始め、すでに1年以上が経っている。普段主のいない部屋は、四角いベッドと机があるだけのおよそ殺風景な空間でしかなかった。
「座れよ」
平静を装い、ベッドサイドに腰掛けるようドジンを促すが、その声はどこか落ち着きなく上擦っているような気がする。
「いいよ、すぐに終わる話だから」
「ドジン、あのな・・」
「分かってる。話し難かったんだろ? ふっ・・・そうだよね。どう考えたって兄さんが俺に『あの畑を手放してくれ』なんてこと、言えるわけないもん」
稲光とほぼ同時に雷鳴が轟く。腹の底まで響くような轟音にも、ドジンは顔色ひとつ変えない。
「兄さんは優しいから、偶然とはいえ開発を促進する立場になったなんて、とてもじゃないけど言えなかった。俺にどう切り出そうか、どうして自分に相談してくれなかったのかって、結局あれこれ悩んだまんま、アウラジの視察に行った・・・・そうだろ?」
「ドジン、黙っていたことは本当に悪かっ・・」
「だからいいんだって、謝らなくても。それに心配しなくても、兄さんを困らせるようなことはしないよ。安心していい」
「どういうことだ?」
「土地は売るよ」
テヒは一瞬、耳を疑った。壁に凭れかかったまま、少し首を傾げ、薄ら笑いさえ浮かべたこの男は一体、本当に弟のドジンなのだろうか。
「売るって・・・おまえ」
確か地権者が売却を拒んでいるという話だったはずだ。だからこそ、その地権者の兄である自分が今回のプロジェクトに抜擢されたのだ。本来全くの部外者だったはずの自分が、だ。ドジンを説得するため、ただそれだけのために。それがどうして、いともあっさりと「売るよ」なのだ? しかも淡々と平然と・・・・
「そろそろいいタイミングだからね。1年前、この開発の話を聞かされた時から、俺はあそこの土地は売るつもりだったんだ。だけど、あんまり簡単に『はいそうですか、じゃあ売りましょう』なんて言ったら、町の人たちに変だと思われるだろ? だからちょっと渋ったフリしてみたんだけど・・・・まさかワールドが兄さん連れてくるとは、誤算だったよ」
「誤算って・・・」
テヒは、弟の口から滔々と語られる内容を、全く飲み込めずにいた。
ちょっと待てよ、1年前ってどういうことだ。“チョンソンじゃがいも村”の計画がそんなに前から持ち上がっていたとするなら、ドジンは1年もの間、自分に何も明かさず、じゃがいも畑を売り払う算段でいたということになる。ドジンにとってあの土地は、その程度のものだったのだろうか。
ドジンは、いかなる理由があろうともあそこを手放したりしないだろうと、そう思っていたのは自分だけだったのか? 自分だけの身勝手な思い込みだったというのか?

Dojinn豹変した弟。兄さんの知らない世界が・・・
『兄さん、あのさ、俺ね、今の会社退職したらさ、チョンソンに戻ってジャガイモ畑を耕して暮らしていきたいと思ってるんだ。もちろん母さんが了解してくれたらの話だけど』
そう、夢を語った時の、ドジンのキラキラした瞳・・・・ほんの数年前のことだというのに、今は遠い遠い昔のことのように感じる。テヒの記憶がゆるゆると回りだす。
『オンマァ、どこ?・・・どこなのぉ・・ううっ・・・こわいよぉ』
まだ施設にいた頃、夜中に事故を思い出しては泣きじゃくる小さな少年を、優しく宥めて朝までずっと抱いてやった。涙を指で拭って、それから子守唄を歌ってやった。
『ひとりでねるとね、こわいゆめばっかりみるんだよ。だから・・・』
『ドジンは甘えん坊だなあ。おいで。いいか、ぼくの布団でおねしょなんかするなよ』
『し、しないやい。ぼく、あかちゃんじゃないもん!』
舌足らずな口調で生意気言いながらも、おずおずと懐に潜り込んできた小さなぬくもり・・・・あれは夢か幻だったとでも言うのだろうか。
悪い嘘のように、冷徹な表情で「売る」と告げたドジンの硬質さに、テヒはただ呆然とする。自分の全く知らないドジンが・・・・そこにいた。
「とにかく、あのじゃがいも畑は来週中にでもワールド不動産が買い取ることになるさ。兄さんの手を煩わせるようなことは何もない。心配しないでいい」
「お前、それでいいのか?」
「いいのかって、何が?」
「あの畑を、そんなふうに簡単に手放していいのかって言ってるんだよ。あそこはお前の死んだ両親が・・」
「今、あの畑に父さんと母さんがいるわけじゃないんだよ、兄さん」
ドジンは、あくまで淡々とした口調でテヒの言葉を遮った。
「父さんも母さんも、もうこの世にはいないんだ。じゃがいも以外何も取れないあんな畑を、後生大事に守っていって、それが何になると思う? 俺には他にやることがたくさんある」
「もしかしてお前、・・・・・金が必要なのか?」
ドジンが土地を売ると言った時、最初にテヒの胸を掠めたのはそのことだった。もしかして自分の知らないところで何か“よくない”ことに巻き込まれて、それで金が必要になったのではないか・・・・しかしドジンは、そんな兄の心配を鼻で笑い飛ばした。
「ふふふ・・・・ホント、兄さんはいい人だよ。っていうか、人がいい。良すぎる」
「・・・?」
「悪いけど、俺はもう兄さんが思っているほど子どもじゃない。自分の世話くらい自分でできるんだよ。だから兄さんも俺のことなんて気にしないでいい。そっちはそっちでいろいろ忙しいだろうから」
「なあドジン、何だかよく分からないが、お前、何か俺には言えない問題抱えて困ってるんじゃないのか?」
「そんなこと・・・問題なんて何もない」
「ならいいけど、金の問題でもないのにあっさり売るって、それも一人で決めちゃって・・・いつものお前らしくないだろ、ん?」
兄の気遣うような眼差しから、無言のまま顔を逸らしたドジンの表情が一瞬、苦しそうに歪んだ。そして次の瞬間、テヒに向けられた彼の視線は、今までただの一度も感じたことのない険しい熱を孕んでいた。
「俺らしいって、何? どういうのが俺らしいの? 兄さんは今の俺の、いったい何を知ってるっていうのさ。兄さんはいつもそうやって優しいけど・・・そうやって俺を甘やかして・・・・だから・・・だから俺は・・・・」
「ドジン・・・?」
小刻みに震えるほどぎゅっと握った拳を徐々に開き、ゆっくりとひとつ深呼吸をし、ドジンはやがて静かな声で告げた。
「とにかく、兄さんは兄さん。俺は俺なんだ。だからもう、必要以上に関わるのはよそう。それだけ、言いに来た。ゴメン、こんな夜中に」
待てよ、とテヒが止めるより先にドジンは部屋を出て行った。玄関のドアが開く気配に次いで、こんな時間だというのに、車のエンジンをかける音がする。
(ドジン・・・・)
遠ざかっていった雷と入れ替わりに降りだした大粒の雨に容赦なく叩かれながら、ドジンの車が走り去るのを、テヒは、カーテンの隙間から見送るしかなかった。
雨は、夜が明けてもやむことはなかった。

                         *

Tehi心労でウエイトダウンのテヒ。スーツがお似合い^^(だからってその格好でアウラジ行くなよ~~)
久しぶりの屋上だった。晴れ渡った空の青さが目に痛い。風の微妙な温度は、もうすぐそこまで来ている次の季節を予告していた。袖をたくし上げたシャツの袖でこめかみ辺りに薄っすら浮かんだ汗を拭うと、横から「ほら」とハンカチが手渡された。
「そろそろ屋上ランチには暑い季節かねえ」
「ありがとうございます。明日は真夏日らしいですからね、天気予報によると。あ、じゃあ次回からは、そっちのベンチに座りませんか? ちょっとファンの音がウルサイけど」
額の汗を白いハンカチで拭き、テヒは空調用ファンの陰になったベンチを指差す。
「そうだね。日射病になるよりはマシかね。それに陰の方がテヒちゃんとの秘密のデート、邪魔されなくてすむし」
“市役所のオンマ”こと、チャン・ヘスクは悪戯な顔でククッと笑った。
「すみません。何だか結局、いつもご馳走になってばかりで」
「いいんだよ、そんなこと。自分の分だけ作るなんてね、面倒なだけ。こうしてテヒちゃんに食べて貰えると思うと料理のし甲斐もあるってもんさ。それにあんなにたくさんじゃがいも貰ったって、あたし一人じゃ芽ぇ出させておしまいだよ。美味しいって食べてくれる人がいるってことはね、それだけで有り難いことなんだよ」
初めての視察で訪れたアウラジでテヒは、自分のオモニ以外に、ヘスクにもお土産をのじゃがいもを持ち帰っていた。ひとり暮らしなら自分もこの1年自分も経験しているはずなのに、つい3㎏ものじゃがいもの箱を「お土産です」と手渡してしまい、結局こうしてヘスク特製のジャガイモチヂミをご馳走になることになってしまった。
「美味しいかい?」
「ええ、とっても。あ、キムチも頂きます」
経過報告のために訪れたS市庁舎で、テヒは3週間ぶりにヘスクと屋上ランチを共にした。初めてヘスクに誘われてここでキムチをご馳走になってから、2人にとって今日が3回目のランチデートだった。
「アウラジはどうだった? 仕事は上手くいってるのかい? 慣れない仕事なんだから体調の管理はしっかりしなきゃならないよ、あんたちょっと、抜けてるところがあるから」
実のオモニに言われたのと、ほとんど全く同じ台詞をヘスクの口からも聞かされ、テヒは思わず苦笑する。
「大丈夫ですよ」
「でもあんた、ちょっと痩せたよ? ちゃんと食べてるのかい?」
「え? 痩せましたか、俺?」
「これだから心配なんだよ、全く。顔色だってあんまり良かないよ。その様子じゃ自覚ないんだろうけど・・・・・何か心配ごとでもあるんじゃいのかい?」
ふっ、とあの夜の閃光に照らし出された、ドジンの無表情な横顔が過る。覗き込んだヘスクの心配そうな視線をはぐらかしたテヒは、まさか、と明るく笑って頭を振った。
「アウラジは最高にいいところでしたよ。仕事も順調ですし・・・・3食きちんと食べています」
最後は嘘だった。ドジンと話した夜以来、テヒはほとんど食欲がなく、体重こそ測ってはいないがかなり痩せてしまった自覚はあった。
「それならいんだけどね。もしも食欲が無い時はいつでも連絡寄越しなよ。特製キムチと特製チヂミ持って駆けつけてやるから。はいこれ、あたしの連絡先ね。携帯は持っていないけどさ」
ヘスクはそう言って、まるで恋人にでもするように、自宅住所と電話場号の書かれた紙切れをテヒに握らせた。
「ヘスクさん・・・・ありがとうございます」
「いいんだよぉ、礼なんて。全部あたしが好きでやってるんだからさ」
ヘスクは、照れてちょっぴり赤らんだ顔の前で、ぶんぶんと両手を振ってみせた。テヒは、彼女のそんな仕草が、かなり年上の女性に対して失礼ながら“可愛い”と思ってしまう。
(この人といると、不思議と心が安らぐ)
いろいろ心労の嵩む今、こうして“市役所のオンマ”と2人でのひっそりデートは、テヒのささくれた心に、人間らしい潤いを与えるに充分だった。とびきり美味しいキムチとチヂミのお陰で、テヒは少しだけ元気を取り戻しすことができた。
「テヒちゃん、あんた手首のここ、ちょっと白いんだね」
「?」
ヘスクにそう言われても、テヒは最初、何のことだか分からない。
「ほらここだよ、日焼けしてない部分がある・・・・あ、分かった、あれだね、ほら、今時の若者がみんなしてる・・・・・そう、ホワイトベルトだっけ?」
テヒの手首を一周する白い輪。ヘスクはそれを指していた。
「ああ、これ? これは」
「ホワイトベルトだろ? ん? 何か違ったかい? あ、ホワイトサークルだったかい?」
「・・・って、それを言うならホワイトバンドでしょ、ヘスクさん」
「あぁ、あぁ、そうそう、それ。それのせいだろ? いつもホワイトナントカを嵌めてるから、そこだけ日焼けしてないんだろ? テヒちゃん、あんたも何だかんだって“ワカモノ”だねえ、あっはっは~」
「あはは、まあ大体そんなようなものですけど・・・・」
あたしゃ見かけよりずっと若いんだよ、ホワイトナントカくらい知ってるよぉ、市庁舎に寄る用事がある時はまたデートしようねと言い残し、ヘスクは嬉々とした様子で立ち去った。そんな彼女の後姿に、テヒは笑顔で手を振る。
(本当はホワイトバンドのせいじゃないんだけど・・・まあいっか)
心でそう呟いて、テヒはズボンのポケットに仕舞った重い数珠を、じゃらんと取り出した。
今日はこれから、あのテポドンな4人を乗せてアウラジに赴く予定になっている。市庁舎内での仕事中は、目立つ上、デスクワークの邪魔になるので外しているその数珠を、テヒは手首に付けた。
この数珠は、34年前、S市郊外のあの教会の前に置き去りにされていた自分のベビーキャリーの底に入っていた物だ。
『きっとあなたを産んだオモニが入れてくれたものよ。オモニはね、何か事情があってあなたを手放したのよ。愛していなかったのとは違う。分かるわね、テヒ?』
8歳で施設を出る時、シスターがそう言って手渡してくれた。この世でただひとつ、産みの親と自分を繋ぐモノ・・・・・粒の大きな美しい数珠。
しかし、仕事中は決して身につけることはしない。あまつさえ、ここまで自分を育ててくれたオモニの前でも、決してそれを手首に嵌めることはしなかった。いつもポケットの奥にこっそりと忍ばせておき、一日の中の限られた時間帯にだけ、テヒはその数珠の重々しい感触を味わっていたのだった。
(俺を生んだオモニは、今もどこかで元気に生きているのだろうか・・・・)
駐車場でぼんやりと、夏色に変わりつつある空を見上げていると、遠くから自分を呼ぶ声がした。先日より更に露出度の上がったギョンジンが、手を振りながら駆けてくるのが見えた。

                   *

Gio2 過剰な露出に振り回されるオッサンと振り回されないオッサン、の図(笑)
「遅くなって、ごめんなさ~~~いっ!」
スピードを全く緩めず体当たりしてきたギョンジンの華奢な身体を、思わずテヒは抱きとめる。
「うぁ、あ、危ないよギョンジンさん」
子どもサイズのような小さなキャミソールが覆っている部分以外の全てを、惜しげもなく晒したギョンジンの上半身の、一体どこに視線をやればいいのか分からず、テヒは忙しく空や地面を観察した。
「えへへ、めんごめんご。ねえテヒさん、その“さん”つけるのやめてくれない? ギョンジンでいいよ、年下なんだから。ね?」
「あ、・・・うん。ねえギョンジン、ひとつ聞いていい?」
「なあに?」
「ギョンジンって、特別暑がり?」
「へっ?」
「だって・・・・ほら、いつもそんな格好で、ひ、冷えないの? 腕とか肩とか」
「冷えないけど、全然」
「そう・・・ならいいんだけど。今そんな格好してたらさ、真夏はどうするのかなあって、ちょっと思ってさ」
「・・・・・・」
ギョンジンは一瞬、ぽかーんと口を開け、やがて天高く爆笑をこだまさせた。
「ぎゃはははは。脱ぐ脱ぐ。あたし、テヒさんが脱げっていうならいつだって脱ぐよ。真夏まで待たないでいいよ、今ここで脱ぐ。見る?」
「なっ!・・・そっ・・・ぬっ・・・ええっ?」
何でそういう話になるのかと、テヒが大混乱している所にパクウィが現れる。
「ねえねえねえねえ、パクウィ聞いて聞いて。テヒさんね、真夏になったらあたしに裸になって欲しいってよ」
「そっ! そんなこと、全然、い、言ってませんから! 勝手に話作らないで下さい!」
テヒは耳まで真っ赤になって叫んだ。
「あっそ。そりゃ、よかったじゃねえか・・・・と」
パクウィは車の後部座席のドアを開け、ドカッと腰を下ろし、今日の夜現地で行われる最初の“地元住民への説明会”の資料に目を落とした。
「あの隠れフーリガンオヤジと、そろばんずく女はまだ来ないのか? 時間ねえってのに」
「カン代理とシニョンさんなら、間もなく来ます」
自分だっていつも遅刻だろ、と心の中で毒づく。
「それよりパクウィさん、俺はギョンジンさん・・・じゃなくてギョンジンの、は、は、はだ・・・・・つまり、今ギョンジンが言ったこと、全部嘘ですからね。変な誤解しないで下さいよ」
「あーん?」
パクウィは、胡乱な眼差しでテヒを見上げた。
「いんじゃね? 別に。女のハダカ見てぇのって、普通だし。男はエロくてナンボよ」
「だっ! だから、違う、そおゆうこと、俺、今のは」
「テヒさんよ、あんた小学校戻ってハングルやり直せ。主語とか述語とか基礎から」
だって、と脳内で必死に文体を組み直すテヒに、諸悪の根源が突然にっこりと小さな箱を手渡した。
「はい、これ。どーぞ」
「・・・・な、何です、これ」
「プレゼントよ、あたしからテヒさんに。時計、壊れてるんでしょ?」
「あ・・・・」
確かにテヒの時計は数週間前から止まっていた。修理に出そうか、新しいものを買おうか迷っていたところに今回の異動が重なり、時計店に行く機会を逸していたのだ。時間を見るのに毎回、テヒが携帯を使っていたの見てのギョンジンのプレゼントだったようだ。
「こんなの・・・受け取れないよ」
「いいじゃない、誕生日なんだもん。貰ってよ」
「俺の誕生日は3月だよ、6月じゃない」
「あたしの誕生日なの、今日。大好きな人にプレゼントして、その御礼に『ありがとう、嬉しいよ』って言ってもらうってのが、最高のバースデープレゼント。はい、テヒさん『ありがとう、嬉しいよ』は?」
「そんな勝手な」
「それとも何かい、あたしの贈り物、受け取れないってかい?」
猟奇的にぎりぎりと睨まれて、テヒはがっくり肩を落とし呟いた。
「ありがとう、嬉しいよ。ギョンジン・・・」
きゃっきゃと頬に手を当て、駐車場で踊りだしたギョンジンの姿にがっくり脱力していると、市庁舎の職員専用で入り口からシニョンとカン代理が出てくるのが見えた。
「ギョンジン、そろそろ出発だよ、乗って」
「あ、は~い、ダーリン」
「ダーリンはやめろ。 ・・・・ギョンジン」
「何?」
「誕生日・・・・おめでと」
「あ・・・」
一瞬ぽっと顔を赤らめ、こくりと小さく頷いたギョンジンは、いつもの憎まれ口塗れの彼女からは想像できないほど素直で愛らしかった。
しかしテヒは知らない。車に向かって歩いて来るシニョンの手に、ギョンジンから受け取ったのと同じ店の紙袋が握られていることを・・・・・

                       *

その夜、アウラジでは予定通り、第1回の住民説明会が行われた。
『反対派なんていう言葉に酔ってるだけの連中です。どんな開発にもそういった輩は付き物で、必要以上に警戒する必要はありません。第一、今回は町長が推進してくれているんですから、恐いものなしです』
前回の視察の際、アウラジ町役場の観光課長が言っていたことを、テヒは思い出した。
『自分たちに何かしらの損益があるから反対するんですよ。そこをうまく金でフォローすれば、案外たやすく堕ちますって』
(けれど・・・果たしてそんなに単純なものなのだろうか)
テヒは、真正面から自分を見据えてくるテホの視線に、観光課長の言う“損益”の何たるかを探そうとしたが、すぐ、無駄な努力だろうと諦めた。
結局その夜の会合は、両者一歩も引かず、物別れのまま閉会した。こんな説得をあと何ヶ月続けなくてはならないのかと思うと、正直げんなりしてしまう。人間の不条理な感情に晒されるのは、テヒの最も苦手とすることだ。争いごとは嫌いだ。
(できるだけ、穏便に済ませたいな)
気がつくと、この頃はため息ばかりついていた。

反対派急先鋒の青年部長は酒癖が悪い。
集会の会場となった公民館(これはウォンビンという俳優が自作を上映した、村でひとつしかない公民館である。あるときは映画館、あるときは選挙の投票所、またあるときは敬老会の会場ともなる)からの帰り道、集会で引っ掛けたコップ酒が回りに回ったうえに、途中立ち寄った村外れの居酒屋「ヤン・ミミ」で相手にして来たフィヒャンの、大きく開いたブラウスの胸元がまぶたに焼き付いて仕方なかった。性悪女の中途半端な深情けには懲り懲りだ。このオンナは絶対ヤラせてはくれないことをよく知っているテホは、そこそこで切り上げ、やり場のない高ぶった気持ちを持て余しながら家の方へと歩いていた。
と、暗がりの中、白菜畑のあたりで偶然、ひとりの女に出くわした。
(あの女・・・・・さっき集会でテヒの隣に座っていた、ワールド不動産の女だ)
ふふふ、と意味ありげな笑みを浮かべると、テホはゆっくりと白菜畑に向かって歩き出した。もともとねちこいテホの目が、獲物を捕らえた豹のように、妖しく光った。

                                             (続く)

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2006年6月19日 (月)

『キムチ兄弟』 第3部 ~雷鳴~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

「あんたはゴルフ、行かなかったのか?」
市場のはずれを肩を並べて歩きながら、16年ぶりに再会した高校時代のライバルは訝し気な視線でそう訪ねてきた。一歩踏み出すたびに、その懐かしい肩が少しだけ上下に揺れる。彼のバスケットボール選手としての未来を奪った、あの最後の試合での怪我の後遺症だろう。いたたまれない気持ちで、テヒはわざと顔を正面に向けたまま歩いた。
「ゴルフって?」
「知らないのか? S市の偉いさん、アウラジの町長、助役、それからワールド不動産の観光開発部長様やら課長様やら、皆さん昨夜から春川の豪華ホテルにご一泊なさって、今日は朝からゴルフなんぞなさるそうだぜ」
「そうだったのか。全然知らなかった。俺、今さっきここに着いたばかりだから」
「相変わらずオメデタイよ、あんたは。まあもっとも、俺たち若手の知らないところでごちゃごちゃ汚いマネするのがアイツらの仕事みたいなもんだからな」
テホは、吐き捨てるようにそう言った。

Sityou豪腕町長。賄賂で揉めてコメント?
「やっぱり・・・・・・陰で相当動いてるんだな、金」
「ふん。オメデタイくせに、大事なことはちゃんと分かってんじゃねえかよ。ウチの・・・アウラジの今の町長、ありゃ最悪だ。馬に人参、ハムスターにヒマワリの種、オ町長に現金ってくらい金に執着している。ワールドからどれくらいの金額がオ町長に流れているのか、俺たちは今それを調べているところだ。しっぽ掴み次第、即リコールさ」
「調べるって・・・・テホ、お前今、何の仕事してるんだ?」
テホは、テヒのその質問には直接答えない。そして、いつしか辿り着いた、市場から程近い河原の土手に腰を下ろした。テヒも黙って彼の横に座った。少し湿り気を含んだ土の匂いに混じって、夏前のこの季節独特の、青い草の匂いが鼻の奥をくすぐる。不意に、子供の頃近所の河原でよくドジンとかくれんぼをしたことが脳裏に浮かんだ。
ドジンに一言も告げないまま、自分はこれから彼の生まれ故郷に、初めて足を踏み入れるのだ。そのことがテヒの心に、チクリと切ない痛みを与えた。
「俺は、アウラジが好きなんだ。あそこを汚すやつは誰であろうと許さねえ。例えあんたでもな、テヒ」
「・・・・・」
「16年前、あの怪我でもう一生バスケが出来なくなっちまって・・・俺はお袋の故郷のアウラジに、逃げるようにしてやってきた。あのままS市の大きな病院できちんとリハビリしていたら、もう少しマシな歩き方ができるようになったんだろうが・・・それでもあの時の俺にとっちゃ、S市にいること自体、地獄みたいなもんだったんだ」
「分かるよ・・・・・って、そんなこと軽々しく言える立場じゃないけどな、俺は」

Yonman嫁は綺麗な「婆や」ことヨンマン^^
それは、S市高校バスケットボールリーグ最終代表選考試合での出来事だった。すでに選抜チーム入りがほぼ確定していたテヒと違い、テホは選考ライン上にいた。ジリジリと焼けるような激しい焦りが、テホのプレーを荒くした。経済的な悩みなど何一つなかったテヒに比べ、母一人子一人で食うや食わずの時代もあったらしいテホは、事実上プロ選手へのチケットともいえるこの選抜チーム入りを、その場にいた誰よりも強烈に望んでいた。そして、事故は起きた。
テホの足が、ドリブルからシュート体勢に入ったテヒの足に絡み、“黄金の足”と謳われるほどの俊足の持ち主だったテヒの身体が一瞬、宙を舞い、体育館の床に強かに打ちつけられた。うっと低く呻いて蹲ったテヒの代わりに怒りを露にしたのはテヒのチームメイトのヨンマンだった。180センチのテヒとて、バスケットボール選手としてはそれほど大きい方ではなかったが、このヨンマンは実に170センチ台の小柄な身体ながら、すばしっこさでのみで選抜最終選考まで勝ち残ったという、稀有な経緯の持ち主であった。信じられないことだが、普段鷹揚で人懐っこい性格のヨンマンが、この後のプレーで牙を剥いた。ヨンマンの体当たりのファウルに、今度はテホの身体が宙を舞った。複雑に絡み合った男同士の足が嫌な音を立てて崩れ落ち・・・・

「あの時俺は、本気であんたを潰そうとした。今更言い訳なんかしない。俺の本気を、ヨンマンがいち早く察したんだ。お人よしでバカなあんたより先にな。あいつは・・・・・捨て身で俺を潰しにきやがった。あのチビはあんたに心底惚れていたからな」
「・・・・・・」
「あいつは元気か?」
「・・・・元気だよ。随分時間はかかったけど、今は生活に支障ないくらいには歩けるみたいだ。ほら、もともと饒舌だったろ、あいつ。その才能を生かして今はキャバレーの司会とかしたり、あ、そうそう、ナントカっていう有名な俳優のファンミーティングの司会なんかもこなしてるらしい」
「良かったじゃないか」
「・・・・うん。あいつ去年結婚したんだ。すごく綺麗な人だったよ、お嫁さん」
「・・・・・・・」
繋ごうとする会話の隙間から、否応なしに入り込んでくる沈黙が重かった。テホもまた同じような息苦しさを感じているのだろうか、「とにかく」と短く言葉を切って立ち上がると尻についた青草をバサバサと乱暴に払った。
「あの時俺は、わざとあんたに足をかけた。確信犯。故意だ」
「・・・・・・・」
「あんたの才能が疎ましかった。憎かった。それだけだ」
「でも・・・・結果的に、俺は怪我なんかしなかったんだから・・・」
「それでも故意は故意なんだよ、テヒ。未必の故意ってやつだ」
「・・・・?」
「わざとじゃなくても、俺はあの時一瞬、お前が怪我しようがそんなこと構わないと思った。そういうは未必の故意って言ってな、結局わざとやったのと同じなんだよ」
「・・・テホ」

別れ際にテホが言った。
『どうやら俺たちは、とことん“敵同士”になる運命らしいな。あんたが相手なら、尚更遠慮はしないから覚悟しておけ』
その言葉を複雑な気持ちで反芻しながら車に戻ると、呆れたことにパクウィとギョンジンはまだ夢の中のようだった。テヒは、書類の“視察・チョンソン五日市”の欄に“パク”の判子を押すと、再びハンドルを握り、目的地アウラジへと向かった。

Futari_1こういう展開に・・・果たしてなるか?
視察地アウラジに着いたのは、梅雨時の中途半端に晴れ上がった午後の、これまた中途半端な時間帯だった。
「うわあ~~! ここが彼のアウラジの地ね。何だかとっても、じゃがいもじゃがいもした雰囲気ねぇ~。初めて来たのに不思議だな、何だか懐かしい感じがする」
数時間の眠りから醒めたギョンジンが、必要以上に丈の短いキャミソールの裾から惜しげもなく自慢の臍を覗かせて、うーんとひとつ背伸びをした。自分も寝起きのせいか、そんなギョンジンの無邪気な露出に得意の文句の言葉も出ないパクウィが、ふぁぁと間の抜けた欠伸をする。
けれどテヒの感慨の深さには、そんな二人の様子など入り込む余地も無かった。
(ここが・・・・・ここがドジンの生まれた場所・・・・・ドジンが両親と幸せに過ごした土地・・・・あいつの故郷)
ドジンがパク家に引き取られてきた時、テヒは8歳、小学3年生だった。間もなく4歳になろうとしていた当時のドジンは、今以上に酷く頑なで、それこそ手負いの獣のような目つきをしていた。そんなドジンのぎゅっと閉ざした心を、何とか解してはやれないだろうかと一生懸命だった自分・・・・テヒは、目の前に広がる広大なじゃがいも畑を眺めながら、甘く虚ろな追憶に浸っていた。
「あの、洞穴みたいなの、何?」
ギョンジンの質問に、テヒが答える。
「あれは、かつての炭鉱の跡です。今はもう廃坑になっていますが、ここは昔炭鉱で栄えた町なんです」
「へええ。テヒさんすご~い。物知り~」
「ばーか、おめえの常識レベルが偏差値30以下なんだっつうの!」
寝起きの後頭部をポリポリと掻きながら、呆れ顔で口を挟んだパクウィだったが、そのままもう一度欠伸をしたためイマイチ迫力がない。ギョンジンも言い返す気力を喪失しているようで反論をしない。
「とにかく長旅でくたびれた。一度このまま旅館に直行しようぜ」
最初から最後までテヒに運転を任せて、自分はただ爆睡していただけのくせに、パクウィは、あー肩凝ったと首の骨をパキポキ鳴らしながら、夕方まで俺もっかい寝るわ、と言ったのだった。

                  *

Futari_2 それともこっちの展開か?(うそうそ^^;)
夜。
夕方まで旅館で休んだ3人は、地元の居酒屋へと繰り出した。実はその居酒屋で、先行してアウラジ入りしていたS市職員2人と待ち合わせをしており、今夜は顔合わせを兼ねて5人で飲む約束になっていたのだ。同じS市役所に勤めていながら、テヒはその2人とは面識が無かった。異動の辞令が降りた直後、テヒの度重なる“ファックス裏表ミス”を声高に指摘した女性職員が、こっそりとも言えない意味ありげな声で耳打ちしてきた。
『今度テヒさんと一緒に出向するイ・シニョンって人、知ってますぅ? 髪をこう、いつもひっつめてる女。え? 知らない? ですよねぇ~テヒさんだもの。あのぉ、一応念のため教えますけどぉ、彼女って出納課出納係のお局様なんですよ。わりと結構有名っていうか。あたしなんか、経費の伝票持って行っただけなのに、もぉスッゴイ目付きで睨まれちゃってぇ、超こわい~って感じ? テヒさんも気をつけた方がいいですよ~~。あ、もう一人の方も、何ていうか“端的に窓際”? みたいな~~。あはは、テヒさん、ファイティーン』
そのありがた~い忠告のお陰で、テヒは居酒屋“ヤン・ミミ”の一番奥の席でこれ以上地味にはできないほどにひっそりと飲んでいた2人を、造作もなく探し当てることができた。といっても店内には自分たち以外に客などおらず、探すもへったくれもなかったのだが・・・
S市役所から出向のテヒら3人とワールド不動産の2人。この5人にアウラジ町役場の観光課の職員数名を加えたチームで、これからの数ヶ月に亘る土地買収や地元青年団の説得などに対応することになる。お偉い様方は、ゴルフや近隣の観光地めぐりで忙しいらしい。

「そういやあんた、買収手間取ってるジャガイモ畑の、買い付け担当なんだって?」
乾杯の直後、互いに自己紹介もしないうちにパクウィが不躾な質問を口にした。敵地でのこと、さすがの彼もかなり小声であったが、その一言はテヒの心の重さを一瞬で30%増量した。ところがテヒが返答に戸惑っている間に、ギョンジンがテーブルの下で彼の足を思い切り踏んだらしい。
「痛って、この、何しやがんだ! ギョンジン」
「あん? あたしが何か?」
「てめぇ・・・・・はーん、そうかいそうかい、分かったよ。お前の今度のお気に入りは、そこのテヒさんか」
蔑むようなパクウィの物言いに、彼女はしれっと答える。
「ぴんぽ~ん。パクウィさん、大正解です。おめでとうございま~す」
ギョンジンはわざとらしくパクウィの大きな右手を自分の両の手のひらで包み、ぶんぶんと強引な握手をした。
「足踏んだくらいでぎゃあぎゃあ大騒ぎする、タマのちっこい男は趣味じゃないの、私。テヒさんはね、横っ面ぶん殴っても許してくれるのよ。誰かさんと違って。器大きいわよね~」
「ぶ、ぶん殴ったあ~?」

Otubone 第二の女。テヒ、いつしか気付けば、可愛い・・・
驚きの声をシンクロさせてテヒの口角の青タンを覗き込んできたのは、出納課のお局様シニョンと、“端的に窓際”カン課長代理の2人だった。酸欠の金魚のように口をパクパクさせる2人と、いやあ殴られたというか当たっちゃったというか、などとこの場面でほとんど意味を成さない言い訳を呟くテヒを無視し、パクウィが恐ろしく機嫌の悪そうな視線をギョンジンに向けた。
「やっぱ足、踏んだんじゃねえかよ。しかも俺がいつぎゃあぎゃあ騒いだ?・・・・っつうか手ぇ離せっ、このテポドン女!」
(テ、テポドン女って、どんな女?)
まだ酔ってもいないテヒが恐ろしい妄想にぐるぐるしていると、「テヒさん」とパクウィの刺すような視線が向けられた。
「は、はいっ」 鼻からビールを出しそうになりながら、テヒは慌てて返事をする。
「あんた、悪いことは言わないから、この女だけはやめておけ」
「やめるって・・・?」
「相手にするなってことだ。こいつは、ほんっっっとに迷惑千万なヤツでな、あんたもさっきその片鱗を垣間見ただろうが、暴力が服着て歩いてるような女だ。あっちこっち手当たり次第惚れたハレたと大騒ぎしちゃあ、やれ死んでやるの殺してやるのって、どっかんどっかん・・・」
「そ、そうなんですか」
「ええ、そうなんです。残念ながら。だからこの女と深く関わるのはよした方がいい。こいつの入社以来8年間、ずっと一方的に面倒見てきた俺が保証する。何なら保証書も付ける。血統書もな、暴力犬の」
Madogiwakatyouお馴染み、窓際課長。実はサッカーヲタ。
その言葉が終わらないうちに「何いい加減なこと言っちゃってこの、おっさん!」と、横から飛んできたギョンジンの右ストレートを、パクウィが慣れた様子で難なくかわすと、カン課長代理から「ナイスプレー!」というワケのわからない声が掛かる。見れば彼のジョッキは既に空いている。テヒはカンのためにもう一杯同じものを注文してやると、振り返って静かに言った。
「パクウィさん・・・・自分の恋人のこと、そんなふうに言っちゃダメですよ」
するとその途端、
「誰がこいつの恋人だって?」
「何であたしがこんな男と!」
という台詞が、ステレオでテヒの両耳をつんざいた。見れば2人は互いの肩に手を掛けて睨み合い、臨戦態勢に突入している。止めようか・・・・いや、またぶん殴られるのは真っ平ご免だ、とりあえずビールいっとこ。テヒがぐいっと一息にジョッキを空けようとしたその時だった。
ピィィ~~~~~ッ! という、信じられない大音響のホイッスルが店内にこだました。瞬間、その場にいた全員がぎゃっと耳を塞いだ。信じられない展開に呆然とする一同を横目に、一人悦に入った表情で、胸のポケットから黄色いカードを取り出したのはカンだった。
「パクウィさん、一枚目ね。女性に暴力はいけません」
きょとんと、言葉を失ったパクウィに、カンは続ける。
「だから、イエローカードです。累積2枚で次の試合、出場停止ですから」
「・・・・・?」
状況を全く把握できずにいるパクウィとテヒを尻目に、カンの取り出したカードに速攻喰らいついたのはギョンジンと、そして何とシニョンだった。女という生き物は、咄嗟の場面での順応性が恐ろしく高いらしい。
「わあ~、カン代理、それってもしかして公式のカードセットじゃないですか?」
「え? シニョンさんご存じなんですか?」
「はい。実は私、サッカー、大好きなんですっ」
きっぱりとそう告白したシニョンの声に、ギョンジンの嬉しそうな声が被さった。
「あたしもあたしも~。3度の飯より大好きなのよ、サッカー。奇遇ね」
女性2人の会話に、カンも殊更嬉しそうに鼻の穴を広げた。
「そうですか、そうですか。皆さんお好きだと聞いて、私、安心しました。このモルテンの警告カードセット、通常価格11,030ウォンのところ、明洞スポーツの冬のセールで20%オフの8820ウォンでゲットしたんですよ。審判服も一緒に欲しかったんですけど、女房がウンと言わなくて・・・・残念でした」
「えー、それ酷いよね奥さん。審判服ってかっこいいのに、ねえ」
ねえ、と振られたシニョンはしかし、「いーえっ」と口元を引き締めた。
「何でもかんでも欲しいものを次々買うのはよくありませんっ。きちんと市場調査をした上で、最安値が出る時期と店名を正確に把握し、その上で初めて購入します。これは経費節減の常識です!」
「ほお~そんなもんですか」「へえ~、シニョンさん、何かカッコイイ」
ヘンな具合に納得しあう3人を呆然と見詰め、テヒとパクウィは、もはや自分たちがその話の輪に入っていけないであろうことを朧気に感じたのだった。

                    *

「審判服最高~」「経費節減ばんざ~い」「実は私は審判服フェチなんです」「やだ~カンさん、えっちっぽいわ~」「えっちにかんぱ~い」
と勝手に盛り上がる3人を放って、パクウィがさっき言いかけたことの続きを口にした。
「テヒさん、じゃがいも畑の土地買収、何とかなりそうなのか?」
「・・・・・あそこの土地には、何が建つんですか? ホテルですか?」
テヒは、曖昧に質問をはぐらかし、またビールを一口飲んだ。少しぬるく、少し苦い。
「ホテルと、スキー場は白菜畑の側だから・・・・確かあそこには『種芋作り体験館』と『じゃがいもタワー』が出来る予定だ」
「じゃ・・・た・・・」
テヒは、じゃがいもがゴツゴツと5~6個連串刺しになった形状の、思いっきりまんまのタワーしか想像できず、まさかとは思ったが半分冗談で想像した建物の外見をパクウィに告げた。すると彼からはあっさり「大体その通りのタワーだよ。企画書、もう見たのか? 早いな」というクソ真面目な返事が返ってくる。目眩がした。
(あの、神聖なるドジンのじゃがいも畑に、そんないかがわしげなタワーが建つなんて・・・・)
酔いが回って来たのか、はたまた運転の疲れが出たのか、テヒは軽い頭痛に見舞われた。
「あんたの知り合いの土地らしいな」
「知り合いっていうか・・・・・」
アルコールの勢いか、テヒは少し投げやりな口調で、紫煙とともに苦しい胸のうちを吐き出した。
「弟の土地なんだ」
「弟?」
「ああ。俺には血の繋がらない弟がいる。3歳で両親に死なれてウチの親に引き取られたんだ。それまであいつは、そのタワーの建設予定地でじゃがいも畑やってた両親と幸せに暮らしていた」
これから一緒にその土地の買収に奔走しようっていう仲間に、何言ってんだか、俺・・・テヒは自嘲めいた苦笑を禁じえなかった。それでも一度溢れ出してしまった愚痴は止まらない。

Yanmimi町の若者が飲みに行くといえば、唯一の居酒屋「ヤン・ミミ」のママ。へっへっへ。
「今日、ここに来るってことさえ、弟には話せなかったよ。俺、まだ今度の件であいつと何も話できてないんだ。こんなこと・・・あいつに何て話せばいいのか・・・・言い出せる自信なんか無いし、ましてや『土地売ってくれ』なんて口が裂けても言えない。あいつが、故郷や、じゃがいも畑をどんなに大事に思っているか、一番よく知ってるのは俺なんだ。それなのに・・・・」
「・・・・・・」
黙ってテヒの話に聞き入っていたパクウィはやがて「そっか」と、一言ぼそっと呟いき、「さて、今日はこの辺でお開きだ」と、勝手に第一回親睦会を締め括った。
店の奥のカウンターに肘をついて、終始年代物のテレビに見入っていた女性店主が、勘定を告げた。
「なんかちょっと騒いじゃって、申し訳ありませんでした」
にっこり明るく謝罪したギョンジンの顔を見るでもなく、無愛想な表情の店主は無言でテヒにつり銭を渡す。しかし特別怒っている様子でもない。
「時節柄、ちょっと位の騒ぎは許してやるよ。またおいで」
店主はそう言ってまたテレビの画面を黙って見つめた。折りしもその小さな四角の中では、FIFAワールドカップF組、ブラジル対日本の試合が始まったところだった・・・・

Otouto2_2 弟、なにか画策?
視察とも言えないような最初の視察からテヒが帰宅したのは、翌日の夜中だった。新鮮なじゃがいもをオンマに届けようと、直接実家に来た。帰りも結局3時間半運転をさせられて、へとへとになって玄関を開けた。
「おかえり、遅かったね」
暗がりから突然かけららた声に内心ぎょっとしたテヒは、声の主がドジンだと知って、更に心拍数が上がるのを感じた。
「た、ただ今。お前、まだ起きていたんだ?」
「・・・・うん」
「こんな時間に、めずらしいな」
「・・・・うん」
「もう寝ろ」
その、いつにない妙な雰囲気から逃れようと本能的に自室へ急いだテヒの背中に、ドジンの低い声が刺さった。
「アウラジはどうだった? 兄さん」
テヒの背中を、冷たいものが一筋流れた。
「・・・・ドジン・・・お前、何でそれを・・・」
薄暗がりの中、ドジンの瞳が今まで見たこともないような色で光っていた。
窓の外では、季節はずれの雷が鳴り響いている。

                                         (続く)

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2006年6月17日 (土)

『キムチ兄弟』 第2部 ~暗雲~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

Nukesaku9ぐうで殴られ、ほっぺ、ぷう。
テヒは、後部座席で不貞腐れたようにそっぽを向き合っている男女に、なるべく気を取られないように注意しながらハンドルを握っていた。気を取られないようにと精一杯頑張ってはいたが、それでも5分に一度は聞こえてくる、触るな変態、触ってネエだろがこのタコ、という会話はどうしたって聞こえてしまう。運転しながら両耳を塞ぐという行為は多分、アブナイ。
(・・・俺の存在も、少しは意識しろよな)
赤信号。ため息混じりにゆっくりとブレーキをかけ、斜め頭上の標識を見上げた。『江原道』と青地に白抜きででかでかと書かれたそれが、テヒの気分を一層憂鬱なものにした。
(あと2時間もかかるのか。何でこんなことになったのか・・・・って、だいたい俺、何で殴られなきゃいけなかったんだ?)
「だーから、触ってネエっつってんだろ、この自意識過剰女!」
「ふんっ、疑い掛けられたくなかったらあと100メートル離れな。万年欲求不満男が!」
この不毛な会話から、この後2時間以上解放されることはないと思うと、テヒの心はずるずると底なしに沈んでゆくのだった。本当に、何でこんなことに・・・・

Pakuui_1猟奇的な二人。(ワールド不動産社員。)
およそ1時間前、市庁舎裏手の職員専用駐車場で、テヒはこの二人の男女と待ち合わせをしていた。連休明けの月曜の朝っぱら、本意ではない仕事を共にするはめになった不動産会社の若手社員との待ち合わせ・・・・・・気持ちが軽かろうはずもなかった。もっと最悪なことには、暗雲立ち込めるテヒの心に更に追い討ちをかけたのが、他でもない、この二人なのである。
テヒが駐車場で待つこと20分、遅刻してきた挙句にその二人は、あろうことかいきなり痴話喧嘩を始めた。いや、いきなり、というのは違っているかもしれない。多分会社からS市役所に来る道々、すでに口論になっていたのだろう。
『大体お前が、そんなイケイケ丸出しな格好してるのが悪いんだ!』
『キャミソールのどこがイケイケなわけ? はんっ・・・オッサンはこれだからねぇ。やだやだ』
『誰がオッサンだって? 俺はまだ33だ。オッサンとか言われる歳じゃない!』
『ぼくちん、オッサンじゃないでーす、とか言った時点で既にオッサン当確なんだよ! この、エロオヤジ!』
『エロ・・・ギョンジン! てめえ、言わせておけばこのっ』
『お、やるってかい?』
犬も喰わない部類であろう諍いに、首など突っ込まなければよかったと後悔したのは数分後のことで、その時のテヒは、目の前で争う若い男女を諌めようという一心で仲裁に入ってしまった。ギョンジンと呼ばれた、そのやたらヒョロヒョロと背の高い女に“ぐう”でぶっ飛ばされるとも知らずに・・・・・。

Onnma2市役所のオンマ。オンマといえば、やっぱこの人。
「テヒさ~ん、まだ痛みますかぁ?」
隣で腕組みをしている男に掛けるのとは明らかに違う、甘いトーンの声色でもって、ギョンジンが後部座席から身を乗り出してきた。頬がくっ付きそうになる。
「え、あ、だ、大丈夫です。もう痛くないですから。あんまり気にしないで下さい」
「本当にごめんなさいね。コイツがあんまり変態だから、ちょっと一発ぶん殴ろうとしただけだったのに、あなたが横から急に出てきて・・・・」
「いいんです。もう、心配しないで下さい」
「運転、疲れたらいつでも言って下さいね。コイツに代わらせますから」
コイツよばわりされた男が、チッと小さく舌打ちをする。
「ええ・・・でも、大丈夫です。お気遣いなく」
テヒは、1時間経ってもまだジンジンと疼く口角の傷の痛みを彼女に悟られないようにと、にっこりと、しかしかなり引き攣った笑顔を浮かべた。ちらりとルームミラーを見やると、むっつりと押し黙った男パクウィが、車窓を飛んでゆく景色を不機嫌丸出しで見詰めている。
(これからしばらく、こいつらと一緒に仕事するのか。あーあ・・・)
俺は前世で何か悪行でも積んだのだろうか。テヒは仕事が本格化する前に、すでに投げやりな気分になる自分をどうすることも出来ずにいた。
後ろの二人、パクウィとヨ・ギョンジンは、国内最大手の不動産会社の社員である。これから先、半年以上に亘ってテヒと行動を共にする仲間となる人間なのだ。それが、会うなり痴話喧嘩に巻き込まれて、いきなり拳骨でぶん殴られるとは。しかも女のギョンジンに。
テヒは、内臓まで出てきてしまいそうなほどの、深~~いため息をついた。

                                                             *

Nekokatyou_1猫課長、私服はTシャツ、似合わない。^^;;
それはちょうど1週間前、ドジンとおでん屋“ひがし”で食事をした3日後のことだった。翌日から連休に入るということもあって、S市役所戸籍住民課住所変更・国保・年金届出窓口はいつになく混雑を極めていた。大抵の職場がそうであるように、ここS市役所も、忙しい時に限っていろいろな人がやってくる。
「ネズミ駆除の件ですと、ここではなくて環境衛生課になりますね。えーっと、4階の35番窓口です。そこで相談にのってもらえると思います」
「あんまりひどいから引越しも考えてるんですけど・・・住所変更窓口じゃだめなんですか?」
「申し訳ございません。もしもお引越しがお決まりになられましたら、その時は再度こちらにいらっして下さい」
「そうなんですか。わかりました。あ、ダニとかハチとかも、その環境ナントカ課でいいんですよね?」
「はい、大丈夫です」
「カラスの死骸なんかも?」
「え? カラスの死骸ですか? ええっと、それは・・・少々お待ちいただけますか」
そんな類のやりとりが、朝から何件か続いていた。今日は昼休みも取れないかもしれない。テヒの脳裏にそんな諦めが過った時だった。
「パク・テヒ君、ちょっと」
戸籍住民課・イ課長の濁声が、フロアの一番奥から飛んできた。この男は、呼びつけた人間が15秒以内に自分の処に来ないと途端に不機嫌になる。呼びつけた相手がその時どんなに忙しかろうと、お構いもなにもあったもんじゃない。テヒは呼ばれるままにダッシュで駆けつる途中、デスクの角に脛を打ち付けてしまう。
「あいでででで・・・・課長、何か」
「君ね、今から昼飯、一緒に行きますから。いいですね?」
「はっ?」
「昼飯ですよ。昼食。ランチ。すぐに出ますから、用意して」
「え? あ、あの、でも私は今、カラスの死骸・・・・」
「カラスの死骸が何なんですかっ。そんなことより100万倍重要な話があるんです。とっとと用意してらっしゃい!」
課長は泡唾飛ばしてそう叫ぶと、ミャーと毛を逆立てた。基本的に素直で従順な犬型人間のテヒは、典型的な猫型人間であるところの課長がどうも苦手である。突然呼びつけられるのは、大抵何か面倒なことを言いつけられる時だ。
(何か、や~な予感)
テヒはぶつけた脛を擦りながら、スタスタ先を歩く猫課長を後ろから追った。

Omoni お友達と出かけたテーマパークでコスプレ、スキャンダルごっこでご満悦のオンマ(笑)
市庁舎最上階の食堂で聞かされた話は、テヒの想像を絶するほど、全くもって実にとんでもないものだった。異動の話だったのだ。しかも出向だという。絵に描いたような晴天の霹靂に、テヒは呆気に取られて固まるしかなかった。
「なぁにね、別にたいした仕事じゃないですからそう驚かないで下さい、パク・テヒ君」
課長はそう言って今度は、ゴロニャンと喉を鳴らした。
江原道チョンソン郡に“チョンソンじゃがいも村”という巨大施設を作る計画が持ち上がっているという。㈱チョンソン・ふるさと開発センター。それがテヒの出向先の会社だ。いわゆる第三セクターというやつで、実際のあれこれは主に大手不動産会社、ワールド不動産の観光開発部門が行う。S市にはワールド不動産と一緒に、これまで数件の似たような事業を成功させてきた実績があった。
『成功のノウハウを、是非伝授願いたい』
S市と違い、これといった観光の目玉も地域の特色もないチョンソン郡アウラジの町長が、この事業の成功ためにS市の職員を何人か派遣して欲しいと懇願してきたのだという。任命された3人の中にテヒの名前があったのだ。
「でも・・・・ですね、どうして私なのでしょうか。適任な方が他にたくさんいらっしゃるでしょう。第一私は・・・」
「知っています。君は戸籍住民課住所変更・国保・年金届出窓口以外の仕事をしたことがない」
「おっしゃる通りです。ですから、そんな私がどうして急に・・・」
「理由など必要ありません。これはもう決まったことなのです。しかもS市長じきじきのご判断だそうです」
「し、市長? じきじき? ど、ど、どうしてそんな」
テヒはぐるぐると混乱した。ワケが分からない。イミが分からない。住所変更届の必要記載事項なら何度でも暗唱できる自信はあるが、なぜ自分が今頃急に観光開発なのだ? 何故市長が自分を?
「チョンソンです」
すっかり視線の定まらなくなったテヒに向かい、課長は、石焼ビビンバをぐちゃぐちゃかき回しながら呟いた。
「え?」
「チョンソン郡アウラジ。知らない町じゃないでしょう? パク・テヒ君」
「アウ、ラジ? ・・・・・・あっ」
大きな瞳を更に大きく見開いたテヒに、課長は意味ありげな笑いを浮かべた。
「つまり、そういうことです。まあ事業成功のために役に立てるよう、しっかり頑張って下さい。ほらほら、そんなに目ぇ見開いたらあなた、ジャージャー麺の中に目の玉が落っこちますよ。タダでさえ伊達に他人より目が大きいんですからね、ひゃっひゃっ、ニャ~~ゴ」
猫課長の高笑いも、もはやテヒの耳には届いてはいなかった。
(ドジン・・・・・)
何か大変なことに巻き込まれつつあることだけは、朧気に理解できた。
チョンソン郡アウラジ・・・・・そこは、自分の命より大切な弟ドジンの生まれ故郷であり、おまけに施設の建設予定地は、ドジンが幼い頃両親と共にたった3年の間ではあったが幸せに暮らしていた、正にその土地だったのだ。

                  *

Otouto3 弟、いつも若作り。
それからの1週間というもの、テヒは突然の異動のためのあれこれで、てんやわんやの大忙しだった。

『チョンソンじゃがいも村は、それこそ山ひとつ分に亘る大型リゾート施設になる予定なんですが、肝心要の土地の買収がまだ半分しか済んでいないのです。白菜畑もカエルだらけの沼も、全て買い取ったんですが、施設の半分にも及ぶ広大なじゃがいも畑の地主だけが、どうしても首を縦に振らないんだそうです。あなたには早速連休明けから、ワールド不動産の観光開発部門の若い人たちと一緒に現地視察に向かって頂く予定だそうですから、送別会も間に合わなくて申し訳ないですねえ。あ、それから視察の前に、できれば現在S市内で暮らしているじゃがいも畑の土地の名義人に、話をつけてもらいたいそうですよ。私の言っているイミ、分かりますにゃ? パク・テヒ君』

猫課長の言葉をそのままドジンに伝えることなどとてもできない。いくら自分はドジンにとってたった一人の兄貴であるとはいえ、こんな立場に立ってしまった以上、何を聞いたところであいつは素直になど答えはしない。ドジンの頑迷な性格を誰よりも知っているテヒはそう思った。
けれど何より不可解なのは、両親の遺した大切なじゃがいも畑の上にそんなヘンテコな施設が建とうとしているのに、何故ドジンが自分に一言の相談もしてくれなかったのか、ということだ。S市でサラリーマンをしているドジンは、もう何年もチョンソンには帰っていないはずだ。今は遠縁の親戚に畑を貸しているのだと、確か以前そんなことを言っていた。そして退職するくらいの年齢になったら、チョンソンに戻ってジャガイモ畑を耕して暮らしていきたい・・・・そんなことも言っていた。冗談交じりに、兄さんも一緒に来る?とも。
ドジンにとってあそこは、ただの所有地ではない。両親と暮らした3年間の思い出が凝縮された大切な土地なのだ。
その思い出が今、巨大リゾート施設の下敷きになろうとしている。
猫課長の話からすると、この計画は少なくとも3ヵ月前には形になっていたはずだ。土地売却の話が最初にドジンに行ったのも、多分その頃だったろう。こんな開発の一端を担うような立場に立たされる前に、もしドジンが自分に相談くれていたら・・・・。そう思ってしまう。

Nukesaku5_1抜け作、ちょっとアンニュイ
どうして? どうしてドジンは自分に相談してくれなかったのだろう?  
頼りになる兄貴のつもりでいたのは、自分の思い上がりだったのだろうか?
ふと、ドジンがまだ中学生だった頃の会話を思い出した。
『俺が貰われたのはさ、兄さんが一人っ子だと淋しいだろうと思ったからだって、母さんが。だから、俺は兄さんのおまけ』
『何言ってるんだよ、ドジン、俺がたまたま先に貰われて年が上ってだけじゃないか』
『・・・・いいな、兄さんは・・・・』
不意にぽつり言ったドジンの、茶色の瞳が少しだけ、潤んだように見えた。唇を尖らせて、所在無さそうに俯いた横顔を見て、いじらしさが込み上げた。
そうなのだ、ドジンには「瞼の母」も「瞼の父」も現れる事は、永遠にないのだ。彼の両親は、まだ小さかったドジンを残して事故で二人とも亡くなったのだという。
なんだかんだ言いながら、実の子以上に慈しんで育ててくれた母。その母の漬けた、既製品でないキムチを食べさせて貰って、こんな可愛い弟と一緒に育ってきた、もうそれだけでいい。余計なことは考えるまい・・・怖いのは、この幸せが壊れる事だけだった。なのに・・・
(何でまた、こんな皮肉な仕事を)
テヒの心は俄かに不安ではち切れそうになる。そして結局、チョンソンの土地の話など、ドジンに一言も話せないまま連休は明け、視察の日になってしまったのだった。

「あのぉ、お二人とも、着きましたよ。起きてください」
たっぷり3時間半に及んだドライブの後半は、思いがけずとても静かで助かった。口喧嘩のネタも尽きたとみえて、パクウィもギョンジンもぐっずり眠ってしまっていたからだ。互いに凭れかかるようにして爆睡している二人に、テヒはとりあえず声を掛けてみたが、よほど眠いのか疲れているのか死んでいるのか、起きる気配は全くない。
“先にひとりで、少しこの辺りを散策してみます。目が覚めたらここに連絡下さい”
自分の携帯番号をメモしたポストイットをハンドルに貼り付け、テヒはそっと車を後にした。

                  *

目的地アウラジまで数キロを残したチョンソンの町。最初の視察地である。毎月“2”と“7”の付く日、この町では五日市が開かれる。最近は片田舎の小さな市場でも、都会の常設市場のような雰囲気に変わってしまったところも多いのだが、ここは昔ながらの姿が色濃く残っていた。春野菜のナムルを小分けして路面に並べて売るおばあさんの姿には、都会育ちのテヒでさえ何か郷愁めいたものを感じてしまう。優しい町。そんな気がした。
そちこちで、お茶代わりにとマッコリをと勧められたが、丁重に断った。今日はこれからまた少し運転をしなければならないし、第一仕事中だ。しかし、そんなことすらも一瞬忘れてしまいそうになるほどのどかな風景の、テヒは一人、堪能しながら歩いた。
(こんなところに観光施設をねえ・・・)
建設予定地のアウラジは、ここから更に数キロ先の、かつての炭鉱の町だ。何年も前に廃坑になってからはあちこちに当時の面影だけを残し、今はひっそりとじゃがいもや白菜の収穫だけで暮らしを立てている家がほとんどらしい。
ドジンは、ほんのたまにだが、ふと思い出したように故郷の町の様子を語った。とはいえ彼も3歳までしかここにはいなかったはず。両親の死後すぐに遠くS市の教会に引き取られ、それから半年もしないうちに今の両親の元、つまりはテヒの元へやって来た。3歳の子供の記憶など、この上もなく頼りなく儚いことをテヒは知っている。時として想像や空想も混ざっていただろう。しかしドジンがこの町のことを語る時、テヒはいつも勉強の手を休め、熱心に彼の話に聞き入った。自分には本当の両親の記憶など何一つ無い。そのことを殊更悲しいとか辛いとか感じたことはなかったが、それでも“生みの親”というものがどんなものなのか、人知れず興味はあった。
ドジンの話に出てきたいろいろを思い出しながら、いつしかテヒは市場の外れまで来ていた。

Tehoテホ。共演たら、この人よね。
「おい、落としたぞ、これ」
背後からの突然の声に、はっとして振り返る。そこには、どうやらテヒの手にしていた企画書の入った封筒から一枚抜け落ちたらしいコピー用紙をヒラヒラさせた、ガタイのいい男が立っていた。特徴のあるキツイ目つきには、どこか見覚えがあったがすぐには思い出せない。
「す、すみません。ありがとうございます。ぼんやり歩いていて落としてしまったみたいで」
テヒは、男の手から紙を受け取ろうと手を伸ばした。ところが、男は「おっと待った」と、その紙をテヒに返すことを拒んだ。
「あ、ちょ、ちょっと。それ、返して下さい。大事な書類なんです」
「その大事な書類落としたのは、そっちだろ」
うっ、と返答につまったテヒに背を向けると、男はあろうことか声を上げて書類の内容を読み上げ始めた。
「なになにぃ・・・・じゃがいもバーガー、じゃがいもピザ、じゃがいもワイン、じゃがいもゼリーって・・・・何じゃこりゃ?」
「かっ、返して下さい! 大事な物だって言ったでしょ。部外者に見られたら困るんです」
「だったら落とすなよな・・・・って、しかしあんたこの、じゃがいもコロッケって何? コロッケは普通じゃがいもだろ、世間一般、常識に鑑みて」
「・・・・・」
「あんたも、ここにじゃがいもランドとかいう妙ちくりんな施設ぶっ建てようとしてる連中の仲間だな?」
「違います」
「違わねえだろ全然。この企画書にもほれ、“チョンソンの地場産品を活用した新製品について”っとあるぞ」
「違います」
「しらばっくれやがって、この野郎」
「じゃ、じゃがいもランドじゃなくて、じゃがいも村です・・・」
「・・・・・・」
男はしばらく黙り込んだ後、ぶぶっと噴き出した。
「相変わらずの天然ボケぶりだな、パク・テヒ」
「え?」
「ああ、そっか。そうだよな。そっちは俺のことなんか覚えていないかもな。でも俺は覚えてるぜ、あんたのプレー。高校生とは思えないジャンプ力と速さ・・・・」
ジャンプ力? 速さ? バスケ・・・・高校時代・・・・S市トレーニング選抜・・・・
「あ、カン・テホ! テホだろ?」
「思い出したか、パク・テヒ。何と16年ぶりだ」
「ああ、懐かしいなあ。こんなところで会えるなんて・・・・」
と言いかかって、テヒはハッと口を噤んだ。16年前の思い出が、蘇ってきたからだ。

                                         (続く)

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2006年6月16日 (金)

こんな本を読んだ・・・「韓国徴兵、オレの912日」

【Written by miyuki】

Bini4除隊の日(6月7日)のビニ。線が2本は「一兵」(一等兵)この袖のたくし上げ方も解説してあった。
「笑っちゃいけない、爆笑ノンフィクション」そう帯にはあったが、いやはや、ほんとに場面によっては死ぬほど、笑かしていただきました。なんとも申し訳ない。
隣の国には、兵役がある。そのことには深い深い意味がある。男と生まれて、特別な理由がないかぎり、誰もがあたら若い2年の日々を、軍隊で、軍人として、過ごさねばならない。
どんなところで、どんなふうに食べて寝て、日々の訓練や、一義務兵(一般から2年徴兵される軍人さんは、義務兵と言うんだそうだ。)の生活は営まれているのだろう。そんな漠然とした素朴な疑問に、とりあえずかなりの部分を答えて貰った気分である。

現在日本でカメラマンとして仕事をしておられるチュ・チュンヨンさんが兵役に就いていた期間の出来事が、新兵さんから除隊まで順を追って綴られている。じつに痒い所に手の届く細かいイラストによる軍装や、武器、兵舎その他、配給の煙草や、売店で売っているチョコパイ、袋ラーメンにまで至る解説たち。これを見たら、ソウルの街で出会う休暇中の軍人さんに思わず親しみを持つこと請け合いだっ!・・・てか?(笑)

そもそも、戦争映画には、大きな声では言えないが、古今東西そこはかとなくホモセクシャルの気配が漂っているものである。極限に於ける友情も、人間らしい感情のやりとりも、これ全て「男の世界」。実際どうなのさ?と思ったら・・・・
罵り言葉にも、駆け足用の軍歌の歌詞にも、雪の野営訓練で目刺しのようにくっついて寝ている後ろの野郎の不審な下半身にも、どこにもここにも、笑いと共に、思い切り、漂っちゃっているみたいなのである。ほえええ~~~っ。(誰です?喜んでるの。エ?アタシだけっすか?)

「社会の臭い」から遠避けられて、著者の言葉を借りれば「単細胞」と化した野郎どもの、可笑しくも哀しい言動に笑いながらも、いつしか読者は考えさせられる。何故、軍隊?と。

Bini5 こちらは、4日、国軍病院に入るビニ。袖のワッペンは「七星(チルソン)部隊」のものか?
「笑いのツボ」描写
※フルチンで検査
※オレにも食わせろ!
※赤チン万能主義
※看護婦はもちろん女軍である
※社会の臭いが・・・・
※ヘビ食うと、すごいっすよ、次の日
※末っ子が訓練に・・・・(以上、見出しより。)
意識朦朧で歩き続ける行軍訓練で見たという、土饅頭の上に座った白いお婆さんの幽霊や、夏の夕方出くわした、事故死した新兵の幽霊の話が印象的である。そして、イジメに遭った挙句、とうとう事件を起こしてしまったIくんの事など・・・。

“一度行ってみるのはいいかもしれない。でも二度と行くのはゴメンだ。それが軍隊である。”
この本はそう結ばれている。

※軍隊用語も興味深かったデス。「台風」の中で白い軍服のカン・セジョンが「・・ショ!」と言われて休めの姿勢をとっていたけれども、この「ショ」も出てきたし。
社会に戻ってからもしばらく、名残を引き摺ってしまうとのことだが、
「オンマ!腹がへったのでありますが!」
「オマエ、うるさいからもっと静かに話なさい。」
これにも大いに笑った。

これまで出会った何人かの韓国の青年、可愛い顔をして穏やかに笑っていても、ナンか
違うよな、と、一介の日本人のおばちゃんにも確かに感じ取れた、“軍隊経験者”の持つ共通の空気。これもまた、今の日本には無いものである。「何故軍隊?」の中味を考えると、一概には羨むことは出来ないのだけれども。

韓国徴兵、オレの912日 Book 韓国徴兵、オレの912日

著者:チュ チュンヨン
販売元:講談社
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2006年6月13日 (火)

『キムチ兄弟』 第1部 ~安寧~

※このレビューは、管理人及びここへおいで頂いているお客様の「妄想」によってのみ、成り立っております。登場人物と、実際の俳優さん方とは一切関係ございません。

Nukesaku1_1たまには旅行にでも行きたいなあ、とか思っている“抜け作”ことパク・テヒさん。34歳。独身。
「ちょっとパクさ~ん、また真っ白のファックスきたって、あちこちの支所から電話来てますけどぉ!」
「えっ?」
折りしも、覚えたてのWordでもって均等割り付けを10回続けてしくじったところだった。フロアの端のファックス機の前で、仁王立ちの女性職員が腰に両手を当てている。必要以上に甲高く通る声が、まるで不意打ちのデッドボールみたい側頭部を直撃し、パク・テヒは思わずうげっと顔を上げた。どうやらまたやってしまったらしい。
「もう、送る時の裏と表、いい加減覚えて下さいねぇ」
そこに居る皆に聞こえるような、わざとらしいほどの明るい大声。テヒはあたふたと立ち上がってひたすら頭を掻き、謝罪する。
「あ、ああっ、はい。ごめんなさい。気をつけていたつもりだったんだけど・・・・・すみません、次は注意します」
クスッと失笑したのは、向かい側の席の後輩だ。ブラインドタッチの指を休めることなく、片側だけの口角を上げて零すその嘲りは、毎度のこととはいえあまり気分のいいものではない。はあぁ・・・・と、鼻と口から同時に抜けるような溜息をついて、もう一度座り直そうとすれば、机の隅のコーヒーカップを盛大にひっくり返し、間もなく提出しなければならない書類を茶色にしとど濡らしてしまう。
(あぁぁ・・・・・もお。今日は何だか、一段とついてないみたい)
情けなさとやりきれなさがどっと押し寄せる。幼い頃、夕方になると理由もなくぐずぐずと泣きたくなったあの切なさが、じわりと胸に蘇る。

「ああ、ああ、またやっちゃったのかい。どきな。そんなので拭いてたら明日までかかっちまうよ」
藪から棒に頭上から降ってきた声にハッとしたのは、ズボンのポケットから取り出したハンカチで零したコーヒーを拭こうとしたその時だった。
「あっ・・・・」
「いいからあんたは、あっちで書類乾かしてきな。少し濃さ落としてコピー取ればこのくらいの染みはうつらないから。ここはあたしが拭いといてやるよ」
「あの・・・・」
「突っ立ってないで、早く行きな」
「あ、はい、ありがとう・・・ございます」

Nukesaku2_1ミスしてちょっとブルーな抜け作
テヒは、自分がドジを踏む度にいつもいつも疾風のように現れて助けてくれる口の悪いこの掃除のおばちゃんを、ひとり密かに“市役所のオンマ”と呼んで慕っていた。重い資料がぎゅーぎゅーに詰まったキャビネの引き出しを一度に全部開けてしまい、倒れてきたキャビネの下敷きになりそうになった時も、真っ先に飛んできてくれたのはおばちゃんだった。コピー機が使いこなせなくて、9枚でいいのに99枚と押してしまい、おろおろしていたのを助けてくれたのもおばちゃんだった。
どうしておばちゃんがこんなに自分を気にかけてくれているのかは、全くもって分からない。
同情? ・・・・なのかもしれないと思う。多分。確かにテヒの事務適応能力のなさときたら、自分自身で辟易してしまうほどだ。おばちゃんくらいの年齢の女性が傍で見ていたら、きっと情けなくて放っておけないに違いない。
大体“テヒ”なんて名前がいけない。「テヒ」と発音するたび、舌と上顎の隙間をゆるゆると力なく空気が抜けてゆく。
(ホント、しまらない名前・・・)
いっそ、“ドンス”とかいうドスのきいた名前か、でなければ“ヒョンチョル”なんていうキザっぽい名前だったらよかったのにと思うに至って、またため息が出る。
(なんか、ため息みたいな名前だな、テヒって)
けれど、こんな色の無い無機質な市役所の庁舎内で、掃除のおばちゃんの顔を見つけると、つい表情が綻んでしまう自分がいる。
「市役所のオンマ」
テヒは、コピー機の“薄め”ボタンを探しながら、そう小さく呟いてみた。
 
                       *

掃除のおばちゃんは、34年前に初恋の人との間にできた男の子を、産んですぐ手放したことをず~っと悔やんでいた。やけに目鼻だちのはっきりしたその子の面影は、一日たりとも忘れたことはなかった。何度か手がかりを求め、探したが要として行方は知れなかった。
(あんよがO脚だったっけなぁ・・・・真っ直ぐに大きくなっただろうか!?)
目の前でコピー機相手に悪戦苦闘している公益勤務の男こそが、捜し求めている息子だとは知る由もなかった・・・・・・
ぎくしゃくと妙にカエルっぽいその脚の隙間からは、積み上げられたA4の用紙がすっかり覗けるというのに。
何も知らない掃除のおばちゃん。あの人は、あたしの漬けたキムチを褒めてくれたっけ。あしたあのぼけちん男にも、キムチ持ってきてやろうかね。何時になくよく漬いたんだよ。そんなことを考えているおばちゃんなのであった。

「ましっそよ~~! ちょんまる、ましった!」
満面の笑みで、ご飯にのせたキムチを大口で頬張るその男の食いっぷりは、いっそ潔いまでに見事だ。
昼下がりの屋上。いつも食堂でジャージャー麺ばかり食べているぼけちん男を、「お天気もいいし、たまには屋上で食べないかい」と誘うと、大きなワンコのように見えない尻尾をぶんぶん振ってついてきた。
(やっぱり持ってきてよかったわ、キムチ)
おばちゃんは、彼のあまりにも素直で単純な歓喜に、何年もの間忘れていた“喜んでもらえる喜び”が胸いっぱいに広がるのを感じる。
「まだたくさんあるから、良かったら持って行きな」
「ちょんまる? やあ、かむさはむにだ~」
一人暮らしだから本当に嬉しい。いつか何か御礼をさせて下さいと真摯に訴える瞳に、おばちゃんは「ねー」と微笑みながら、しかし同時に、胸の奥深くチクリと疼く何かに気づく。
『君のキムチを食べたら、他のは食べられないね』
もう、とうの昔に忘れたはずの言葉が、鮮やかな色合で脳裏に蘇る・・・・

Nukesaku3抜け作、上司とゴルフ。
あの男性とは決して遊びなんかじゃなかった。
愛して愛して・・・・愛しぬいた。俺たち結婚するにはまだ若すぎるから、互いの両親に交際を報告するのはもう少し後にしようね。そう言って笑った彼の笑顔を信じていた。数日後、彼が事故であっけなくこの世を去ってしまうことを知っていたなら、もっと早く両親に告げたものを・・・・・そうすれば少なくとも、その時人知れずお腹にいたあの子を手放したりせずに済んだはずだ。
『教会に預けてきた。あの男のことも赤ん坊のことも、全部忘れなさい』
一切の反論を許さない父親の威厳を前に、10代の少女は、ただなす術なく泣き崩れるしかなかった。

「オレ、今までオンマの漬けたキムチが一等美味いと思ってたんだけど、アジュンマのキムチも美味しいねぇ」
「そうかい? オモニのこと大事にしてるかい?」
「大事にしているよ。実は本当の親じゃないんだ。前に喧嘩して刺されたことあって、輸血が必要だってときに、親と血液型が違うことがわかったんだ。本当のオモニに会ってみたいなァ」
「見た目よりやんちゃな子なんだね。親に心配かけるんじゃないよ。今のオモニを本当の親だと思って孝行しなされや」
「うん、このコピーが終わったら弟のお見舞いにいくつもりさ。怪我して除隊して、ついそこの姉ちゃんがやってるおでん屋にいるんだ。アジュンマのキムチ持っていってやるよ」
「あぁ、やさしい子だねぇ」
(でも、ソート機能があるのにいちいち手作業でソートしている、あんたがうちの息子だったらいらいらするよ・・。)
そっちのチヂミも食べていいですか、と箸を伸ばす男の屈託の無い横顔に、ひとり突っ込みを入れるおばちゃんであった。

テヒは思う。たしか教会の前に、そっと置かれていたというシスターの話を、オンマが正直に教えてくれたっけ。弟もそうだ。
オンマはサバケた人で、
「あたしがあんたたちを引き取ったのは、顔がとびきり可愛かったからさあ。あはは。男は顔だねえ。でも、二人とも性格も良く育ってくれて嬉しいよ。」
と笑う。
そんなの冗談なのはわかってるさ、と、いちいち一枚づつ並べて、あとは綴じるばかりになった書類を見ながら、テヒはふと微笑んだ。
「キムチ兄弟」
そう自ら呼びたいほどキムチが大好きな弟と俺。オンマのも美味しいが、あのアジュンマのはまた絶品だった。気になる・・・・

                    *

Otouto抜け作弟。時節柄、こんな格好。サッカー大好き。
「でね、彼女最後にこう言ったんだ、『あんた、あたしの初恋の人に似てるんだよ! ま、あの人の方がしっかり者だったけどさ・・・・』って」
「その、“市役所のオンマ”が?」
「うん・・・・・そりゃもう、もの凄~く似てるんだってさ。ねえ、ドジンはどう思う?」
「どうって、何が?」
「えっ、ああ、いや別に。何でも・・・・・・ない」
テヒは俯いて、静かに頭を振った。
「ヘンな兄さん」
その夜、おでん屋“ひがし”で肩を並べた血の繋がらない弟は、兄の意図するところの憶測には全く気づかぬ様子でおばちゃんのキムチをつつく。
「うーんっ、確かにコレ、美味しいねえ。オンマのキムチの次に美味しい」
ドジンはそう言って、んふっと笑った。そんな時の彼は、10代の少年のようだとテヒは思う。足の怪我を隠して入隊し、あまつさえ最前線での勤務を希望し、先日とうとうにっちもさっちも行かなくなって除隊を余儀なくされたこの弟は、幼い頃から頑固で泣き虫で、自分以外の人間にはなかなか心を開かない。こんな大人になった今でも、自分の顔さえ見れば「兄さん、兄さん」仔犬のようにじゃれ付いてくる。テヒも、そんな彼が可愛くて堪らないのだった。
少し飲み足りなそうな兄のために、もう一本チャミスルを注文した直後、コーラを一口飲んだ下戸の弟はあっさりと言った。
「まあ、兄さんが調べたいなら、調べてみればいいよ」
「え?」
「“市役所のオンマ”のこと。本当は気になるんだろ?」
「・・・・・」
なんだよ、気づいているなら『何が?』とか言うなよな、と一瞬思ったが、瞼の母を心に隠し持っていた事実を弟に知られてしまった恥かしさが先に立つ。
「いいんだ、別に。そんな偶然、絶対にあり得ないもん」
「あり得ないって、ちゃんと調べもしないで、どうしてさっさと決め付けんのさ?」
「だってお前、調べるったって」
「方法ならいくらでもあるじゃん」
「そうじゃなくて」
「何?」
「・・・・・いいんだ。とにかく、もういいんだ。この話、終わり」
ドジンに、というよりも自分に対してそう言うと、鹿爪顔が遠慮なく覗き込んでくる。
「兄さんも案外、素直じゃないねえ」
「ん? お前にだけはそれ、言われたくないんですけど」
「ふん。あっそ。んじゃ好きにすれば?」
「いいんだったら、いいの。もう、放っとけ」
「はいはい、放っておきますよ。ちぇ、ヘンな兄さん」
人を何べんもヘン、ヘン言うな。テヒはドジンのおでこを指で突いた。
知りたくないわけじゃない。気にならないわけもない。掃除のおばちゃんが自分の本当のオンマだったらどんなに嬉しいことか。素性など調べればすぐに分かることだ。そんなこと分かっている。けど・・・・
なぜかテヒは、そうしたくはなかった。正直、積極的に生みの親を探そうという気持ちにはなれなかった。
Brother「キムチ兄弟」前世。
(怖い・・・・のかもしれないな)
素直にそう認めて自嘲する。本音を言ったら、今、横で欠伸をしている弟は笑うだろうか。それともしっかりしろよと怒るだろうか。豪放磊落な母に、何不自由なく育ててもらった自分とドジン。本当の兄弟以上に互いを思いやることができるのも、母のお陰以外の何物でもない。温かい家庭、家族の笑い声、そして自分の命より大切な、可愛い弟。
(これ以上、何かを求めてはバチが当たる)
そう思った。今のままでいい。これ以上何も欲しいものなどない。
しかしテヒは知らない。この34年間、一度も手に抱くことのなかった我が子の姿を、ひたすら探し求めている女性がいることを。そして彼女が、毎年息子の誕生日に、たった一人でケーキを買い、歳の数だけ蝋燭を立ていることを。きっとどこかで幸せに暮らしているに違いない息子を思い、「おめでとう」と涙していることを・・・・・

「ねえ兄さん、俺らって、本当にキムチ好きだよね」
「うん。やっぱほら、『キムチ兄弟』だからな」
「あはは! 『キムチ兄弟』、言えてる言えてる」
「今度の週末さあ、久しぶりにオンマのところに帰るよ。お前も帰ってきたことだし」
「うん。久しぶりにオンマの手料理で乾杯しよう」
「ああ・・・・っつうかお前は未だコーラで乾杯か? おこちゃまよ」
からかう様に笑うとドジンはブーッと膨れ、飲めないものは仕方ないだろ、と拗ねてみせた。
(幸せだな)
不意にそう感じた。そしてその幸せが、これからもずっと続いてゆくのだと、意味もなく信じた。
足元から音もなく忍び寄ってくる暗い影に・・・・・その時のテヒは、まだ気づかずにいる

                                               (続く)

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2006年6月12日 (月)

愛が余ってそれっぱなし・・・最近見た映画の話

【Written by miyuki】

※「Happy Together」は全てのレビューにおいてネタバレに配慮しておりません。作品を未見の方で、内容を知りたくない方は充分にご注意下さいますようお願い申し上げます。(管理人)

「デュエリスト」をフランスで公開したと朝鮮日報で読んだが、さてどういう評価だったろう。ちょっとだけ、気になっている。ああいう美しい絵の映画、フランス人なら気にいるかもしれないもんで。
この映画を見たのはかれこれもう一ヶ月前の話だ。ひとつレビューを立てようとして、どうにも纏まらなかったんである。なぢぇなんだあ???
主演はカン・ドンウォンと、ハ・ジウォン。同じジウォンが出ていたTVドラマ「茶母」(日本題は「チェオクの剣」)とは原作が同じだが、中味は全く違う。ちなみに原作は「茶母ナムスン」という人気コミックらしい。

「チェオクの剣」の最初の方で、捕盗庁(ポドチョン)の茶母・・・タモ(女刑事)とは何ぞや、という描写があったように記憶しているが、身分が低いわりに、ホトケさんの死因に関わる知識などがあったりと、ちょっとチャングムの医女とも通じる、朝鮮王朝時代の女性の興味深い職業である。

Duelist「デュエリスト」フランス版ポスター

監督は、ビジュアルスタイリストとも表されるイ・ミョンセ。ドンゴンファンにはあの「情け容赦なし」を撮った監督さんといえばわかりやすいかも。ノーウエアの強力班ならぬ、刑事さんたちのチームが捕盗庁にもあって、ノーウエアでは一人美形だったキム刑事(JDG)の位置がまあ、ジウォンちゃんの演じる女刑事ナムスンだろうか。男勝りの武術、きちんと盛装すれば美人、たまにはおきゃんな酒売り娘に化けて、市場で潜入捜査しているのは、大量に出回る偽金とそれにかかわる陰謀・・・・パク・チュンフンが演じていたウ刑事のようなリーダーが、今回はアン・ソンギ先生なのだが、先生の「飴売り」の口上がまた一見の価値アリ。先生相変わらず身のこなしもすばらしく、ますますお元気で何よりですだ。
偽金作りの黒幕ソン長官に育てられた刺客「悲しい目」これがドンウォンくんである。長官が、手にした人間が皆死ぬと言う日本の剣を愛でながら「夏草や・・・」と日本語でいきなり芭蕉の句を呟いていたが、悲しい目もなんだかちょっと「弱法師」みたいな頭だし。

市場でこの「悲しい目」を見かけたナムスンは、早い話が、追っている相手に惚れる。んでもって、ふたり延々と決闘を演じるのだが、これが「ダンス」(主にタンゴ)なんだそうで。たまに決めポーズのまま、ワイヤーでどひゃ~~~と飛ばされたりするシーンもあって、なかなか綺麗に決めているドンウォンくんではあったが、さすがに飛んだ瞬間はどっかの奴隷さんを思い出して笑ってしまった。空中ポーズは体操とかダンスで出来た基礎の筋力がないことには、自然に見えないんだす。奴隷さんは、いつものケロケロなO脚のまま無防備に飛ばされていたっけな。ドンウォンくんは、いちおう舞踊らしいポーズなんだけど、やっぱ、ダンサーのようには180度開脚とは行かんしのう・・・・。
ジウォンちゃんのほうはジャズダンスのたしなみもあるようだから、なかなかがんばっているのだが、何せ、監督、ドンウォンくんにしか目が行っていない。客も見ているうちに、「それでこの話、なんだったっけ・・・・恋してるんか?この二人・・・」とケムに巻かれ、二人が結局どうなったかようワカランままに、終了~~~・・・

しかし、「台風」といっしょで、ドンウォンくんのファンが見るとやっぱり、「廃人」になるみたいなのである。韓国でも熱烈なる再上映の希望が寄せられたと聞いている。
う~~~む。どっかの新聞評に「カン・ドンウォンのプロモーション映画」みたいなのがあったが、たしかにジウォンちゃん肩無しである。気の毒に。
そんなわけで、とても美しく、スタイリッシュで、市場の描写など見ていてわくわくしたが、ドンウォンくんの熱烈ファンではなかった私は、「情け容赦なし」のようにきちんと納得しないままに終わってしまった。(あれもキム刑事の生死はその後謎なんだけども。)

ファンならば後を引くからこそなれる「廃人」にも、普通の目線ではなれないしのう・・・この事実はちょっと考えさせられた。キョンテク監督もつまりはシンに愛が余っちゃって、結局それっぱなしになっちゃったんだもんねえ。

そんなわけで、私がこの映画で一番反応しちゃったのが、黒幕ソン長官の「私はお前を愛していた・・・息子のように」というセリフっす。息子のように、は要らんでしょが、監督。へっへっへ。(お前の名前は何だったか・・・・お前の名前は・・・と何度も言いかけていたけど、結局何て名なんです?悲しい目。がるる・・・・)

Mamiya_1間宮兄弟企画、浴衣パ-ティー記念写真???
さて、お次。同じ日に見た「間宮兄弟」と「デイジー」(その前に「ダ・ヴィンチ・コード」も見たんだが、私が語るまでもない、超メジャー作品なので、パス。)

「間宮兄弟」(「家族ゲーム」の森田芳光監督作品)結構楽しく、笑いながら見ました。デイジーよりぜんぜん客が入っていて、この田舎のシネコンで、平日なのに、と吃驚。どうやら世間でも、口コミで広まったらしい。
一言で言えば、30代にもなって一緒に暮らしている、真面目なオタク兄弟の日常と、ほのかな恋を描いている。原作は江國香織。この人の化身みたいな兄弟のお母さんを
歌手の中島みゆきが演じて、良い味を出していた。

兄が佐々木蔵之介、弟がお笑いのドランクドラゴンの塚地武雅。(このひとは最近CMなどでも良く見るね。)
兄弟が30代ってのが悲しいくらい滲んでいるのが、きちんとシャツを中に仕舞ってる、タック入りのチノパン姿。一昔前のトレンディドラマの世界だす。
商店街を、じゃんけんして「グリコ」「ぱいなつぷる・・・」「ちよこれいと・・・」と真剣に歩き、二人並んで帽子被って部屋でナイター観戦。(ベイスターズのファンらしい。きちんとスコアを付けて分析している。)新幹線にやたら詳しくて、コーヒー牛乳好きの弟は小学校の校務員。(ほんとにいそう)兄は、背筋の伸びた、ビール会社の研究員。

商店街の薬局の「おばちゃん」で広田レオナがちょっと出ているが、「おばちゃん」かい。彼女がおばちゃんなら、当然こっちも年取ったんだな、ってもんだが、最近は妙に貫禄付いちゃって。じつは、このひとが「だいじょうぶ、マイフレンド」という映画でピーター・フォンダと共演しデビューしたころをほんのちょこっとだけ知っていた。もともとバレエ畑だった人で、酔って寝ている顔にしみじみ見とれてしまったものだが。いやほんと、女優さんて綺麗だなあ、と思った田舎モノの青春時代。あのころ二人は若かった。
そういえば、兄が勤めるビール工場の見学者たちの出てくるシーンに、昔の知り合い(多分間違いない。マスコミ関係の人。)を見つけて大笑い。何やってんだ?エキストラかい。(人のこと言えないわい。笑。)

いくら実の兄弟でも、普通なら別々の部屋を寝室(私室)にしていそうなもんなのに、隣り合って布団敷いて、真面目に反省会なんかやっては、幸せそうに寝ている。ほんとに身近にいたら、ちょっとキモイと思うが、(だって、ほら、いろいろ不都合も・・・)友達が、「そりゃ、韓ドラ意識してないか?」と言ったのが目からウロコだった。そういやあ、韓国ドラマや映画、男同士で一緒に住んでること確かに多い。実際もそうなのか?んでもって、なんでか布団並べて寝ていることもたしかにある。う~~~む・・・・(人間関係が濃厚なんだね。)

Daisy_1 デイジー、韓国のポスター
・・というわけで、興味のある方、肩が凝らずに見られてちょっとしんみりもする逸品なので、機会があったらぜひどうぞ。ちなみに、miyukiがとっても久しぶりに映画館で見た邦画であった。

しんがり「デイジー」これはどうしたもんだろうねえ・・・・。ここのお客様も、見た方は多いのでないかと思うが。
監督は、香港のアンドリュー・ラウ。脚本は、「猟奇的な彼女」のクァク・ジェヨン、主演クラスの俳優たちは韓国、舞台はオランダ。
チョン・ジヒョンちゃん扮する画家の卵、へヨンは、ある日広場で似顔絵の客として彼女の前に座ったジョンウに恋をする。そして、いつもデイジーの花を届けてくれる顔も知らない相手と思い込む。そのへんのくだりは、まあなるほどな、と思わされるのだが、いかんせん、イ・ソンジェ、地味だなあ~~~。彼はじつはインターポールの刑事で、アジアの麻薬密売組織のルートを追跡すべく、ヘヨンを張り込みに利用したのだ。しかし、だんだんと可憐な彼女に惹かれていくジョンウ。
で、デイジーの本当の贈り主、パクウィが、マッチョなウソンくんである。素性も明らかでない、プロの暗殺者。田舎の丸木橋から落ちたヘヨンのために新しく小さな橋を掛け、彼女が礼に残して行ったデイジーの花の絵を大切に飾り、音楽はクラシックが好き、住んでいるのは運河のボートハウス。オシャレなんだが、パクウィ、へヨンに対して殆ど、危ないストーカーにしか見えないんである。途中まで。(笑)どうしようかと思った。顔がウソンくんでなかったら、洒落にもならん。ちなみに、彼女に届けていたのは、彼が殺伐とした心を癒すべく、自ら水辺で育てた花である。
どうやら“そういう奴”なんだな、パクウィ。人と関わらず、孤独に影のように、淡々と依頼をこなす。

Uson_1マッチョなウソンくん。変った脇腹っすね。
広場の銃撃戦に巻き込まれ、声を失ってからのヘヨンは、やるせなくて研ぎ澄まされてて、美しい。姿を消したジョンウが忘れられず、パクウィの、でっかい忠犬みたいな朴訥な優しさになかなか心も開けない。
やがて組織の暗躍と3人の関係が絡まって加速するさまはそれなりに緊張感があって、面白いんだが、いかんせん、救いが無さ過ぎだあ~~~!!!!と思うのは私だけか?

オランダの田園や、古い街並みがある意味ドライに撮られていて、へんにクサくないのが好ましい。(日本映画だと、もっとメルヘンに撮りそうだもん。)
「ここは他人に無関心だから。」みたいなことをパクウィがいっていたか、ジョンウだったか(すんません、まだ一回しか見てないもんで・・・)この言葉で昔、知っていた舞台人が言った言葉を思い出した。
「どうもオランダでの舞台はいまひとつ観客の反応が鈍いような気がして盛り上らないんだが、そういう国民性らしいので・・・」というものだ。なるほどなあ・・・・。

「消しゴム」の時にも思ったが、ウソンくんのような「泣き」は、とっても女心の琴線に触れる。TVで、消しゴムが紹介されて、ウソンくんの涙シーンにウルウルになる女優さんの顔を何人も見た。そういう意味で、JDGの滝涙とは双璧か?(笑)

「消しゴム」だって、救いが無いと言えば無い話だったんだが、あれがヨン様の「四月の雪」の興行成績を越えたのは画期的だった。恋愛映画は、男の熱い涙と、「わかりやすさ」が命よね、の日本なんだな・・・・

というわけで、結局3本分書いたら、長くなってしまった。御付き合いに感謝・・・。

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2006年6月 6日 (火)

191日目・・・・ビニの除隊

【Written by miyuki】

このところ、何かと気の散ることが相次いで、文章が纏まらず霧散すること数回。とほほ。こういう事態に陥ることを、「フン詰まり」もしくは「腎虚」(じんきょ)と呼んで密かに七転八倒しているわけで。例えば約一ヶ月前に見た「デュエリスト」にひとこと書きかけては呆けが入り、「ダ・ヴィンチ・コード」と「デイジー」と「間宮兄弟」を同じ週に見ては、集中力続かず。ずっと発酵させ続けて、酸っぱく(え?)ナリ過ぎてるネタもあったりして。(情けねえ・・・)こら、文の書き方の方向性見直さないとね、などと思ったり。
 
そうしてやっと順番を頭の中で仕切り直していた所へこの、「ビニ、除隊」という事態。ひいい~~~~~~(ムンクの叫び)

06060414日春川国軍病院前でコメントするビニ。(スポーツ韓国より)
※1軍司令部公報室キム・キボン少領は「今日午前10時30分、ウォン・ビンを含んだ約80人に対する転役審査が開かれたことは事実。審査委員が現在会議を進行中であり、ウォン・ビンの除隊に対して、まだ決定していない」と語った。 1日午前に開かれた転役審査に対する結果だけでも公開して欲しいと話すと、キム少領は「ウォンビンの除隊問題は、2日午後最終決定する。それ以上確認できる内容がなく、通報も受けていない」と語った。陸軍公報室関係者も「まだ公式通報は受けていない。審査委員会で決定されても、1軍司令官の決済が行わなければならない。もし司令官の決済が行われたら、普通1週から2週間の間に、除隊が可能だ」と明らかにした。軍のこのような態度に対して一部では、芸能人の除隊に対する世論の反応をよく見るためではないかという推論も出ている。(6月1日のニュースより)

※去年11月入隊したトップスターウォン・ビンが、除隊対象者として事実上確定され、7日頃除隊する。陸軍関係者は昨日開かれた軍司令部転役審査委員会で「除隊に何らの問題がないことが判定され、今日軍司令官の決栽さえ受ければ、除隊することになる」と明らかにした。
除隊が最終決定されればウォン・ビンは、来週水曜日の7日頃除隊する見通しである。ウォン・ビンは部隊勤務中、膝十字靭帯が悪化し、手術を4月に受け現在リハビリ治療を受けているため、除隊を意味する5級判定を受けた。(同2日のニュースより)

0606042_6同じく病院へ入る姿。靴が普通の黒い軍靴でなくこういうスニーカーなのが傷病兵なんだな、と。(涙)松葉杖がなくても一応歩けるようだ。(左膝は固定されているとのこと。)
どうやら除隊になる見込み、となったころから、あちこちで妙な盛り上り方をしていた。アンチからか、ほかの「兵役中のスターのファン」からかわからないが、なぜこんな叩き方するかな、と心が痛くなる思いだった。

「入隊する前から膝に違和感があったが、兵役逃れと思われたくなくて、入隊を強行」云々。この入隊前からというくだりがどうもひとつ突っ込みのツボらしく、「計画的なんだろう」みたいな。
ビニはここにも書いたが、入隊数日前に仲間とサッカー三昧をしてへろへろになっている。スポーツが大好きだし、鍛えていたし、映画俳優、体をどこかしら痛めている人も多い。多少おかしいなと思っても、入隊時の映像を見る限り足を引き摺っているわけでもないし、本人ここまで悪くなるとは考えていなかったのではないだろうか。だいいち、計画して靭帯を切ったり出来るものでないだろうに。
それでなくともここ数年何かするたび兵役のことはいちいちセットで言われていたのである。詰めが甘いと言われればそれまでなのだが、怪我がひどくなってからも、原隊復帰をひたすら望んでいた。あの頑固なビニが固い決意をして赴いた最前線、何としてでも隠し通して、ちゃんと満期まで勤め上げたかったにちがいない。

0511入隊直前、取材での一こま。黒くて重そうな長い髪がなびくのが懐かしい。
「スタンドプレー」という話もあった。芸能人ならば、芸能兵として広報に携わるという道もある。実際そういう部署で働いている俳優さんや歌手もいる。入隊前、ビニが来るなら、と軍の方もちょっと色気を出したようだが、当人はきっぱり断って、しかも最前線を希望した。軍にいる間は、一韓国人キム・ドジン、俳優ウォンビンはいません、とも言った。そこまでしたのを、ほかの芸能兵などに対するあてつけのように言っているのは、ほかならないその人たちのファンだろう。たとえ公益勤務でも、兵役中はファンの前で芸能活動は出来ない。会いたくても会えない淋しさはわかるが、なんで愛が余ってそういうふうに歪むやら。視野が狭すぎる。だいいち本人たちだってそんなへんな庇いかたをされたところで、困ると思うのだが。公益の俳優さんの勤務先まで会いに行ってしまう、もしくはマンションでお見送りする日本人、まあ、ファンの道はそれぞれだけど、いっぺん考えた方がよくないか?ファンならば、会いたい、これは当たり前かもしれないが、自分たちの好きな人がまだ帰ってこないからといって、やつあたりする感情は怖い。
むしろ、頑張って勤め上げるその人を、誇りに思いなされ。(鼻息、荒っ。)

当のビニのファンの中にも、こんな話があった、公益勤務の俳優さんのファンと喧嘩した、というのだ。そのひとが、「会えなくなるわけじゃないからよかった。」と言ったのが腹が立って、「どういうことよ?」と言い返してしまった、というものである。
・・・う~~~ん。気持ちはわかる。わかるがしかし、ふと思う。
“好きな人は、となりの国の人”
日本に兵役は無い。兵役がなぜ必要なのか、日本人がこのことをじっくり考えることは有意義だが、私たちがその国の人間でない以上、某掲示版での目を覆うばかりのファン同士足の引っ張りあい発言なども、「何言ってんの?」である。ファンもこれを機に大人にならないとなあ。(無理かの。)ヨン様しかメジャーでなかったころとは違うのだ。

Dongwon ビニ入隊時、春川の補充隊まで見送りに来た仲良しの後輩カン・ドンウォンくん。彼も兵役はこれからのようだから、イロイロ悩んでいるだろう。
4日に春川国軍病院の前で「一緒に訓練した同僚たちにすまない。ファンにも心配かけて申し訳ない。」と短くコメントしたビニ、もとのように動けるまで一年くらいはかかるだろう、と言われている。除隊してもまずはリハビリだろうし。
気合を入れて行った本人も、待つ覚悟をしていたファンも、今は気が抜けてしまってどうなる?どうしよう?状態だろう。満期除隊予定だった来年の秋まで、世間には出て来ないかもしれない。
それでも構わないと思う。淋しいけれど。俳優としても、もちろん人としても人生、まだ先は長いのだからね。(兄さん、支えてやって頂戴ね。出番よ~~~他のお子を「ビン」と呼んでじゃれてるバヤイぢゃないでえ。笑。)

明日7日、除隊になる際に、なんらかの会見を行なうとされている。頑張れ、ビニや!

(※細々通ってるハングル教室に、こてこてヨン様カジョクの、「お品のいい、よくしゃべる」アジュンマが見学にやってきた。私なんかよりずっと真面目であるよ。きっとAだな。んでもって、萌え~~な人だぜい。来週からヨン様話かのお・・・。^^;)

*********************************

0606071除隊手続きを終えて、沈鬱な表情。(KBSニュースより)
■追記
さっそくあちこちに会見の様子が出だしました。もう、この状況ではこういうコメントしか言えないでしょう。・・・ビニや、よく頑張ったぞ!

―現在の心境は?
「この場に立っているということが気が重い。多くの方々が関心を持ってくださったが、このように除隊することになって、失望させてしまった。国民に申し訳ない」

―体の調子は?
「リハビリ治療を、ずっと受けなければならない。誠実に勤務を終えようと思ったが、約束を守ることができなくて気が重い。同僚たちを残して出ることになり、申し訳ない思いである」

0606072会見を終えて車に乗り込む姿。痛々しいっす。
―手術を受けることになったきっかけは?
「入隊前からたまに痛みを感じていたが、周期的な治療を受けなかった。軍で山岳駆け足や行軍をしながら悪化したようだ」

―芸能兵士の志願をしなかったことを後悔していないか?
「全くそのようなことはない。もちろん芸能兵士の志願は、意志さえあればできた。しかし入隊前国民との約束もあって、平凡に軍生活をしたかった」

―これからの計画は?
「具体的なことはない。しばらくリハビリにだけ専念する。僕のために遠くからきて下さり、お疲れ様です」
         (除隊手続きを終えて、病院前の一問一答。イノライフ・ニュースより)

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